『クラファリオン』の大地を踏んで
「ふむ、、、やはりこの【アバター】が馴染むな、、、」
僕は漆黒のコートに身を包み、洒落た帽子を被り隙間から長い銀髪を靡かせた不死者リカルドに変身している。
草原の陽射しが眩しいので丸いサングラスを着用している。
だけど彼(僕?)の美しい容姿はそんな小道具では隠しきれないのか、それともヴァンパイアの醸し出す異様な雰囲気に当てられたのか、道中すれ違う商人やその護衛は目を見開いて驚いていた。
「ん?そういえば『浮遊移動』を切るの忘れていたな!いやはや失敬。」
そういえばアンデッド特有のスキル『浮遊移動』はデフォルトなので、意識しないと切れる事が無い。
足元が汚れない、水上を移動する、落下ダメージを受けない等のメリットがあるが、なるほど、人間技じゃないよね!
リカルドの『バックストーリー』は暇を持て余したヴァンパイア、という設定だ。
オリジナルのリカルドはもっと陰がある感じで人間なんてエサ!な感じだったけど、クールだけど女好きで、とにかくナンパが大好きで、直ぐに宿屋に連れ込んでワンナイト、みたいなチャラい背景を記入している。
趣味はタバコと酒。
吸血は生涯を共にする相手を血族にする時と、強力な敵の能力を取り込む以外には行わない。
他にも自らの不死者による能力で、無限の時間を用いて闇属性と光属性の可能性、『聖魔混合魔力発生論』について研究する旅人である、という設定も付け加えた。
つまりヴァンパイアなのに、闇魔法だけでなく光魔法も使いこなし、その他の属性魔法にも精通し、ヴァンパイア特有の類稀なる戦闘力を持ち、貴重な武具に呪具、魔道具を所持して使いこなせるのだ。
いわゆる『ぼくのかんがえたさいきょうのばんぱいあ』ってやつだ。
「ふむ、今更『浮遊移動』を切るのも面倒だ。そろそろチュートリアル最初の街マルタに着くだろう。そして大概、、、」
馬車が横転して争う音が聴こえる。
「噛ませ犬の雑魚が無垢な一般人を襲うのが常だ。」
僕の腰に提げた禍々しい魔剣、『吸血剣メアリー』を抜き放つと、嘆きの悲鳴が響き渡った。
「ギャアアアアア!!??」
「なんだ!?この悍ましい魔力は!?」
「新手の魔物か!?」
「くそッ!」
どうやら襲撃者はゴブリンの兵隊の様だ。
数にして30程。
僕の抜いた剣の効果で恐れを為している。
心なしか馬車の護衛が震えながら剣をこちらに向けている気がするが。。。
「この剣は吸った血の『恐怖』を周りに与える。そしてお前らの血で更にそれは強まり、切れ味も増すのだ。ゆっくりと死ぬが良い。」
動きの鈍いゴブリン達は、吸血剣で浅く斬られただけなのに、大量に出血し、ショックで倒れる。
リカルドの握る剣がゴブリンの血を吸って怪しく光っている。
すると流れ落ちた血が霧になって剣に集められ、吸い取られたゴブリン達は身体が萎み、最後は灰と塵となり、風に舞って消えた。
数十秒もしないうちにゴブリン達は命を刈り取られてしまった。
「クソ不味そうな血だな。不満か?」
吸血剣メアリーは不機嫌そうなオーラを出した。
横転した馬車と護衛らしき冒険者4人に声をかける。
「大丈夫か???」
「・・・・・」
「どうした?黙っていては何も分からん」
「・・・・・お前、リッチか??」
護衛の1人が経済状況に言及してきた。
僕は転移してきたばかりで、お金持ちじゃないからなぁ。
「・・・・金持ちではないな。。。というか宿屋に泊まれるかどうか心ぱ」
「いや、そっちのリッチじゃねぇよ!!」
別な護衛の突っ込みでとりあえず会話は繋がった。
我ながらナイスプレイだと思う。