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魔物にプロテインをあげたらとんでもないことになった件  ~会話と筋肉で始める魔物の国づくり~  作者: よっしゃあっ!
第二章 現地人との交流とエルフの里

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第21話 マッチョ爺さん改め、カラマツさんとの話し合い


「いやぁ、助かったのぅ若いの! まさかこの年でこんな元気になるとは思わんかったわい! かっかっか!」


「まあ、その……お元気になられたようでなによりです」


 モエギさんのお爺さんの病気は無事に完治した。

 ついでに肌の色は濃くなり、筋肉はムキムキのナイスバルクになってしまった。

 重機とか操作してる姿がめっちゃ似合いそう。

 ……控えめにいって別人である。


「じーちゃん、元気になってよかったなぁ!」


「おお、モエギよ! 心配かけたのぅ! もう大丈夫じゃ!」


 先ほどまではモエギさんに抱きかかえられていたご老人は、今や指一本でモエギさんを抱えあげられるほどになっておられる。

 ……モエギさんもまあそれなりに筋肉はついたが、効果の差が激しすぎる。

 この違いは何なのだろうか?


「そう言えば、自己紹介がまだじゃったの! ワシの名はカラマツじゃ! 病気を治してくれたこと、心から礼を言うぞ若いの!」


「カラマツさんですね。自分は井口(イグチ)総助(ソウスケ)と申します。こちらはゴブリンのホオズキさんとアセビさん。それに芝狼のタンポポさんです」


「ホオズキだ」

「アセビよ」

「タンポポだよー」


 ホオズキさんたちの姿を見て、ご老人――カラマツさんは眼を見開いた。


「ほぅ! 人間の言葉を話す魔物とはまた珍しいのう! それにヘルト・ゴブリンに大輪狼とは。三等級以上の魔物が群れるとは! その気になれば国一つくらい滅びるのうこれは! かっかっか!」


 そんな物騒な事を気軽に言わないでほしい。

 というか、あの冒険者の人達も言っていたが、やはりホオズキさん達の種族は、普通のゴブリンや芝狼ではないようだ。

 三等級、とは魔物の強さを表すものだろうか?

 国一つ滅ぼせるとか、めちゃくちゃヤバいじゃん。

 しかし、そんな彼らに正面から向き合っても、カラマツさんはまったく動揺していない。筋肉と共に精神も大きくなったのだろうか?


「んで、老い先短い老人を元気にして、何が目的なんじゃ? 言うてみい」


 とりあえずきちんと話はしてくれるようだ。

 そこだけは安心できた。

 自分は、これまでの事情を彼に話した。



          ●



「――ふぅむ、なるほどのぅ……。後ろの魔物といい、このぷろていんといい、只者ではないと思うとったが、稀人とはのぅ……」


 全ての話を聞き終えた後、カラマツさんは煙管に火をつけ、ふぅーっと煙を吐いた。

 自分には少々煙たかったが、ホオズキさんは興味深そうに煙を吸う。


「……いい香りだな」


「ほぅ、こいつの良さが分かるんか? 魔物にしちゃ上出来じゃの。ほれ、吸ってみぃ」


 言葉は分からずとも、その反応で、煙管に興味を示しているのが伝わったのだろう。

 ホオズキさんは煙管を受け取ると、カラマツさんがやったのと同じように刻んだ葉を丸めて、火をつけた。そしてゆっくりと煙を吸うと、満足そうに笑みを浮かべた。


「……悪くない」


「カッカッカッ! 言ってることは分からんが、どうやら満足そうじゃの! 良い、良い! 人も魔物も良いモノはもっと取り入れるべきじゃ。良いモノを楽しむのが長生きのコツじゃからな。お主もどうじゃ?」


「あ、いえ……。自分は煙草は吸わないもので……」


 一度やってみたが、どうにも合わずにむせかえった記憶が蘇る。


「なんじゃ、つまらんのぅ」


 カラマツさんは予備の煙管を取り出すと、再び火をつけて煙を吸う。

 同じように煙を吸うホオズキさんと共に笑みを浮かべた。

 ホオズキさんに煙草とか似合いすぎて惚れそうになる。こんなのダンディズムの権化だ。ちょっとした間違いで抱かれてしまっても文句は言えないレベルである。


「稀人ってのはみんなそうなのか?」


「……分かりません。自分以外の稀人にはまだ出会った事がありませんので。カラマツさんは稀人について何か知っていると、モエギさんから聞きました。よろしければ、お聞かせ願えませんか?」


「うーむ……」


 自分の問いに、カラマツさんはどこか悩むようなそぶりを見せる。


「期待させといて悪いんじゃが、ワシも稀人については殆ど知らねえんだわ。会ったこともないしな」


「えっ?」


 意外な返答に自分は面食らう。

 ちらりと横を見れば、モエギさんも驚いている様子だ。


「だが直接会った事がある奴なら知ってる。ワシはソイツから話を聞いただけじゃ」


「そ、その方はどちらに居られるのですか?」


 内心、かなりドキドキしながらカラマツさんの言葉を待つ。

 しかし帰ってきた言葉は無慈悲なものだった。


「――もうとっくに死んじまったよ。ワシの妻じゃ」


「婆ちゃんが……?」


 モエギさんも興味深そうに耳を傾ける。


「まあ、昔話でよければ話してやろうかの。ワシは若い頃にオバル王国で冒険者をやってたんじゃ。ああ、オバル王国っていうのは、この最果ての森の西側に位置する国じゃ。東側にはバルサ帝国って国がある」


