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魔物にプロテインをあげたらとんでもないことになった件  ~会話と筋肉で始める魔物の国づくり~  作者: よっしゃあっ!
第二章 現地人との交流とエルフの里

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第37話 そしてエルフの里は救われた。筋肉と共に


『――では追いかけてくる』


 そう言って、ホオズキさんは広間を出て行った。

 それから数分後、ホオズキさんはフードの男を抱えて戻ってきた。

 うん、意味が分からない。

 転移魔法って要はワープとかテレポートだよね?

 なんで走って追いつくのだろうか?

 というか、なんで行き先が分かったのだろうか?


「筋肉の気配を辿った」

「……そうですか」


 うん、もうなにも言うまい。

 ホオズキさんは凄いんだ。それでいいじゃないか。


「一応殺さずに捕えたが、どうする?」


 フードの男はタンポポさんの蔦でぐるぐる巻きにされていた。

 気を失っているようで、モエギさんが足で突っついても反応はない。


「クレマさんたちに引き渡しましょう」


 サフランさんの件もあるし、それが一番無難だろう。

 しばらくすると、クレマさんたちも戻ってきた。


「ソースケ殿、それにお連れの方々よ。ぬしらのおかげで里は救われた。本当に感謝する」

「まさかサイクロプスまで仕留めるなんて……本当に凄まじい強さですね」


 クレマさんたちの言葉を伝えると、ホオズキさんは少しだけ照れた表情を浮かべた。魔物の軍勢もナズナさんたちによって無事に殲滅され、里の危機は回避できたようだ。


「それにしても転生信仰会か……聞いたこともない組織じゃな」

「人族ならば何か知っているかもしれませんね。部隊を組織して情報を収集しましょう」

「うむ、内部調査も必要じゃな。まさかサフランが裏切っていたとは……」

「嘆かわしい限りです……」


 同胞の裏切りに、クレマさんとガネットさんは酷く心を痛めているようだ。

 分かる。会社のデータとか持ち逃げしてライバル会社に移籍するとか社会人としてあるまじき行為だもんな。……まあ、そういう奴ってどこ行っても結局信用はされないんだけど。


「ソースケ殿よ。まことにすまないが、報酬の件はもう少し時間を貰えぬか? 神殿の資料室を管理していたのはサフランなのじゃ。一度、危険がないかどうか確認せねばならん」

「分かりました」


 その辺は自分としても異論はない。

 稀人の情報は欲しいが、別に急いでいるわけでもないし。


「それで、今後についてなのじゃが――」

 

 ――ドクンッ。

 これからの予定について、話し合いをしていると、不意に後ろから鼓動のような音が聞こえた。


「……今、何か聞こえませんでしたか?」

「確かに聞こえたのぅ」

「ああ。聞こえた」


 どうやら自分の空耳ではないようだ。

 ドクンッ、ドクンッとその鼓動は段々と大きくなっている。


「これは……世界樹の鼓動か? 黒腐病は完治したはずでは……?」


 そう言えば世界樹(マッスール)さんはプロテインが体に馴染むまで少し時間がかかると言っていた。その後、魔物の騒動ですっかり失念していた。

 それが今、終わろうとしているのかもしれない。


『――ますか? 聞こえますか、ソースケよ』


 そう思っていたら、世界樹(マッスール)さんの声が聞こえた。

 しかし心なしか、その声はどこか焦っているようにも感じる。


『ようやく、ワタシの体にぷろていんが順応しました。しかし、これは私の想像を超えた代物だったようです。い、今すぐ、神殿の外に避難して下さい。力が……力が溢れてきます。は、早く……』

「え?」

 

 次の瞬間、カッ――と、ウロの中から光が溢れ出した。

 今までの水晶の明暗など比較にならない程の大量の光が。

 いや、ウロだけでなく、周囲の壁や天井、床からも光が漏れている。


「これは……世界樹全体が光り輝いているのか……?」

「く、クレマさん。マッスール……あ、いや、世界樹さんが今すぐここを離れろと……」

「なんじゃと?」


 ズンッッッ!!!

 更に今度は地震のような激しい揺れが起こる。

 

