表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/41

21 覚悟の瞬き

 肌に触れる風が、ひときわ冷たさを増していた。

 アレクシスはカフェテラスへの道を歩きながら、片手に本を持ち、もう片方の手で無意識にシャツの襟元を引き寄せる。


 後ろから追いついてきた学友の一人マティアスに背中を叩かれた。

「殿下! あっ、本読んでる!」

 アレクシスは慌てて本を閉じ、脇に抱える。

「人から借りた本なんだ。急いで読んでいるところだ」

「なるほど」


 彼らの顔を見ながら、アレクシスの脳裏に浮かぶのは家系の記録だった。

 ――貿易に強い家、穀倉地帯を押さえる家、代々騎士団長を務めてきた家。

 それぞれが、知らぬ間に緻密に配置された駒のように、自分の周囲に集められていたのだ。

 後に思えば、その采配はクラリッサの家、ヴァルトハイム公爵の手によるものだと知ることになる。

 今はただ、それに気づけなかった自分の浅さを、痛烈に恥じた。


 手に抱えた本は、グレゴリウスに借りたもののひとつ。帝王学に関する書も混ざっている。

 頁をめくるたび、胸の奥に焦燥が積もっていく。――自分には、何もかもが足りない。


 やがてカフェのテラス席が見えてきた。

 落ち着いた青のワンピースを纏ったクラリッサが、学友らしき女性と談笑している。

 その姿を目にした瞬間、アレクシスは確信した。彼女こそが、自分に最も必要なピースなのだ、と。


 金色の後毛が風に揺れ、彼女の頬をかすめる。こちらを見てほしい。自分に気づいてほしい。

 ――願いに応じるように、灰青の瞳がふとこちらを向いた。


 クラリッサは柔らかく微笑み、そっと手を挙げる。


 ゴトリ。


 本が手から滑り落ちた。

「わぁ! 借り物の本なんじゃないの?」

 友人たちが騒ぎながら拾い上げる声が聞こえるが、アレクシスには微笑む彼女しか映らなかった。


 自分は、一人で王として立てるほど優秀ではない。

 だが――彼女と並ぶのなら。

 自分は王として立つことができる。


 覚悟を決めるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