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魔物にプロテインをあげたらとんでもないことになった件  ~会話と筋肉で始める魔物の国づくり~  作者: よっしゃあっ!
第二章 現地人との交流とエルフの里

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第22話 残された遺物


 カラマツさんとモエギさんのおかげで、この世界の事を随分と知ることが出来た。

 まずこの周辺の地理についてだ。

 カラマツさんはこの周辺の地図を見せてくれた。


「――まずここがワシらの居る場所じゃ。んでこっちがさっき言ったバルサ帝国。んで、こっちがオルバ王国じゃな」


 カラマツさんは指で地図をなぞるように説明する。

 それを目で追うと、その地図のおかしな点に気付いた。


「……あれ? カラマツさん、これってどうして森の中心部が黒塗りになっているんですか?」


 自分達の住む最果ての森。そこの中心部分だけは黒く塗りつぶされていた。


「そりゃあ、ここが最果ての森だからじゃよ」


「……?」


「ゴブリン達から聞いておらんのか? この森は奥へ進めば進むほど空間が広がっとるんじゃ。森の中心部がどうなってるか誰も知らん。おまけに森の奥に行くほど、等級の高い魔物がうようよいるんじゃ。だから最果ての森と呼ばれておるんじゃよ」


「なるほど……」


 そう言えば、そんなことを以前、ホオズキさんが言っていた気がする。

 しかし奥へ進めば、進むほど広がっているとか、空間でも歪んでいるのだろうか? なんとも不思議な森である。


 所々で、ホオズキさんらにもこれを説明。

 彼らも人の暮らしには興味があったようで「ほぉー」とか「へぇー」とか言いながら、とても興味深そうに耳を傾けていた。


「次に亜人種についても教えておくか」


「亜人種?」


「亜人種っつーのは人みてぇな姿をしてるが、厳密には人と違う種族の総称じゃ。数の多い有名どころだとエルフやドワーフ、あとは獣人じゃな。大半は独自の言語で喋るが、中にはワシら人の言葉を使える奴もおる」


 へぇー、そういう種族もいるのか。

 今更ながら、本当にこの世界は地球と違うのだと思い知らされる。

 つまりとってもファンタジー。


「亜人種の集落は……デカいのはここと、ここじゃな。それぞれエルフとドワーフの国がある。といっても厳密には国じゃねえが……」


「……?」


 カラマツさんは地図の何か所かを煙管で指す。


「昔はエルフやドワーフとも取引もしたのぅ。おかげでエルフ語とドワーフ語は多少、話せるようになったわ」


「へぇー、じーちゃん、エルフやドワーフとも交流があったのかよ。アタイ、それ初めて聞いた」


 モエギさんもカラマツさんの話に興味深そうに耳を傾けている。


「お前の親が生まれる前じゃからのう。エルフとドワーフは、ワシら人族と違って寿命が長い。じゃから、他国の言語を使える奴も多いんじゃよ。まあ、向こうが喋れる言葉が王国語じゃなかったら、きっと交流は出来んかったじゃろうな」


「……王国語、ということは他にも言語があるのですか?」


「当たり前じゃろう。この大陸で主に使われとる言語は五つ。帝国語、聖ユミル語、ミリーシャ語、王国語、ドワン語じゃ。それぞれが主要大国の公用語になっとる。二か国以上話せりゃ食うには困らんし、三か国語や、エルフ語、ドワーフ語が分かりゃ、帝国なら重役にすら据えられる。この世界じゃ、言語の壁っつーのはお前さんの思ってる以上に分厚いんじゃ」


「……正直に申し上げると、その辺は魔法でどうにかしているのかと思いました」


「魔法も万能じゃないからのぅ。忠告しておくが、お主の能力は出来るだけ隠した方が良いぞ? 人や亜人種どころか、魔物とも会話が出来る者など、悪しき者の手に落ちれば、碌な事にならんからの」


「……肝に銘じておきます」


 どうやら自分が思っている以上に、この世界の言語の壁は分厚いらしい。

 ……というか、もう魔物と会話が出来ることをあの冒険者たちには知られているんだよな。

 何もない事を祈るばかりである。


「さて、それじゃあ話はこれくらいにして、妻が残した遺品を見せてやるかの」


「例の稀人の技術を使ったというやつですか?」


「そうじゃ。ちょっと待っとれい」


 カラマツさんは立ち上がると、隣の部屋へ向かう。

 しばらくして色々な物品を抱えて戻ってきた。


「まずはこの三つじゃな」


 カラマツさんが持って来たのは、ティッシュボックスほどの大きさの箱、半透明の板、そして刻印が施されたナイフだ。

 

「触っても?」


「構わんぞ」


 カラマツさんの許可を頂いたので、まず箱を手に取ってみる。

 いったい何の箱だろうか?

