EP12魔族を歌った少年
これは少し過去のこと-魔境付近の峡谷-そこにはひっそりとした町があった、どこの国にも属さない、言ってしまえば超小国家的な町が。
「あっちから魔王軍が来たぞ!」
「なんだって!?本当かルード!」
「嘘だよバーカ!」
「はぁ?」
そこには、一人の嘘つきな少年がいました、彼はいつも嘘をついて、人々を困らしていました。
「ははは!馬鹿だなぁ」
その男は、結局どうなったでしょうか?そう、死んでしまうのです。
「ぷっぷははは!あーっはっはっは!」
それは魔王軍から派遣され、思考系統属性の魔法に優れた記憶の改竄者、その真の正体は、魔族だったのだ。
「まさか死んだとでも?あひ、あははは!あーっはっはっはっは!」
「な!?お前ぇぇぇ!」
そう、魔法を使わない経験的な植え付けによる、魔王軍が来たと言っても嘘だと思われる様に馴染んで行くのだ-そして。
「ウギャァァァ!」
「ひゃっはー!まさかあの峡谷がこんなに大量の軍隊の侵入を許しちまうとわなぁ!」
こうした策謀に長ける魔族により、内側から侵入を許した国は滅びていった、魔王軍と人類の領域が拮抗して初めて、勇者は誕生する-勇者誕生の序章、未来に約束された結果-時は現在、勇者はと言うと。
「勇者様!国境付近に強力な力を持っていると言う魔族が!(しめしめ、今代の勇者を我が討ち取ってやる)」
少年に完璧に偽装し、魔力も完全に制御した、過去に幾つもの弱国や町を滅ぼして来た嘘つき魔族が勇者を狩に掛かった。
「、、、お前」
「は、はい、なんでしょうか?」
「(いやこいつ、魔族じゃね?人に変装してる、悪意を微妙に感じる、いたずら好きの小悪魔的なやつか?)いやなんでもない」
あまりにも甚大な実力を有するようになったヒロは、本来ならば冷や汗が出る様な悪意を欠片程度にしか思えなくなっていたが相手がどんな存在かは余裕で見抜いていた。
「ついて来てください、こっちです!」
こうしてヒロは、相手の罠にまんまと釣られていくのだった。
「(ぷぷぷ、引っかかったな!)死ねぇい勇者!」
瞬間、記憶系統属性魔法で勇者のあらゆる記憶を消しに掛かった、筈なのだが。
「何かしたのか?」
「な!?」
単純な実力の差に関してもそうだが、魔法を喰らって影響を受けたところで大事な記憶はあまりにも深く根付き過ぎて取れず、それ以外のどうでも良い記憶は取ったところで無意味・無価値なのだ。
「なぁ!っふ、ふははは!はぁ〜っはっはっはっは!すまないな今代の勇者ぁ!僕は嘘つきなんだよ!」
「もうすでに気づいてるよ」
「なら何故俺を殺さない?」
「ん?お前人間じゃないのか?」
「は?」
彼が発した言語が真か偽かの二つの真理値か、はたまた、仮定を排斥し、否定または置き換えるなんて思考ははなから無く、そんな低次な二分を飛翔した頭脳は、眼前のパラドックスを調和し、嘘つきは嘘つきで在りながら正直もので在ると言う二重性を当たり前に許容していたのだ。
「は!?」
「ん?」
もはや経験の積み上がったヒロにとって、人間か魔族かの差異は視覚的設計だけで、非言語的で直感的なヒロの思考回路において、悪そうや善そうくらいの違いしかなかったのだ。
「(馬鹿にしやがって!)」
無意識的ながら魔族のプライドをズッタズタに引き裂いていたのだった。
「(落ち着け、今やるべきことは、怒りに任せて勇者に無駄死に特攻することじゃない、討伐が絶望的に不可能なら話は別だ!)」
「それで魔王軍は?」
「あ、あぁ見間違いだったみたいです」
「、、、ぷっははは、は〜っはっはっは!」
「な!?なんですか?」
「顔の筋肉の動かし方、皮膚に若干のズレもなく、口調や息づかいも平均的な少年の処理能力と同じ程度の生理機能、だがお前は間違えた」
「は?」
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、気づくと魔族は自身が首だけになっていることに気づく。
「一体いつから、魔族のお前が俺に虚構道筋が完成出来ると思っていた」
「あ、が、あぁぁぁ(俺はなんて化け物を相手にしてしまったんだ)」
「嘘の始まり、完璧な欺瞞、その作戦は始まりと同時に俺が計算に組まれた時点で完全に破綻し始める、もし仮に俺以外に対する虚構道筋なら、騙しきれていたかもな」
「、、、」
「あぁ、すでに死んでるか」
勇者になってから1週間と数日、その刻、もはや勇者には人間性や感情の境界が曖昧になっていた-つまれた経験、選ばれ抜かれた気質、もはや壁が無く、孤独感に満ち溢れていた状況だったからだ-時間経過に比例して今代の勇者の情報が浸透していく、ヒロは、勇者と言う象徴の中心に据えられる自身とは異なるアイデンティティに腹立たしい感情が湧いていた。
「、、、一人は孤独だ、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか居ないのか」
孤独の中心にいながら、勇者は無限にも思える実力を有していたのだった-自身の高すぎる潜在能力は自身の勝利への否定を否定し敗北をもたらされる事はなかった。