終わらない待ち時間
待てど暮らせど追加の子供は来ない。気付けば夕方で、本当に二時間待たされている。
「もう直ぐだからね、ごめんね」
二時間わたしに付き合ってくれたお姉さんは、暇つぶしの本を用意してくれたり、ボードゲームに誘ってくれたり、とても良いひとだった。
「家族に連絡が通っていれば大丈夫です」
「ちゃんと連絡しているわ。安心して」
「ありがとうございます」
頭を下げれば、ニコッと笑みをくれたあとで、わたしの顔色を伺う。
「具合は悪くなっていない?」
二時間、何度も問われた言葉だ。
「大丈夫です」
「そう。少しでも変だったら言ってね」
もしや王城には毒でも撒かれているのだろうか。
けれどわたしの体調に変化はない。
「ありがとうございます」
「本当に大丈夫そうね」
お姉さんがほっと息を吐いたところで、部屋の扉が叩かれる。
なんだか懐かしい気すらしてしまうおじさんに、連れられて来たのは十人ほどの子供。わたしと同じように、ここで待つように言われている。
「あら」
おじさんが出て行ったあとで、子供の中のひとりが声を上げた。
「レニったら、こんなところにいたのね」
「ベラ」
幼なじみの友人の姿に、笑みが浮かぶ。
「美味しそうなもの貰っているわね。わたしも貰えるのかしら」
わたしと同じく伯家の娘だけれど、こちらは稀代の天才ともてはやされる魔力の持ち主だ。
「貰えるけど、先に手を洗わない?」
「そうね。そうしたいわ」
「ご案内致します」
ベラをお手洗いに誘えば、出来るお姉さんがすかさず案内を申し出てくれる。お姉さんに先導されて、ベラと並んでお手洗いへ向かう。当たり前のように、ベラはわたしの手を取った。ベラは触りたがりだから、いまさら気にすることもない。
「レニ、随分くつろいでいたけれど、どのくらい待っていたの?」
「二時間」
「まあ!」
目を見開いたあとで、ベラはお疲れ様と労ってくれた。
「ベラたちも、すごく歩いた?」
「え?そんなに歩かなかったわよ」
やっぱり、底辺差別はあったらしい。
「えー。わたしは二時間近く、歩いたり待たされたりで座れもしなかったよ。そのあとに、あの部屋でやっと座れて、そのまま二時間」
「災難だったわね。でも、王城としても予想外だったでしょうから、仕方ないわ」
わたしに言ってから、ベラがお姉さんに顔を向ける。
「レニはわたしの友人なの。幼い頃からずっと一緒で、だから、このくらいはなんともないのよ」
お姉さんは振り向いて、なぜか目を見開いた。
「そ、う、だったのですね。先にわかっていれば、こうもお待たせせずに済んだのですが」
「そうね。わたしから、申し送りしておくべきだったわ」
なんの話だろう。
首を傾げていれば、レニは気にしなくて良いのよ、と頭をなでられた。どう言うことかと問いたかったが、丁度お手洗いに着く。
話は中断してお手洗いを済ませ、もう一度化粧も直して貰って、部屋に戻る。
「レニは食べないの?」
「もう十分食べたの」
なにせ二時間待っていた。それに、好きなだけ食べて良いと言われはしても、食べ過ぎて夕食が入らなくなれば、家で叱られることになる。
「そう。美味しいわね、これ」
「うん。すごく美味しかった」
お菓子は食べないけど、お茶なら良いだろうと、カップを傾ける。
完全に気を抜いたわたしたちふたりとは対照的に、ほかの子供たちはガチガチに固まっている。
そんなに緊張していては、もたないだろうに。
「あの」
見かねて、声をかける。さすがにこの緊張振りでは固形物を口に入れるのは辛いだろうが。
「せめて座って、お茶を飲みませんか?温かいものを口にすれば、多少楽になるかもしれませんよ。もちろん、無理にとは言いませんが」
「座ったら立てなくなりそうなら、どの道この先には行かない方が良いわよ」
わたしに続いてベラが容赦のない言葉を吐く。
まあ確かに、王様の前でやらかしたらまずいから、ある意味優しさだろう。
「座りますわ。お茶も頂けるかしら」
ベラの言葉に令嬢のひとりが動く。一度こちらに近付いて、けれど最終的には、かなり離れた位置に座った。ほかの子たちも、その子に続いたので、ベラとわたしだけ仲間外れな構図だ。もしかしてこれも、底辺差別だろうか。
「ベラはあっちに行っても」
「冗談言わないで」
ベラまで巻き添えは申し訳ないと思ったのだが、鼻で笑われてしまった。
そのままベラと雑談して、半時間ほどだろうか。
また、扉が開かれる。
「移動の時間よ。長い間待たせてごめんなさいね」
「いえ、お茶、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「いってらっしゃい」
仲間外れ後もずっとわたしたちに付き合ってていくれたお姉さんが、微笑んで手を振ってくれたので、手を振り返して部屋を出る。来た道ともお手洗いへの道とも違う扉だったが、先にあったのはまた長い廊下だった。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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