 真ん中より少し上の所に溝のような線が入っているが、どうやって開ければいいのかが分からない。

 試しに力を入れて開けようとしてみるが開く気配はない。


「……この箱はどうやって開けるのでしょうか?」


「特定の人物が触ると開く仕組みになってるんじゃよ。貸してみぃ」


 カラマツさんに箱を渡すと、彼は箱のふたの部分――その中心に己の人差し指をくっつける。

 すると、カチリッと音が鳴り、箱が開いた。

 ……これってもしかして?


「――『しもんにんしょう』というらしい。ワシか妻の指をこのふたの部分に触れさせなければ、開かん仕組みなんじゃよ」


「『指紋認証』……間違いありません。それは自分が居た世界の技術です」


 凄い。まさかこの世界で指紋認証って言葉を聞くなんて。

 ぶっちゃけどういう仕組みになってるんだろう?


「正確には魔法で再現したものじゃがの。特定の人物の魔力を流さなければ発動しない魔法道具(マジックアイテム)なんてのはざらにある。冒険者のタグなんかもそれに近い」


「ほほぅ、なるほど……」


 冒険者の仕組みはまだよく分かっていないが、タグとは冒険者になった際に発行される身分証のことらしい。

 

「こっちの板やナイフも同じ仕組みじゃ。ナイフは切れ味が増すし、板は重さを量る時に使う」


 そう言いながら、カラマツさんは箱を開ける。

 中に入っていたのは、指輪やブローチだった。


「妻が使ってたもんじゃ。金に困ったときには、これを売ってくれと言っとったが、どうしても手放せんかったんじゃ」


「……奥様を大事にされていたのですね」


「ふんっ、口やかましいだけの女じゃったわい」


 そう言いつつも、カラマツさんの口元には笑みが浮かんでいた。

 なんか何十年も連れ添った夫婦にしか出せない感じの表情だ。


「妻が残したのはこれで全部じゃ。まあ、好きに見てくれ」


「ありがとうございます」


 といっても、この分じゃ手がかりになるようなものはなさそうだな。

 そんな風に思いつつ、箱を調べていると、ふとある事に気付いた。


「……あれ? これって……」


「なんじゃい? どうかしたんか?」


「いえ、なにかこの箱……違和感が……」


 触っていてなにか変な感じがする。

 何度か内側と外側を確認すると、その違和感の正体に気付いた。


「これ、箱の底がちょっと厚くありませんか?」


「厚い?」


「はい。ほら、見て下さい。側面の長さに比べて、中の底がちょっと浅い気がするんです」


「……むぅ、確かに。全然気づかんかったわ」


 注意深く見ないと分からないだろう。

 厚みとしては指一本分程度か。


「……ひょっとして、これって二重底になってるんじゃないでしょうか?」


「!」


 カラマツさんが表情を変える。


「モエギ、細い針もってこい! 早く!」


「わ、分かった!」


 カラマツさんはモエギさんから針を受け取ると、箱の内側を調べる。

 カリカリと引っ掛かる部分を探すと、底の板が僅かに浮いた。


「――お前さんの予想は当たったようじゃの」


 底の板を外すと、そこに眠っていたのは――手帳だった。

 それも自分がよく見るようなビジネス手帳。

 周囲には綿が敷き詰められている。


「防虫、防腐用だな。どれ……」


 カラマツさんは手帳を手に取ると、中を改める。

 ややあって自分へ手帳を向ける。


「ワシには読めん。おそらくこの世界の文字ではないじゃろう」


「ッ……!」


 手帳を受け取り、震える手で表紙をめくる。

 そこにはこう記されていた。




『――この文字が読める者へ、この記録を残す』




 ドクンッと心臓の鼓動が聞こえたような気がした。

 そこには自分が良く知る文字が――『日本語』が記されていたのだ。




  面白かった、続きが気になると思って頂けたら、ブクマや下からぽちっと評価をして頂けると嬉しいです

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― 新着の感想 ―
 「カラマツ」「モエギ」でもしかしたら?と思っていたが、やはり奥さんは日本人だったか。研究者、技術者でなければ「ステルス」「認証ID」「パスワード」「指紋認証」やらがすんなり出てくる時代背景の人物だろ…
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