「こ、これはどういうことじゃ? 世界樹に何が起こっているのじゃ?」

「と、ともかくここを避難しましょう。この揺れはマズイです」


 クレマさんは何かを言いたげな雰囲気だったが飲み込んだようだ。

 パンッと両手を合わせると、なにやら幾何学的な模様が浮かび上がる。


『――神殿内に居る全てのエルフに告げる! 今すぐ神殿の外へ避難せよ! 繰り返す! 今すぐ避難せよ!』


 クレマさんの声は頭の中に直接響くような不思議な感じがした。


「い、今のは?」

「伝達の魔法です。さあ、ソースケ様、こちらへ。お連れの皆様も早く!」


 ガネットさんに促され、自分達は急いで建物の外へと避難する。

 他のエルフさんたちも慌てて外に出てきた。


「女王様、これはいったい……?」


 すぐに神官っぽいエルフの人がやってくる。

 どうやらみんな、無事に外に出られたらしい。


「見て、世界樹が……!」

「光ってる……?」


 世界樹の鼓動は更に大きくなり、それに合わせるように樹全体が強く光り輝いているではないか。

 更にめきめきと音を立て、その巨体は更に大きくなっている。


「世界樹が……成長している……?」


 それは異様とも言える光景だった。

 ただでさえ巨大だった世界樹が、その巨体を更に成長させているのだ。

 地面からは成長した根が飛び出し大地を隆起させ、メキメキと音を立てて世界樹の幹の側面から、二本の巨大な枝が生え、急成長してゆく。

 植物が成長する過程をハイスピードカメラで見ているかのような光景だ。

 なんてファンタジーなのだろう。というか、自分はこの里に来てから何回ファンタジーという言葉を使ったのだろう。それくらいに目の前の光景はファンタジー。


 やがて、鼓動と地鳴りが収まると、そこには元の倍ほどに成長した世界樹があった。何故倍なのかといえば、今我々の居る場所が丁度、エルフの里の壁があった場所だからだ。

 どうやら世界樹の成長に合わせて、里全体も外側へと押し出されていったらしい。

 里が飲み込まれずに、外へと移動したのは、何からの不思議パワーのおかげな気がする。だって里のエルフさんたちも呆然としているが、誰も怪我はしていないし、建物も無事だもの。


「えーっと、これって……」


 どうしたものかと思って、クレマさんの方を見れば、彼女ははらはらと大粒の涙を流し、感極まったご様子ででっかくなった世界樹を見ていた。


「き、奇跡じゃ……。不治の病と言われていた黒腐病が完治するだけでなく、まさか世界樹が『本来の姿』にまで戻るとは……。ああ、なんという……なんということじゃ……」

「あ、え……えっと?」


 見れば彼女だけでなく、ガネットさんや他のエルフの皆さんも涙を流し、まるで神様に祈りを捧げるような姿勢で世界樹を見つめている。


「ああ、世界樹様……」

「まさか世界樹様が成長する光景をこの目で見られるなんて……」

「今日、この日、この光景に立ち会えたことに感謝を……」

「今まで苦しかった咳が治った……」「きんにく」

「むしろ体中に力が漲ってくる」「きんにく」

「奇跡だ……」


 なにこれ? 自分はいったいなにをしてしまったのだろう。

 でもエルフさん達の体調はどうやら回復したらしい。

 リンバをくれたおじさんや奥さんも元気そうに世界樹へ手を合わせている。

 あと何名かずっと筋肉って言ってる。


「世界樹はエルフの全て。世界樹が成長するということは、エルフは永遠の繁栄を約束されたということじゃ。この里では、子供でも知っている常識じゃ」

「そ、そうなのですか……」

「しかもこれ程の規模とは……。ソースケ殿、やはりお主は我らにとっての救世主であった……」


 クレマさんは先ほどのように手を叩いた後、その手を高く掲げる。

 エルフたちの視線がクレマさんに集中する。

 おそらくは先程と同じ伝達の魔法を使ったのだろう。


「女王……」

「女王様だ……」


 ざわめきが大きくなる中、クレマさんは声を上げる。


「――皆のもの! 聞いてほしい! 実は世界樹はある病に侵されていた。その影響で体調がすぐれなかった者も多く、皆も薄々感じておったはずじゃ。それも全て、世界樹が黒腐病という病に侵されていたことが原因じゃ」


 その告白に、ざわめきが大きくなる。


「じゃが、それももう完治した! もう世界樹が奇病に侵されることは永劫無い! たとえどれほどの魔法も呪詛も、兵器も、この世界樹を傷つける事など出来ぬ! この膨大な魔力の脈動を感じ取れば、皆もそれは理解出来よう!」


 今度はざわめきが一層強くなる。しかしそこには間違いなく高揚からくるものだ。


「今日、そなたらは奇跡の目撃者となった! 世界樹が成長し、我らエルフの繁栄は約束されたのじゃ! 共にこの奇跡を喜ぼうぞ!」

「「「「「うおおおおおおおお! 女王万歳! 女王万歳! 女王万歳!」」」」」


 その光景を眺めていると、アセビさんが裾を引っ張ってくる。


「ねえ、ソースケ。ちょっとあれ見て頂戴」

「ん?」


 アセビさんは頭上に広がる世界樹を指差す。


「世界樹がどうかしたのですか?」

「よく見てよぉ。これってなんかあれじゃない? ほら、あれ」

「あ……」


 そう言われて、よく世界樹を見て気付いた。

 デカすぎて気づかなかったが、よく見るとはっきりと分かる。


 ――マッチョだ。

 

 世界樹がまるで筋肉モリモリのマッチョマンの上半身のような形になっていたのだ。上方の幹はまるで大胸筋のように膨れ上がり、そこから伸びた二本の太い枝はまるで巨大な二の腕のよう。緑の生い茂った樹幹は、ボディービルダーの頭のようであった。

 これ、あれだ。両腕を上げて力こぶを作ってる感じのポーズ。専門用語だとフロントダブルバイセップスとか言うやつ。


『――まっするぱわー』


 なんか聞こえた。

 たぶん気のせいだろう。そう思う事にした。


「……これ、このままでいいのかしらぁ?」

「さ、さあ……? まあ、世界樹は元気になったんですし、あとはエルフの皆さんの判断に任せましょう。自分達がやれることはもう何もありませんし……」

「そ、そうね……」


 うん、まあ、そういうことにしておこう。

 ともかくこうして世界樹の病気は完治し、エルフの皆さんも元気になったのだった。



 ちなみにこれは余談だが。

 それからしばらくして、エルフの里で空前の筋トレブームが巻き起こるらしいのだが、それがマッチョマンになった世界樹の影響なのかは自分には分からない。

 ……分からないったら分からない。



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― 新着の感想 ―
 筋肉はすべてを救う?エフルの聖地ならぬ、「きんにく」の聖地になりそうだなw
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