保護者代理に囲まれて
「朝早くから突然の訪問、申し訳ありません」
もう見るからに仕事が出来そうで、要職に就いていそうな男性は、そう言って丁寧に頭を下げた。服装はビシリと決まっているが、顔には隠しきれない疲労が滲んでいる。もしかすると、昨晩はほとんど眠れていないのかもしれない。
「レニ・メレジェイ嬢に王城まで足をお運び頂きたく、お迎えに参じました」
「と、言うことだけれど」
わたしの横に座ったベラの父が、わたしを見下ろして優しく微笑む。
「レニはどうしたいかな?なにせ、不躾な呼び出しだからね、嫌なら断っても構わないよ」
普段、わたしのことはレニ嬢と呼ぶベラの父から、突然呼び捨てにされて、目をまたたく。
「そんな」
それでもどうにか、答えを返した。
「ここで断ったりすれば、小父様まで王家の不興を買ってしまうでしょう?」
「構わないよ。レニは三人目の娘のようなものだからね。昨日の疲れも残っているだろう。無理せず休んで良いんだよ」
「そうよレニちゃん」
ベラをはさんで、ベラの父とは逆隣に座ったベラの母が、同意を示す。ベラとふたり手を繋いで並んで、ベラの両親に挟まれた構図は、なるほど、愛娘ふたりと両親の図に見えなくもない。ベラとわたしは同じ色のドレスなので、余計に。
「せっかく可愛いお洋服を着たのだもの、今日はお庭でお茶会にしましょう?」
つまりこれは、モルガン家とわたしの親しさを示すための、茶番だ。いくら伯爵家としては力を持つ家と言っても、安易に王家に喧嘩を売りはしない。
だからわたしの口にすべき最適解は。
「いえ、再度召喚されるとしたら、わたしの家からになると思うので、それなら今日行ってしまいたいです」
うちではおそらく、王城官吏とまともに相対せる者がいない。服だって、今着ているものより上等なものはない。残念ながらそれが事実で、歴然とした家の力の差だ。
もうわたしは、ベラと幼なじみになれた幸運を神に感謝すべきだろう。寄親も違って、これだけ家の格に差があって。普通なら、出会っていなくておかしくない。
「ただ」
言って、伺うように視線を走らせる。
「わたしひとりで行くのは不安で……」
「ああ、もちろん。レニが行くなら私たちも一緒に着いて行くよ。ひとりで行かせたりしないから、安心すると良い。不躾な召喚に応じるのですから、それくらいは構いませんよね?」
最後の問い掛けは、相対する男性官吏に向けてだ。
「私たち、とは」
「私と妻、それから、娘のマリアアンとマリアベラです」
さらっとマリアアンまで数に入れる辺り、力ある家の主人らしく、したたかだ。
「そこまで、大人数は」
「ではせめて、私とマリアベラだけでも」
すかさず畳み掛けるように、そう提案するところも。
ベラと繋いだ手に、力をこめる。ベラが、ハッとしたようにこちらを見て、気遣うような顔で握り返した。
「大丈夫よ、レニ」
顔を寄せて、小さな声で囁く。
「わたしがいるわ」
そんなベラに、すがるような目を向ける。
見た目の印象として、ベラは大人っぽく、わたしは幼い。同い年ではあるが、並べばベラが姉でわたしが妹のようだ。
姉に手を引かれなければ歩けもしない、甘ったれの妹。
おそらく、目の前の男性官吏にもそう見えただろう。
昨日も王城で合流してからは、ひとりで歩かなければいけない王様との謁見以外は、ずっと一緒だった。ベラは、自分が終わっても、待っていてくれたくらいだ。
もしかしたらそこから、ベラの仕込みだったのかもしれない。
「……ずいぶんと、仲がよろしいのですね」
「レニはマリアアンとマリアベラの恩人ですからね。家族一同、感謝してもしきれないほどに感謝しています。そうでなくても、マリアアンともマリアベラとも親しくしてくれる、唯一の同年代の女の子で、我が家にとっては、もうひとりの娘のようなものです」
「なるほど」
男性官吏の視線が、わたしとベラの繋がれた手に注がれる。デイドレスのベラは、ショートグローブを着けている。おそらく服も手袋も、魔力遮断のもの。
それでも、本来であればわたしとベラの魔力差なら、手を繋ぐなどとんでもないのだろう。
彼から見ればベラの手はわたしを殺す手。だと言うのにわたしはその手を、まるで命綱かのように握り締めている。
「魔力計測だけでなく、実際に全員を城まで呼ぶと言う多大な労力を掛けた価値があったようですね。もし、魔力計測だけで足切りしていたならば、レニ嬢は見付けられませんでしたから」
男性官吏は微笑んで、ベラの父へと目を向けた。
「モルガン伯とマリアベラ嬢の同行を許可しましょう。その条件なら、王城へお越し頂けますか」
最後に問い掛けたのは、わたしとベラの父に対して。わたしのことでわたしを蚊帳の外にしない気遣いと同時に、十二歳の子供に判断の責任を持たせない良識もある方のようだ。
「はい」
「くれぐれも、レニとマリアベラを引き離すことがないようにお願い致します。それを約束して頂けるなら、ご協力致しましょう」
「王家も、モルガン伯家を敵に回そうとは思っていません。今日の王城で、マリアベラ嬢をレニ嬢から引き離すことは決してしないと、お約束致しましょう」
その判断が即座に出来る、と言うことは、彼がこの場を切り抜けるために適当なことを言っているのでなければ、彼はそれなりの権限を持つ人間であることの証左だろう。
「ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、無理なお願いをお聞き入れ頂きありがとうございます。早速ではございますが、お越し頂けますか」
とん、とベラの父の手がわたしの背に触れる。
「はい。わかりました」
差し出されたベラの父の手を取り、立ち上がったベラに手を引かれて立ち上がる。まるで、お姫様にでもなったかのような、否。
こちらを見つめる男性官吏を見て、思う。
彼は未だ、核心的なことはなにも言わない。だから、この呼び出しの本質をわたしはまだ知らない。
しかし。
「馬車はこちらで用意してあります。護衛も十分に」
用意された馬車は、見たこともないような立派な、六頭立ての馬車だった。四人乗りのその馬車の、進行方向を向いた席に、ベラと並んで座らされる。ベラの父が向かいに座り、ベラの父の従者と男性官吏、それからその部下らしき男性ひとりが、馬車の後ろのステップに立った。
「……」
「彼を従者代わりに立たせられる人間が中にいるのだと、対外的に示しているだけだ。レニが罰せられることはないから、そんな不安げな顔をしなくていい」
「ええと、はい。ありがとうございます」
誰の地位を、示すかなんて、聞くまでもない。彼は、わたしを喚びに来たのだと言ったのだから。
「わたしがもし、とんでもなくやんごとない身分になっても、友達でいてね、ベラ」
もしも本当に、わたしが王様のお妃になるとしたら、与えられる地位は王后陛下もしくは王妃殿下。お姫様どころではない。太后様に次ぐ、この国女性の次席に着くことになる。
「言われなくても、当然じゃない、レニ」
どんな感情を抱いて良いか迷って呟けば、ベラは笑って手を握り返してくれた。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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