シーアフランメにて束の間の休息
リカルドと勇者メアは連行される王国将軍ポールウェインと共にロドスギウス帝国の地に足を踏み入れた。
「途中、寒村がちらほら見られたが、寄らなかったな。」
俺の問いにエヴァンの顔色が優れず、代わりに将軍が答えた。
「ああ。この辺の農民は帝国騎士団を賄うだけの糧秣を有していない。ただでさえ寒冷で土地に栄養が無いのに、今年の帝国は特に不作だった。食料が無いというのは、、、何よりも苦しい事なのだ。」
俺はたっぷりと吸い込んだ煙草の煙を吐き出しながら聞いた。
「随分と同情的だな。何故だ?」
「帝国出身の騎士ならば誰でも知っている事だが、私自身もこの辺りの今はもう滅びた村の出身なのだ。村については幼い頃だからあまり覚えてはいないが、母が亡くなり、放浪していたところ、運良くゼーテスブランの男爵家に拾われたのだ。腹一杯食える、という訳では無かった。私は他の男児より身体が大きく、その分ひもじい思いをしたものだ。」
将軍は悲しげに寒々しい大地とゴツゴツした岩山を見つめる。
「従士から始まり修行を経て騎士になり、王国各地で功を上げ、妻にも出会い我が子も産まれ、家庭を得た。長い時間をかけて王国の騎士達を指導し、束ね上げた。帝国との貿易を進める為に私は外交という名目で供を連れ、主に帝国や王国を引っ切り無しに漫遊し、賊や魔物を退治したり、悪徳の限りを尽くす貴族を成敗したり、逆に善政を敷く貴族達と友誼を結んだ。だが・・・」
「我々、帝国騎士団は王国騎士に敵対心は抱けども、恨みはありません!それに将軍という立場上、王命は絶対!悪いのは、、、両国を食い荒らす諸侯のタカ派どもだ!」
激昂するエヴァンを将軍が宥める。
実は彼と将軍は同じ村の出身であると、捕虜になった時に判明したのだ。
それ以来、小判鮫の様に将軍に張り付いて指示を仰いでいる。
将軍の勇名はロドスギウス騎士団内にも轟いていた。
「この地は強力な魔物で無くとも、魔狼の群れが来ただけであっさりと滅びる村も多い。私が漫遊した時もそれは変わりなかった。」
「じゃあさ、村を木柵で囲えば良いんじゃ無いの?」
メアが口を出したが、将軍は首を振った。
「そういう問題では無いのだ。村を孤立させているのは、王国軍に侵略する足掛かりの糧秣を与えない為に、帝国から領主が強請られてやっている事だ。逆に王国は村々を帝国を疲弊させる為に裏切らせ、利用した後に捨てるつもりだ。そして私はその邪魔をしている。結局のところ、私は王国と帝国の欲深い貴族達の生け贄にされる予定なのだ。私が死ねば、両国は今度こそ全面戦争に陥る。ここでは多くの罪なき騎士と民の血が流れ、呪われた大地が残るだろう。王国はこの地の鉱石を、帝国は王国の糧秣を。どちらかが奪うまで。」
「食えもしない宝石を取り上げて着飾る帝国のハゲタカどもめ!!!やはり、時間が無い。このままでは我々は無駄死にだ。我々は一体、何の為に騎士になったというのか!」
エヴァンはギリっと奥歯を噛んだ。
その後はエヴァンの諸侯に対する悪口混じりの退っ引きならない実情を聞く事になった。
騎士が大切にしている名誉と奉仕を軽んじられ、重税と不誠実な政務の皺寄せが各地で巻き起こっているのだ。
チュートリアル中盤のクエスト『ゼーテスブランとロドスギウス〜正義の鉄槌〜』が始まろうとしていた。
〜〜〜〜〜
2日間の行軍を経て、リカルド達は街に到着した。
「ここがカルドスロア領南部の街、シーアフランメだ。名物は羊毛、羊乳で作ったチーズ、それに、、、羊乳酒だ。。。美味いぞ?」
将軍は親指を立ててニッと笑った。
「おお、将軍、我々と共に呑みまくりましょうぞ!」「やっと酒場に入れるぜ!」
俺とメアは小声で話し合った。
「一応将軍は捕虜なんだよな?」「でも敵なのにすっごく仲良さそうだよ?」
たが俺も一応、この後の事は予測出来ていた。
将軍も待ち受けるのは死の絶望では無いと、何となしに理解しているのだろう。
酒場に着くと皆思い思いの席に座った。
「アンタほんとに捕虜か?」
「何を言うか貴様!捕虜になったとて自軍を逃す為の殿を請け負ったのだ!」
「まぁまぁ噛みつくな、エヴァン。細かい事は忘れろ!」
「あたしの知ってる捕虜はもっとがっかりした表情なんだけどな〜」
俺とメアは将軍のすぐ側に同席していた。
羊乳酒が全員に手渡されると何故か将軍が乾杯の音頭を取った。
「乾杯!!!」
「「「乾杯!!」」」
暫くは飲めや歌えや踊れやのどんちゃん騒ぎだった。
メアも紅一点の上、酒の勢いで貴族教育で受けたダンスの数々を披露していた。
「お嬢さん、やるな!」
「革鎧じゃなきゃもっと良いんだが!」
「文句言うなら踊んないわよ!」
吟遊詩人のマンドリンに合わせて暫く踊っていたが、酔いが回って来た様だ。
「う〜、、、眠い、、、」
「ったく。ガキの癖にたらふく飲むからだ。度数が低いとはいえ、体格を考えろ。」
彼女は粗野な発言もするが、基本的には箱入り娘なところがある。
大人達に混ざって行軍しているのに、歩けているのは『勇者』のステータス補正があるからに他ならない。
仕方がないので、眠らなくても平気な俺が見ているしかないな。
こうして激動前のシーアフランメの夜は更けていった。




