第12話 スライム農耕マッスルパワー
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――結論から言ってしまえば、スライムさんを使った農耕は大成功だった。
まず棚田作りに関しては、ホオズキさん達が力技で解決した。
まず筋肉で崖を削り、筋肉で平らになった地面を耕し、筋肉で上層部にため池を作ると、そこから水路を引いてあっという間に完成させた。
「うむ、こういう作業も悪くないな」
「がはは! 筋肉が喜んでらぁ!」
「うっほ! うっほ!」
「えぇー……」
なんというか本当に力こそパワーなやり方である。
次に大量のスライムさんの移動。
これも芝狼さんらが僅か数時間で終わらせた。
体から出したツタでネットを作り、地引網のようにスライムさんらを回収。
それをマッスルパワーで棚田まで運ぶ。
「こういう作業も面白いな」
「蔦の新しい使い方が試せたねー。色んなことに応用出来そう」
そんな感じでスライムさんたちのお引っ越しも完了。
「わぁ……」「いぃ……」「ふぅぅ~……」
「おみず、きもちいい」「綺麗な土だね」
「耕しがいがありそう」「面白い植物」「いっぱい育てようね」
「かんたん、かんたん」「すぐに育てられそう」「ここ凄くいい土壌」
スライムさんたちからの評判も上々である。
洞窟の傍に試験的に設けた段々畑には青い穂が既に膝程の高さまで成長している。
日本で見た水田と違い、こちらはスライムさんらで埋め尽くされた田んぼなので、見た目はかなり不気味だが、実り自体はとても順調に見える。
「ソースケ、これはどの程度まで成長させればいいのだ?」
「えーっと、普通なら田植えをしてから収穫までは半年ほどは掛かるはずなのですが、この成長具合を見るに、あと一ヶ月もすれば収穫できるのではないでしょうか?」
「それは早いのか?」
「……正直に申し上げますと、とてつもない早さだと思います……」
二か月のサイクルで収穫できるお米とか、たぶん現代の農業技術でも絶対に無理だと思う。
なにせ季節を無視すれば一年に六回も収穫が出来るのだ。
温暖な地域では二期作とかで、年に二回収穫できる方法もあるらしいけど、年六回は絶対にないだろう。
連作障害の可能性とかはこれから確認するしかないけど、とりあえずは冬に向けての収穫は期待できそうだ。
(……でもなんでこんなに成長が早いんだろうか?)
スライムさんのおかげ?
それとも土壌になにか植物を急成長させる成分でも含んでいたとか?
「土に含まれてる栄養いいね……」
「うん、すごく元気になる」「これならどんな植物でも育てられそう」
「がんばる」「がんばる」「がんばるまっする」
「まっする?」「まっするって浮かんだ」「うかんだよね」
「きんにく」「きんにくいい」「いいよね」
「白い粉」「きんにく」「まっする」「まっする」
「まっするってなんだろう?」「でもなんか頭にうかぶよね」「うん」
「まっする」「まっする」「まっする」「まっする」「まっする」
「「「「「「ま っ す る ぱ わ ー 」」」」」」
「……」
どうやらプロテインだったようだ。
スライムさんが筋肉に目覚めてしまった。
どうやら土にはまだプロテインの栄養が残っていたらしい。
(でも迂闊に蒔くのは危険なんだよな……)
アジサイさん曰くプロテインは劇薬。
植物に凄まじい効果をもたらす反面、加減を間違えるとかえって枯れてしまうほどの代物らしい。
芝狼さんに上げる時でさえ、アジサイさんは濃すぎると言っていたし、微量であってもその効果、持続性は強いのだろう。偶然ながら、土に与える分には最適な量になっていたわけだ。
凄まじきはプロテイン。凄まじいぞマッスルパワー。
……というか、そもそもスライムって筋肉ってあるのだろうか?
「しかし本当にこの草を食べることが出来るのか?」
「正確には草ではなく、その先に付いた果実を食べるんですよ」
「……この草が果物なのか?」
「果物とは違いますが、この草にも実りがあるんです。モミというのですが、これを乾燥させ、脱穀することで保存に適した食料となります」
「かんそう……だっこく?」
「まあ、その辺は追々お教えします」
と言っても、自分もその辺の知識は曖昧なので、トライアンドエラーで試していくしかないだろうけど。それでもお米とパンが食べれるのなら、努力は惜しまない所存です。
「……ソースケはいつも我々にない知識を授けてくれる。コイツらもそうだ。我々にとってスライムとはただの害獣でしかなかった。ソースケが我々に共存の道を示してくれた。我々にとって、ソースケこそが一番の実りだ」
「そうまで言って頂けると、こそばゆいですね……」
ホオズキさんもそうだが、ゴブリンさんも芝狼さんもダイレクトに感謝の言葉を伝えて来る。
様々なオブラートにくるまれた言葉使いばかりが満ち溢れる現代社会に染まった自分にとっては、受け止めきれない程に眩しい。
「我々の為に、ソースケの願いを遅らせてしまっている。すまない」
「……願い?」
「森を出て、人間達の住処に連れて行く約束、まだ果たせてない」
「…………あ」
そう言えばそうだった。
スライム農業に夢中になるあまり、またしても本来の目的を忘れてしまっていた。
自分がどうして彼らに手を取り合うように促したのか。
それもひとえに、この森を安全に抜け、この世界の人々の住む場所へと向かう為である。その為の手段だったのが、いつの間にか自分の中での目的に変化してしまっていた。
そもそもここ最近は、人間に会うどころか、元の世界に帰るという目的すら頭の中から完全に消えていた。
それだけ自分がここでの生活を受け入れていたということだ。
いや、というかそういう風に思考が誘導されているような……気のせいだろうか?
一瞬、指輪が僅かに光ったような気がした。
「……まあ、収穫やその後の経過も確認しなければいけませんし、ゆっくりで構いませんよ」
「そう言って貰えると助かる……」
まあ、あれだ。なるようになるだろう。
そう思っていたのだが、この数日後、事態は急変する。
「――父上! 人間がこの森に入ってきました!」
ナズナさんから伝えられた急報。
この世界の人間と接触できるチャンスが訪れたのである。




