表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

逢ひ見ての〈三〉

「今度は、ちゃんとおもてなししますって、約束したからね。」


 そう言って悪戯っぽく片目を瞑り、暁人は自宅の扉を開いた。

 ベランダの窓を開けて、紗月を外に促す。僅かに湿気を孕んだ夜風が、紗月の頬を撫でた。


「ここが、特等席だよ。かけて待ってて。何か飲み物を持って来よう。神谷さんは、お酒は大丈夫かな。」


「ありがとう、ございます。大丈夫です。」


(すごい、本当に特等席だ…)


 紗月はベランダの手摺にもたれて、あたりの景色を見渡した。前回来た時には気付かなかったが、河原の方が良く見渡せる。これなら花火も遮るものなく楽しむことが出来るだろう。

 既に太陽は沈み、西の空にわずかなグラデーションを残し、一面深い青に染まっている。


「ブルーモーメントですね。」


 シャンパングラスとボトルを手にして戻って来た暁人が、紗月の心を読んだかのように言った。


「…私も、同じこと考えてました。先生にお借りした本に、載ってたなって…」


「あともう少しで始まると思いますよ。呑みながら待ちましょう。」


 そう言って、いくつかの摘みやすいオードブルやフルーツも持って来て、ベランダのテーブルに並べていった。並んだグラスに金色の細かい泡が立ち昇り、否応なく期待が高まってゆく。


「これ…先生が作ってくださったんですか?」


「うん。料理は結構好きなんだ。お口に合うと良いけど。どうぞ、召し上がれ。」


 プロ顔負けかと思うほどの美味しい料理が呼び水となり、お酒もついつい進む。あっという間にほろ酔いになったところで、開会を告げる一尺玉が鮮烈な音と光を放った。


「わあ……!!」「始まりましたね。」


 思わず立ち上がり、手摺にもたれかかると、暁人も隣に陣取った。次々と上がる色とりどりの花火に、二人して眼を奪われる。


「綺麗……」


 一瞬の閃光を煌めかせながら、無数の光の尾が夏の夜空を泳いでいく。その儚き明滅の芸術に、二人の間を心地良い沈黙が包む。肩を触れ合わせながら、しばらく見入っていた紗月だったが、ふと隣を見上げて唇を尖らせた。


「…先生って、結構意地悪ですよね。私が東雲先生のこと、いろいろ話すの聞いて、面白がってたんでしょう?」


「面白がっていたというか、嬉しかった…んだと思います。」


 ふわふわした高揚感に任せて、少し愚痴をこぼした紗月に、心外だ、と言わんばかりの顔をして暁人は返した。少し着崩れてはだけた首元から、綺麗な鎖骨が僅かに覗く。


「もう少しこのまま、ストレートな愛情表現を聞いていたいな、と思うほどには。」


 言いながら、暁人の右手が頬に触れた。


「――愛っ、、」


 紗月の頬にかかる後毛(おくれげ)を掬って、耳の後ろにかけ直す。触れる指先から(ほとばし)る電流が、紗月の肌を粟立たせた。


「……だって、僕のこと大好きでしょう?神谷さん。」


 揶揄(からか)い混じりの笑顔を浮かべ、楽しそうにこちらを見つめる暁人。思わず息を呑んだ紗月の頬が上気していたのは、飲酒のためだけではないことは明白だった。


「…気づいてたんですか。」


「…僕の自惚れでなければ。君の眼差しが、そう語りかけてくれていたから。…違ったかな?」


「…ちが、わない、です…」


 恥ずかしさに一瞬顔を背けると、金色の光の華が次々に咲いた。意を決した紗月は、もう一度暁人に向き直る。


「先生のことが、好きです。暁月先生も、東雲先生も。」


「ありがとう。僕も、貴女のことが好きですよ、紗月さん。」


 暁人の右手が再び頬にかかったかと思うと、親指が紗月の柔らかな唇を撫でた。打ち上がる笛音が途切れた刹那、微かな衣擦れの音が耳に届く。

 七色に光り輝く大輪の華を背景に、二人の唇が重なった。


ちょっと力尽きたので、ここで完結とさせていただきます…。夢の話を膨らませただけなのに結構頑張った…。

気が向いたら続きを書く…かも?

お付き合いありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