24 玉座を望む
カエリウス邸。
いつもと違い、応接間の上座に座らされ、アレクシスは深呼吸を何度も繰り返していた。
背筋は伸ばしているのに、胸の内は落ち着かない。震えそうになる脚を、拳を膝に押しつけて必死に抑える。
下座からその様子を見ていたカエリウスは、どこか楽しげに目を細めた。
冷たい風が窓を揺らし、カタカタと小さな音を立てる。冬はすぐそこまで来ていた。
ノックの音が響き、従者に導かれて三人の重鎮が現れる。
聖光教会教皇グレゴリウス、宰相オイゲン・リューデル、財務卿リヒャルト・ヴォルフシュタイン――。
皇国を支える三人の賢人。
アレクシスとカエリウスは揃って立ち上がり、深く目礼した。
やがてそれぞれが席につく。上座にアレクシス、左手にグレゴリウス、右手に宰相と財務卿。カエリウスは下座に立ち、静かに見守る位置にいた。
アレクシスは一度大きく頷き、声を整える。
「お呼び立てしてしまい申し訳ありません。王城ではまだ差し障りがあるため、カエリウス殿下にこの部屋をお借りしました。どうぞお掛けください」
三人は音も立てずソファに身を預ける。その空気の重さに、アレクシスの喉はひどく乾いていた。
「ご存知でしょうが……私はアルブレヒト皇国皇王レオポルドの弟、アレクシス・アルブレヒトと申します。
兄の意向で、成人前は政治に関わるべきでないと、あらゆる場から遠ざけられてきました。
しかし今、皇王の玉座は大きく揺らいでおります」
言葉を止め、深く息を呑む。
閉じた瞳の奥で、恐れと決意がせめぎ合う。
再び目を開いたとき、その限りなく黒に近い琥珀色の瞳に宿る光を見て、教皇グレゴリウスは口角をわずかに上げた。
「私は――皇王となる。
私を信じて、支えていただきたい」
宰相オイゲンは思わず息を呑み、財務卿リヒャルトは眦をわずかに下げた。
静寂ののち、グレゴリウスが低く重い声を響かせる。
「王の道は険しいものですぞ」
アレクシスはわずかに笑みを作り、言い切った。
「それがわからぬほど、私はもう子どもではないつもりです」
カエリウスは言葉を挟まず、ただ微笑を浮かべ、まっすぐにアレクシスの瞳を見つめ続けていた。