 じゃあ前にモエギさんが言っていたバサロの町っていうのはバルサ帝国にある町ってことか。


「当時は王国と帝国でひでぇ戦争があってな。冒険者も駆り出されて帝国の連中と戦わされた。一緒に酒を飲んだ奴が、次の日には死んでたなんてこともザラじゃった」


「……」


「妻と出会ったのは戦場じゃった。初めは敵同士じゃったんじゃが、不思議と馬が合ってな。お互い戦争にも嫌気がさしてたし、二人で逃げたんじゃ。

 んで、ここに二人で家を建てた。最果ての森はどっちの国にも属さない中立地帯じゃからな。それでもいつか見つからないかヒヤヒヤしたが、妻の魔法や結界でほとぼりが冷めるまでばれることはなかった」


 中々に壮絶な人生を歩んでおられる。


「んで、妻が使ってた魔法や結界なんじゃが、これが稀人の技術を参考にしたと言っておったんじゃ」


「……!」


「妻は帝国でも数人しかおらん聖金級の冒険者じゃった。普通じゃ手に入らねぇような情報も手に入るし、一生かかっても出会えねぇような奴にも会える。それでも『稀人』に会ったのは奇跡だって言っとったのぅ」


 どこか昔を懐かしむようにカラマツさんは続ける。


「稀人は自分達では考え付かないような常識や知識を持っている。妻はその技術や知識の一部を教えてもらったんじゃ。たしか結界の事を『すれるす』と言っておったかのう? あと『にんしょうあいでぃー』とか『ぱすわーど』なんて言葉も使っておったらしい」


 !


「ステルス、それに認証ID……。そ、それはたしかに自分達の居た世界の言葉です!」


 間違いない。その稀人は自分と同じ世界の人間だ。


「そ、その方は今どちらに!?」


「じゃから、最初に言ったじゃろ。知らんとな。もう七十年以上も前の話じゃ」


 ……七十年。

 だとすればもうその稀人が生きている可能性はかなり低いだろう。

 がっくりとうなだれる自分に、カラマツさんは申し訳なさそうな顔をする。


「まあ、そう落ち込むな。この家にゃ稀人の知識を参考に作ったもんがいくつかある。あんまし多くはねーがな。それでよければいくらでも見せてやる」


「ほ、本当ですか! 是非! 是非お願いします!」


「そう興奮しなくてもちゃんと見せるわい。お主は命の恩人じゃからな。今日はもう日も暮れるし、泊まってけ。モエギや、今日の晩飯は多めに作ってくれんか?」


「任せとけや! じーちゃんの命の恩人だ! 腕によりをかけて作ってやるぜ!」


 モエギさんはすぐに立ち上がって台所へ向かう。

 それを見て、ホオズキさんらは立ち上がる。


「では、我々は戻るとするか。ソースケよ、明日また迎えにくる」


 その様子を見て、カラマツさんが待ったを掛けた。


「おい、ちょっと待て。言ってる意味は分からんが、ひょっとしてそっちのゴブリンたちは帰ろうとしているのか?」


「え、ええ……そうですが……」


「寂しいこと言うでない! せっかくじゃから泊まっていけばいいじゃろ?」


 言葉は伝わらずとも、その意図は伝わったのだろう。

 ホオズキさんたちは驚いた表情を浮かべる。


「……いいのか? 我々は魔物だぞ?」


「なんじゃい、その『魔物でもいいのか?』みたいな顔は? 良いに決まっとるじゃろう? 可愛い孫娘が連れてきたんじゃ。人だろうと魔物だろうと歓迎するのは当然じゃろう。ましてやお主らはワシの命の恩人じゃ!」


「……」


「それにコイツの良さが分かるヤツに会えたのは久々じゃからのぅ」


 そう言って、カラマツさんは煙管をホオズキさんに向ける。

 そしてにやりと笑みを浮かべると、ホオズキさんも笑みを浮かべ返す。


「……人間よ。感謝する」


 その日、自分達は美味しい夕食を頂きながら、一晩中語り合った。

 カラマツさんはこの世界の情報を惜しみなく話してくれた。

 時折、ホオズキさんらにも説明し、彼らも興味深そうに、自分の話に耳を傾けてくれた。

 やっぱり話が出来るって素晴らしいと思った。



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― 新着の感想 ―
最初に出会った冒険者たちにもプロテインを与えておけば頭が柔らかくなった? いや、これは元々のご老人の器の大きさのおかげか
ステキじいちゃん、カラマツさん! 意思の疎通が出来る、話しが出来るって素晴らしい!!
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