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28 語らい

 アレクシスは与えられた執務室にいた。

 カーテン越しの冬の日差しは淡く差し込み、空気を切り裂くように細い線を作っている。磨き抜かれたマホガニーの机は光を受け、琥珀色に艶めいた。

 部屋自体は幼い頃から与えられていたものだが、これまでほとんど使ったことはない。公務は与えられず、学問は自室の机で足りていたからだ。今の執務室は私物も乏しく、どこかよそよそしい。だが、これからはここを拠点に変えていく。


 ノックがあり、従者が入ってきた。

「お連れしました」


 クラリッサと、いつもの学友たち。

 ――代々騎士団長を務める家の嫡男ルーベン・リントホルム。

 ――豊かな穀倉地帯を領する伯爵家の子息マティアス・グレンデル。

 ――貿易に強い子爵家の跡取りエーリヒ・ヴァレンツ。


 三人は揃って跪き、クラリッサが口を開く。

「――我らが皇国の太陽、アレクシス・アルブレヒト殿下に、敬意と忠誠を捧げます」

 その声は、ただの慣例ではなかった。

 彼女の胸に宿るのは、臣下としての誓いであり――ひとりの女としての、願いだった。

 クラリッサの声に従うように、友人たちも深く頭を垂れた。


 嬉しい。だが、同時に胸に寂しさも広がる。

 アレクシスは一拍おいて口を開いた。

「……楽にしてくれ」


 ソファに身を預けるアレクシスに、三人は並んで腰を下ろす。クラリッサだけが斜め後ろに立ち、背を守るように控えた。

 視線を上げたアレクシスに、彼女は柔らかな灰青の瞳で囁く。

「わたくしは、殿下のいちばん近いところにおります」


 胸が熱くなる。顔に血が昇り、アレクシスは慌てて正面へ視線を戻した。

「……そうか」

 友人たちは目を見合わせ、静かに微笑む。


 アレクシスは姿勢を正し、咳払いをした。

「俺……いや、私は玉座を目指すことに決めた。だから、お前たちはこれまで以上に私に侍り、仕え、助言をして欲しい。

 土地は広く、聖騎士団や聖女を抱える皇国を一人で治めるのは難しい。お前たちの力が必要だ。私の歩む道に――どうか手を貸してくれ」


 即座にクラリッサが答える。

「もちろんでございます」

 ルーベンは胸を張り、「我々も殿下をお支えします」と言い、マティアスはにこやかに「国の安寧に僕たちの知と財産をお使いください」と続ける。

 エーリヒも真剣な顔で、「殿下が必要とあらば、尽力いたします」と言葉を添えた。


 アレクシスは大きく頷いた。

「ありがとう」


 その後は一転して穏やかな談笑となった。

「それにしても、随分と殺風景なお部屋ですねぇ」マティアスが肩をすくめる。

「俺も久しぶりに入ったんだ。幼い頃、かくれんぼで忍び込んで以来かもしれないな」

 カラカラと笑い声が広がる。

 エーリヒが「うちの商会のカタログをお持ちしましょうか」と言えば、アレクシスは軽く笑って「あぁ、頼む」と答えた。


 クラリッサはそんな光景を微笑んで見ていた。

 声変わりを終えたアレクシスの低い声。

 王の覚悟を背負った背中。

 友と語らう時の温かな琥珀の瞳。

 そして未来を見据える時、黒に沈むように深まるその色。

 ――どれもが愛おしく、胸を焦がす。


「カーテンとクッションの色は決めてある」

「何色に?」とマティアスが問う。


 アレクシスははにかみ、口元を緩めた。

「灰青にする。俺が最も愛している色だから」


 背後のクラリッサは瞬く間に真っ赤になった。

 だが当の本人は気づかず、冬の光が差し込む執務室で、ただ未来を語り合う。

 窓から差す光は舞う埃を煌めかせ、若き彼らを祝福しているかのようだった。

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