少女の処遇
「これで『異界』騒ぎも収まった。あとは騎士と冒険者達を丁重に弔わねばなるまい。」
洞窟から出た後、ポール・ウェインと少女を連れ立って帰還する予定だったがそうもいかなくなった。
将軍自身が戦争捕虜という立場を取り続けているからだ。
「全く。将軍、アンタはお人好しだな。敵の埋葬も率先してやるだなんて、俺はそんなの御免だ。」
「なぁ?なんであたしまで埋葬手伝わされてんだ?」
少女は訳も分からずにスコップを握らされ、作業に強制参加させられている。
俺はというと、、、あの闘いぶりを見て俺に指図出来る奴がいたら見てみたいもんだ。
「俺は冒険者で、依頼されてない事は基本しない。聖職者でも奴隷でも無いからな。」
本当は土魔法で一発だが、大概良い人ぶるのもトラブルになる。
俺は煙草に火を付けて騎士や冒険者達の作業風景を眺めていた。
「ちぇっ!なんだよ、あたしだって冒険者だっての。駆け出しだけどな。。。ていうか、ほんと、何処なんだよここは。」
「そういえば娘よ。突然『異界』から出て来たが、まさか『落ち人』か?何処の国から来た?」
丸太の様な太い腕でスコップを持ち上げ、土を掻き出しながら将軍は聞いた。
『クラファリオン』では勇者以外にも『異界』からやってきた人間達がいる。
しかし、それは100年に1人居るか居ないかだ。
冒険者が行方不明になる要因に、ダンジョンの中で『転移罠』にかかって異空間を飛ばされるケースがある。
『落ち人』の大半がそれに当て嵌まる。
ただどちらの場合も『落ち人』と呼ばれ、大抵の場合、双方とも故郷が遠すぎて、帰れないまま亡くなる者がほとんどだ。
「『娘』とか『小娘』とかじゃなくて、メア!メア・スターハートって名前があるから!」
「私はポール・ウェインという。よろしく頼む、メア嬢。しかし、スターハート家か、、、王国には無い家名であるな。」
いつの間にか俺に報酬を渡していたロドスギウスの騎士エヴァンも将軍の傍に来ていた。
「将軍殿、我が国でスターハート家などという家名は聞きません。ロドスギウスの貴族年鑑にも無いと思われます。」
少女はプリプリしながら言った。
「一体どんな田舎なんだよここは!あたしは大陸を支配するスターライト共和国の『五戴星』って呼ばれる大貴族のうちの一つ、スターハート家の一員だ!って言っても星全体に比べればめちゃくちゃ小さい国だし、スターハート家の所領もちょっぴりだし、極め付けはあたしン家は分家。父は貧乏男爵でいっつも忙しくて、母は花嫁修行とか押し付けるから嫌んなっちゃって、家出して冒険者になったんだ!すげぇだろ!?あたし!」
キラキラした瞳で夢見がちな小貴族の放蕩娘が語るのを見て、騎士達が我が事の様に頭を抱えていたが、将軍はある疑問を口にした。
「『星』?とは何だ?あの夜空に光る星の事か?」
「あん?何言ってんだよ。そうに決まってんだろ?あたし達が立ってるこの世界だって星だろ。『惑星』?だっけか。常識じゃん。」
「「????」」
俺は煙草を吹かしながら理解した。
彼女が居た世界は『クラファリオン』の大型DLコンテンツステージ、『アプテズマ』だ。
広大な惑星『アプテズマ』の世界で失われた宇宙文明の遺産を探索し、強力なクリーチャーや魔法生物を討伐し、星と受け継がれた歴史の謎に迫るファンタジー・サイエンスだ。
ちなみに高次機能生成AIがフルスペックでフィールド作製したせいでメインクエスト以外で未開拓マップを攻略するのには300年かかる。
人間の寿命じゃ無理だろ、と誰もが突っ込んだ内容だ。
「なるほどな。『五戴星』とはスターハート、クレストボーンズ、デルタロック、クロスコイル、ファントムレイル。この五大貴族の事だな。」
メアは目をぱちくりさせながら俺を見つめた。
「なんだよ、知ってんじゃん。て事はここは『アプテズマ』のどっかだろ!なんとかなりそうだ!」
「いや、違う。なんともならない。間違いなく、『アプテズマ』じゃあない。今夜、寝る前に星空を見上げると良い。お前は『異界』を通ってきた。何らかの事故でな。そしておそらく二度と戻れん。」
将軍達をそっちのけで話したが、きっと彼女が『勇者』だろう。
そして『異界』を通り、強力なスキルを付与されてこちらの世界『クラファリオン』にやってきたのだ。
「は?え?『アプテズマ』じゃないの?しかも、、、帰れない??」
呆然とするメアをよそに話は進む。
エヴァンと将軍も俺とメアの話を聞いて唸る。
「むぅ。『落ち人』は昔話などで良く出てくるが、やはりそれぞれ異なる世界からやって来るのか。。。」
「一説によれば我々人類は元々『落ち人』が先祖だとも言われているくらいだからな。そういった世界もあるのだろう。それはそうと、随分と『異界』事情に詳しいな、冒険者殿。そういえば、冒険者殿は王国から来たというが、名は?」
「俺はリカルド。冒険者しながら魔法の研究をしてる。趣味はタバコ、女、酒だ。それほど長い付き合いにはならないとは思うが、よろしく。それと、、、メアはまだ大きくならないと口説く気が起きないな。」
俺がちらっとメアの胸元を見ると、赤面してたじろいだ。
「バカにしてるでしょ!それってあたしが成長したら口説く、って言ってるワケ?ちょっとイケメンだからって調子乗んないで!」
俺は2本目の煙草に火を付ける。
「ま、俺の話はどうでもいい。問題はお前さんの方だ。大方どこかのダンジョンを経由して来たんだろうが、スターライト共和国で使っている五星貨幣は使えないぞ。」
「げ!?嘘でしょ?!荷物もダンジョンのセーフゾーンに置いてきちゃったし、あるのは剣と水筒に小銭入れ、このギルド証だけだわ。」
将軍はならばと、懐に手を入れた。
「私は捕虜の身分なれど、王国ではそれなりに名は通っている。ウェイン家でメア嬢の身元を保証しよう。当家の短剣を渡す。関所でそれを見せれば問題なく王国を通行出来るはずだ。」
将軍はウェイン家の紋章が入った短剣をメアに手渡した。
「ありがとうポールさん。悪いけど使わせてもらうよ。なるべく早く返せるようにする。」
「うむ。申し訳ないがリカルド殿、どうやら事情に詳しそうであるから、私の沙汰が決まり次第、彼女の事を保護してもらえないだろうか?」
「はぁ!?何を勝手に!」
「どうするつもりだ?家出娘なんだろ?金も何も無く野垂れ死ぬつもりか。」
俺たちの話がひと段落すると不本意そうな表情でエヴァンが咳払いをし、将軍に言う。
「将軍殿。貴公には先の戦によって捕虜となった事に加えて、指揮官として『異界』討伐した功を報告する為にも、ロドスギウス帝国まで連行致します。」
将軍は大仰に頷いた。
「是非も無し。」
「俺も付いて行くぞ。連れ帰るまでが仕事なんでな。」
「あたしには選択肢は無い、ってワケ。」
こうしてリカルドは供を得て、ロドスギウス帝国まで旅は続く事になった。




