21 覚悟の瞬き
肌に触れる風が、ひときわ冷たさを増していた。
アレクシスはカフェテラスへの道を歩きながら、片手に本を持ち、もう片方の手で無意識にシャツの襟元を引き寄せる。
後ろから追いついてきた学友の一人マティアスに背中を叩かれた。
「殿下! あっ、本読んでる!」
アレクシスは慌てて本を閉じ、脇に抱える。
「人から借りた本なんだ。急いで読んでいるところだ」
「なるほど」
彼らの顔を見ながら、アレクシスの脳裏に浮かぶのは家系の記録だった。
――貿易に強い家、穀倉地帯を押さえる家、代々騎士団長を務めてきた家。
それぞれが、知らぬ間に緻密に配置された駒のように、自分の周囲に集められていたのだ。
後に思えば、その采配はクラリッサの家、ヴァルトハイム公爵の手によるものだと知ることになる。
今はただ、それに気づけなかった自分の浅さを、痛烈に恥じた。
手に抱えた本は、グレゴリウスに借りたもののひとつ。帝王学に関する書も混ざっている。
頁をめくるたび、胸の奥に焦燥が積もっていく。――自分には、何もかもが足りない。
やがてカフェのテラス席が見えてきた。
落ち着いた青のワンピースを纏ったクラリッサが、学友らしき女性と談笑している。
その姿を目にした瞬間、アレクシスは確信した。彼女こそが、自分に最も必要なピースなのだ、と。
金色の後毛が風に揺れ、彼女の頬をかすめる。こちらを見てほしい。自分に気づいてほしい。
――願いに応じるように、灰青の瞳がふとこちらを向いた。
クラリッサは柔らかく微笑み、そっと手を挙げる。
ゴトリ。
本が手から滑り落ちた。
「わぁ! 借り物の本なんじゃないの?」
友人たちが騒ぎながら拾い上げる声が聞こえるが、アレクシスには微笑む彼女しか映らなかった。
自分は、一人で王として立てるほど優秀ではない。
だが――彼女と並ぶのなら。
自分は王として立つことができる。
覚悟を決めるんだ。




