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傲慢の先にあるもの

作者: 如月ふたば

 大学時代に親友として選んだ京子から、「久しぶりに会いたい」と連絡があった。

 


 出会った時には既に抜けの目なかった京子は、就職も勝ち組だった。

 私とは違い、いわゆる一流企業に就職したのだ。


 私は、なかなか思い通りに就職が決まらなかった。

 結局、世間的に必要かどうかよく分からない、しがない会社に仕方なく就職。

 

 そんな風に大学卒業後に別々の道を行くも、数カ月に一度は二人で出掛けることだけは続いた。



 大学時代もそうだったが、私たちには男女問わず誰もが知り合いになりたがった。

 仮に二人で食事をしていれば、店で知り合った男が喜んで支払う。

 二人で買い物へ行けば、美しくない女たちが私たちを羨望の眼差しを送った。



 京子と私の何が違うというの?

 私が彼女を親友に選んであげたというのに、彼女が私より良い会社に勤めているなんて。

 信じられなかった。


 そんな思いを抱えながら、曖昧に転職を考えていたころに京子が結婚を決めた。

 

 親友の結婚相手は、冴えない太ったつまらなそうな男。

 ちょっと稼ぎはあるみたいだけれど、仕事も大したことないみたいだし。

 あんな男を選んだ京子と、私は少しずつ疎遠になっていったのは当然だろう。


 

 京子と会うのは彼女の結婚式以来だから、一年以上前となる。


「大学の近くに、新しいカフェが出来たの。ねぇ久しぶりに会わない?」

 暇だということもあり、私は彼女と会ってあげることにした。



 京子は待ち合わせのカフェに先に着いたようだった。

 店に入り彼女の座っているテーブルに向かう私は、会計を終わらせたカップルとすれ違った。

 

「相変わらず美香は綺麗だから、あの男の子振り返ってたよ」

 席についた私に、京子が揶揄うように笑う。


「急に呼び出してごめんね」と、柔らかく微笑んだ。

 私の知っている京子の笑顔じゃない。

 田舎くさい雰囲気すら醸し出している。

 

 ありきたりな世間話をしていると、京子は何度かお腹に手を当た。

「もしかして」私がお腹に添えている手を見ながら言うと「そうなの」と照れたように京子は言う。


「なんだ、先に教えてくれていたらお祝いを持ってきたのに」

 私の言った話が口先だけと、理解していなさそうな京子。


「美香に話すなら直接言いたくて。と、思ってたんだけど会っただけで嬉しくなってきちゃったの」

 そう言って、彼女は運ばれてきたハーブティーに口を付けた。


 なんてつまらなくなったの。本当に下らない女。


 私は早く帰りたくなった。

 こんな女を親友として選んであげていたなんて。


 私の考えていることとは全く違ったことを考えているらしい京子。

「あのね、美香と過ごした時間のお陰でわたしの今の幸せがあるの」


 適当に話をして、京子のつまらない幸福らしい話にも相槌を打ってあげた。

 もう良いかなと「そろそろ」と私が言う。


「あ、そうだよね。ごめんね一人でずっと話しちゃって」

「ううん、楽しかった。体に障らないように過ごしてね」

 私の気遣う様な素振りを信じたらしく、またあの田舎くさい笑顔をした。

 本当に下らない。イライラする。


「あ、来月の連休に主人の友達とかと、バーベキューをするつもりなの。

 良かったら美香も来てくれない?

 やっぱり、美香といると楽しいし、また、」

「うん、考えておく」私は京子のバカバカしい提案を遮りカフェを出た。



 小さな苛立ちを解消すために、カフェから一本道を入ったところをブラブラすることにした。

「何この貧乏くさいスーパー」

 いくら寂れているからと、売っているものに大差はないだろうと夕食用のお惣菜を買うために入っていった。


 見た目通り繁盛していない店内。

 老夫婦が一組、のんびりと歩いている。

 彼らを追い越しざまに気づいたのは、京子のまとっていた私を不愉快にさせた雰囲気。

 貧乏くさくて田舎くさくて、面白味のかけらのないアレだ。


 ますます私は苛立ちを覚え、何買わずにさっさと家に帰ること決めた。



 私は暗くなる頃に家に着いた。

 電気の点いていない部屋。

 当たり前だ。独り暮らしなのだから、電気が部屋についているはずも無い。


 なんてつまらない家。


 電気を点けると、散らばった洋服たち。

 テーブルの上には電源の切り忘れた、パソコン。


 出掛ける前になんとなく見ていたのは転職サイトだ。

 京子の勤めていた会社も、中途採用をするらしい。

 

 改めてサイトを眺めながら、なんとなくカフェで会った今の京子を思い出す。

 まだ目立っていないお腹。

 その後に見た老夫婦も何故か思い出す。


 ふと思ってしまった。

「ずっと私はこんな時間を、たった独りで続けるのだろうか」と。

 

 目の前には京子が務めていた会社が、幸せそうに「転職しよう」と語りかけている。

 つまらないのは、本当に不幸なのは私か京子か。


「京子バーベキューだか、なんだかするって言ってたよね」

 もし、これに参加したら私の未来は少しでも良くのかな。

 京子の優しさを利用するみたいだけど、でも……。


 そうだ、行くって電話……夕方だし、旦那さんもいるよねきっと。


 電話しようと持ったスマホは、LINEするために持ち替えた。

「なんて言えば上手く伝わるかな」

 と、使ったことの無い頭を悩ませて、私はメッセージを考えたのだった。

最後までお付き合い下さりありがとうございました

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