真なる脅威
ゼーテスブランの将軍、ポール・ウェインを連れ戻す依頼を受諾したリカルド。
情報によれば北の国境での大きな戦が発端だ。
永らく北限を支配するロドスギウス帝国は以前から肥沃な耕作地を占有するゼーテスブラン王国を虎視眈々と狙っていた。
逆に王国は帝国が有する未開拓鉱山や貧しい村落を密かに買収し、敵国を併呑する事で緩衝帯とし、武力を強化し、他国との交渉を有利に進めようとしていた。
当初は多くの軍勢を従えたゼーテスブランが有利に進軍したが、地の利に長けたロドスギウスの挟撃により熾烈な消耗戦となった。
将軍は自軍の騎士を退却させる時間を作る為、ロドスギウスの敵将と一騎討ちを挑み善戦するも、最終的に捕らえられたという。
その後どういう訳か、彼らと行動を共にして謎の勢力との戦闘を指揮しているというのだが・・・
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俺は眷属を呼び出す為に魔力を練り、呪文を唱えて手を翳した。
「我が呼び掛けに応え、その契約を果たせ。【サモン・ファウン・アニマ】!!」
魔法陣が地に浮かび上がると、真紅の眼を湛えた黒馬が現れた。
「マーシー、目的地までよろしく頼む。」
ブルルッ!と黒馬が嘶いた。
『死の湖』から馬を北へ駆けると、湖近辺にある魔の森をテリトリーにした俺のゴーレム、【サンド・ナイト】の粛清を逃れた魔物がちらほら現れた。
たった今襲いかかってきたのは魔狼系の亜種、『エヴィンゴ』。
奴等は群れで狩りをするが、通常の魔狼であるワーグ、モーザ・ドゥーグ等と違って念話で連携するので狩りの最中には吠えない。
故に索敵を怠り、エヴィンゴの『始まりの遠吠え』をただの野犬や狼の遠吠えと誤認すれば容易に接近され、気付いた時には囲まれてしまうなど、危険度が非常に高い魔物だ。
しかしながら、俺がまともに相手するには弱過ぎる魔物だ。
「【アース・パイク】」
地中から無数の槍が飛び出し、追い縋るエヴィンゴ達を速贄の様に串刺しにする。
騎乗して剣を振り回すのは面倒なので、土属性魔法で対処する。
魔物の死体は全て『オート・コレクト』でアイテムボックスに放り込まれる。
エヴィンゴ・アルファが忌々しそうに唸ると、黒馬を狙おうと猛スピードで背後から飛び掛かろうとした。
だが黒馬はただの馬ではない。
不死者が使役する魔法生物、巨人族をも超える怪力の『スヴァジルファリ』である。
ゴキッ、と骨が折れる音がすると、エヴィンゴ・アルファはあらぬ方向に首を曲げ、体躯は手足を痙攣させながら野に転がり、アイテムボックスに収納された。
「良い蹴りだったな、マーシー。」
そう言いながら鬣を撫でると嬉しそうな反応を示した。
エヴィンゴを蹴散らして暫く馬を走らせると、ゼーテスブランとロドスギウスの国境付近にある戦場跡に到着した。
死体漁りが戦死者の持ち物を粗方奪ったようだ。
瘴気の溜まり具合からいって、遺体のアンデッド化は未だだが、不死者にとっては脅威にはならない。
「む、、、あれは何だ?何やら賑やかな事になっているな。」
山間から立ち上る狼煙が麓である戦地からも見える。
ポール・ウェイン将軍の手掛かりがあれば良いが。
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「これはこれは、冒険者がわざわざこんな山奥まで。実に有難いですな。」
狼煙の出元を見つけ出すとそこは小さな村だった。
ロドスギウスの最南端にある村。
当然の如くロドスギウスの騎士が見張りを立て、検問を設けている。
通りには騎士達の遺体が並べられ、怪我人が手当を受けている天幕も見受けられた。
如何にも怪しげな身なりの俺でも村に入れたのは、馬持ちで実績ある冒険者だからという事だった。
何やら事情が有りそうだ。
