12 秋風の茶会
定例茶会。今日は強い日差しを避け、王城の一室が会場となった。
大きな窓から吹き込む風は少し冷たさを帯び、カーテンを揺らして秋の訪れを告げている。
テーブルの向こうで、クラリッサが優雅にカップを置いた。
ほっそりとした指先、背筋の通った姿勢。淡い金色の光を映す髪はきっちりと結い上げられ、どこか凛とした静けさを纏っていた。
アレクシスは、そのたたずまいを一瞬だけ見つめ――慌てて目を逸らした。
「殿下、試験はいかがでしたか?」
「やれるだけのことはしたつもりだが……まぁ、いつも通りだ」
「十分ではありませんか」
灰青の瞳が真っ直ぐにこちらを捉える。
けれどその視線の奥に、どこか遠いものを感じる。
アレクシスは唇を噛んだ。自分はまだ“並び立つ存在”として見られていない。
栗毛の髪を後頭部で一つに結び、細身の少年らしい体に制服がわずかに大きく見える。
彼の人懐こい笑みはいつもなら場を和ませるが、このときばかりは苦く滲んだ。
「この間の……」
「はい?」
クラリッサが続きを待つように小さく相槌を打つ。
「……俺が助けたかった。何もできなくて、悔しかった」
「……?」
クラリッサが小首を傾げる。どうやら思い当たらないらしい。
「君は、男に手を握られていただろう!」
「あぁ……あの件ですか」
ようやく気づいたように、クラリッサは軽く目を伏せた。
まつ毛の影が頬に落ち、淡い笑みを浮かべて言う。
「ですが、カエリウス殿下に助けていただきましたので。大丈夫ですわ」
口調は淡々としているのに、瞳の奥にはかすかな翳りが差していた。
(大丈夫じゃないだろ……)
胸の奥が締め付けられる。
どうして、自分の想いを言葉にできないのだろう。
クラリッサは少しだけ柔らかな微笑みを見せた。
「ですが……殿下がそのように思ってくださったこと、わたくしにとっては何より心強うございます。どうか殿下は殿下らしくあってくださいませ。わたくしのことは……心配なさらずとも、わたくし自身で乗り越えます」
(支えられたいんじゃない……俺が支えたいんだ!)
叫びたい気持ちを飲み込み、アレクシスは無理やり笑みを作った。
「……もうすぐ豊穣祭だな。迎えに行くから、一緒に見てまわろう」
「え?」
「もう、公爵家にはそう知らせてある。楽しみだな」
「……はい」
伝えたいことは一つも伝えられないまま、会話は途切れた。
窓辺のカーテンだけが、秋風に揺れ続けていた。




