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16 追放の行進

 高台の噴水公園には、人影がほとんどなかった。ぐるりと腰の高さの鉄柵で囲われた公園の中には池と優美な噴水があり、白いベンチがそれを取り囲むように並んでいる。鉄柵の向こうには王城のバルコニーや聖光教会の塔がよく見えた。


 陽が傾き、空は赤みを増している。アレクシスは鉄柵にもたれ、遠くにそびえる王城を眺めた。

「……俺も、再来年にはあそこに立つんだろうな」

「そうですね。十八歳の成人まで、あと少しですわ」


 街は喧騒に包まれているのに、この場所だけは不思議と静謐で、どこか幻想的だった。陽の光に照らされたクラリッサの横顔に目を奪われる。宝石のように澄んだ瞳が、彼を惹きつけて離さない。

「成人したら……やっと結婚できる」

 驚いたように、灰青の瞳がこちらを向いた。

「……ですが」

「解消はしない。絶対に。俺はクラリッサ嬢と結婚するんだから」


 まだ彼女の手は繋がれたままだ。その温もりに、アレクシスは望みを賭けた。


 ――その時。


 王城の東の方角から、鋭いざわめきが届いてきた。

「……何だ?」

 不安に駆られ、繋いだ手を強く握る。


『イレーネ様は大聖女に相応しくない!』

『大聖女を追放せよ!』


 地を震わせるような声が、風に乗って広がった。人々の怒声が一つに重なり、大きなうねりとなって行進していく。


「なぜ……? イレーネ様は慕われていたはずだろう」

「……そうです。大聖女イレーネ様は民から愛されておりました。だからこそ、なのです」


 クラリッサの声は落ち着いていた。その理知的な瞳がアレクシスを捉える。

「……クラリッサ嬢は知っていたのか?」

「いいえ。噂に過ぎませんでした。この光景を目にして、確信に変わっただけです」


 群衆の波はやがて聖光教会の門前にたどり着いた。門は固く閉ざされていたが、その前に聖職者たちが整列している。人々の怒号は次第に鎮まり、静寂が訪れる。


 やがて、大司祭が姿を現した。掲げられた高い旗が風にはためく。


 ――地響きのような歓声。


『行きましょう! いざ、王城へ!』


 大地が揺れるような熱狂の声に、アレクシスは息を呑んだ。

 何が起ころうとしているのか――その胸に恐怖と興奮がないまぜに広がっていった。

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