俺を出迎えてくれたのは村長で、藁にも縋る思いで騎士や冒険者に『お願い』をしているらしかった。
「『異形の戦士』?」
「ええ。奴らは人間じゃあない。我々、村の者だけでは確実に全滅していたでしょう。この間、ゼーテスブランと戦があったでしょう?その後、戦から帰る途中の騎士様が助力下さったおかげでなんとか助かりました。」
村長がその後俺を案内した場所は狼煙の発生源だ。
「これが『異形の戦士』と『蜘蛛兎』です。戦士の方はトロルに似た体躯で、全身毛むくじゃら。眼も鼻も耳も付いてない。あるのはこの醜い口だけ。両手足は太い指が3本ずつ。解体しても死体に魔石も心臓も無い。蜘蛛兎はとにかく悍ましい見てくれで、兎の耳に蜘蛛の体。いったいどうなっているんだか。。。」
人型の毛むくじゃらの方は毛皮を剥ぎ取って防寒用の革にでもするつもりだろう。
肉や骨も解体され尽くされ、内臓と思しき場所だけ焼いている。
蜘蛛兎は何もされずに焼かれていた。
毛むくじゃらの持っていた武器はメイスの様だ。
野蛮な見た目の割には精巧な作りに見える。
「武器は不思議な石で出来た棍棒で、これまた頑丈なんです。騎士様も結構やられてましたね。」
話の途中でロドスギウスの騎士が現れた。
「そこの冒険者に尋ねる。貴様はゼーテスブランから来たのか?」
「そうだが?」
「貴様の馬を徴用したい。幾ら払えば良い?」
俺はアイテムボックスからタバコを取り出し咥え、火を付ける。
「無理だな。黒馬は俺が召喚して呼び出した魔法生物。俺以外には従わない。」
「ならば、貴様を無理矢理にでも・・・」
「死にたくなければやめておけ。この剣が見えるか?これまで数え切れない人間や魔物の血を吸ってきた。ほら、コイツがお前の血を吸いたがっている。」
『吸血剣メアリー』には争いを嗅ぎ取り絶え間無い復讐と流血を好む寡婦の意思が宿っている。
あまりの恐ろしさに騎士はたじろぐが、頑として引く様子は無い。
懐から金貨がギッチリ入った袋を取り出し、俺に突き付けた。
「ならば、その魔なる剣を我々人類の為に振るって欲しいものだな。残念ながら議論してる暇は無い。」
俺は金貨を受け取り、煙を吹かすと騎士を落ち着かせた。
「何を焦っている?毛が生えたトロル擬きに手こずっているのは分かったが、所詮は頭の悪い魔物だろう?やりようがあるんじゃないのか?」
「貴様が我々騎士を愚弄するのをこの場で許すのは、あくまで急を要するからだ。良いか、詳しく教えてやる。忌々しい奴ら毛玉族は『異界』から来た禍いだ。あの体格でトロル以上の知能、それに素早さ、そしてどうやってか分からないが連携を取って襲い掛かる。しかもあの強力なメイスだ。私の鎧を見るが良い。」
鎧はあちこち凹み、ところどころ割れて防具としてはかなり厳しい状態になっている。
「戦帰りに村に寄って皆に休養を取らせていた。村長が鉱山の洞窟の様子がおかしいと報告してきたので、村人と騎士数名で見に行かせた。魔素が濃いと時折ダンジョンが発生する事がある。それはある意味良いとも言える。鉱山が拡張するという事だからな。だが、そこで起きた事は、、、虐殺だ。なんとか逃げ出した騎士が我々の所に辿り着いた頃には、毛玉族どもは村までもうすぐというところだった。将軍殿がいてくれなければ、我々は今頃全滅していただろう。今は将軍殿と生き残った部下達が押し込んだ影響か、『門』が小康状態だが、全開になり、奴らが溢れればロドスギウスもゼーテスブランも危機に陥るだろう。」
俺は火の消えたタバコを捨て、踏みつけた。
「ロドスギウスの大将は?」
「将軍殿との決闘で討死した。立派な最期であった。当初は捕虜の扱いだったが、鬨の声を上げ、この村と騎士達を束ねる将軍殿が最高指揮官である。」
「フン、、、つまり毛玉族を片付け、将軍と騎士達に助力し、世界を救え、って事で良いのか?」
「如何にも。」




