18 覚悟を問う瞳
夜空に大輪の花火が咲いては散り、また咲いては消えていく。
その光を横目に、アレクシスはクラリッサを見た。
昼間、豊穣祭で笑っていた少女のような瞳ではない。
そこにあったのは、凛とした強い意志を宿した瞳だった。
「クラリッサ嬢……教えてくれ。今、何が起きている」
掠れた声が漏れた。
胸の奥に広がるざらついた不安が、喉を塞いでいく。
クラリッサは真っ直ぐアレクシスを見返した。
その灰青の瞳は、まだ覚悟を定めきれない少年の迷いを映しながらも、逃げようとしない彼の意志を見逃さなかった。
「恐れながら――陛下の専横が過ぎたのです」
「兄上の……?」
声が震えた。
信じ難い現実が、胸の奥で鈍く軋む。
「聖騎士団は教会に属するもの。それを陛下は奪い、戒律をねじ曲げ、教会を我が物にしようとなさいました。
皇国の顔である大聖女様さえ例外ではなく……日頃から、虐待に近い扱いを受けておられたのです」
アレクシスの胸に冷たい刃が突き立つ。
脳裏をかすめたのは、王座に座る兄王の背中。
幼い頃から届かないと思っていたその背が、今はひどく遠く、重く見えた。
「……兄上が」
「教皇グレゴリウス猊下は、反旗の時を待っておられたのでしょう。おそらく――きっかけを作ったのは、カエリウス殿下です。
結果として、教会組織を皇王陛下の手から取り上げることに成功したのです」
アレクシスの頬から血の気が引く。
冷たい風が、肩を撫でていった。
胸の奥で何かが音を立てて崩れるのを、ただ感じることしかできなかった。
「国は……国は、どうなる」
クラリッサは一度だけゆっくりと息を吐き、静かに告げる。
「教皇猊下も宰相閣下もおられます。しばらくは、陛下がただのお飾りであっても国は持ちましょう」
「……持たなくなる時が、来るのか」
問いに答える代わりに、クラリッサは跪いた。
驚くアレクシスを仰ぎ見て、灰青の瞳を真っ直ぐに向ける。
「アレクシス殿下」
「クラリッサ……?」
「わたくしは信じております。貴方こそが、この国の王となるべき方であると。
どうか――ご覚悟を」
風が止み、花火の音だけが響く。
強く輝く瞳に見上げられても、アレクシスは何も返せなかった。
唇が乾き、指先が冷たく、胸の奥だけが熱い。
まだ、覚悟などできていない。
それでも――何かが動き出したことだけは、確かに感じていた。




