騎士の先遣隊
リカルドが『拠点築城』を終えた翌日、僕が仕事に出ていた頃にはマルタの街は騒然としていた。
早朝、街の外壁に立つ物見櫓から監視する衛兵が、突如現れた城を発見したからだ。
誰が起こした騒ぎなのか知っている僕は澄まし顔で朝食を取った。
「おは!リカルドの弟さんでしょ?よろしくね!」
「おはよう、よろしく。いつでもどうぞ。」
「おっはー!ジュール君でしょ?元気してる?」
「おはよう。元気も元気。君も元気良いね。そういうの好きだよ。」
「リリーから聞いたよ〜?街について分かんない事あったら言ってね?」
「ありがとう。親切で綺麗なお姉さん。」
ただテラス席で朝食を食べて紅茶を飲んでるだけなのに、女の子に声をかけられまくる。
これがイケメンか。
やはりイケメンしか勝たないのか異世界も。
だが今や僕もイケメンの1人。
慣れて調子良く生きていきたい。
今日は商業ギルドに登録して、薬草を売りに行く予定だ。
商業ギルドは冒険者ギルドと同じく『クラファリオン』にある公的組織だ。
〇〇王国商業ギルド、といった具合に、あくまでも国家に紐付けされていて、必ずしも商業ギルド同士が一枚岩とは言えない。
この組織は販路拡大や税務関係、金融相談や専門家の派遣も行ってくれる。
他には自国通過の流通及び回収業務、各国通貨の両替、冒険者ギルドとの業務提携、住宅販売斡旋、住宅の売買、王国所有地借款登録、新発明や開発をした際特許の出願申請・既存特許の確認、両替、融資等様々なサービスがある。
僕の様な個人事業主でも老舗の大店でも商業ギルド登録にはメリットがある。
取引や橋渡しを代理してくれるから、互いに無益な争いをしなくとも良いのだ。
商業ギルドに無登録の商人も沢山いるが、少ない登録料で国のお墨付きが得られる訳だから、やらないよりやっていた方が良いと僕は思う。
僕としては買い叩かれずに卸売り出来ればそれで良いんだけど。
最後に苦情処理、訴訟、不正調査、王国強制執行代理などがある。
商業ギルド近くで街民の噂話が聞こえてくる。
「なんかマルタ魔境森林にある『死の湖』付近に城が現れたらしい。」
「城が?!訳わかんねえよ。城が『建つ』なら分かるが、『現れた』って・・・」
「意味不明だ。」
騎士達が甲冑をガチャガチャ鳴らしながら僕の作った城に向かって集まっていく。
リカルドの事だから、何食わぬ顔でマルタに来てるんだろう。
執事のクロードもその辺りは分かってるから、門番に【サンド・ナイト】を立たせるくらいはしてるはずだ。
朝食を食べ終え、商業ギルドの扉を開く。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
お洒落な制服の受付嬢が応接してくれる。
「僕はジュール。薬草と香を専門で作って売っているんだ。最近、評判が良いから商業ギルドで卸売業者に買取してもらいたくてね。個人で事業したいから、取引先の都合と売り物の確保の両立が時間的に難しくて。」
「それでしたら我々商業ギルドにお任せください。定期で販売するか、不定期で販売するかで買取価格と取引内容が変わります。買取する商品は審査が必要です。審査が終わりました商品は品質に問題が無ければジュール様の買取希望額を示し、その後買取見積り額を幾つかの卸売業者から提示してもらい。取引成立するかしないか交渉をします。」
僕はアイテム・ボックスから希少な薬草とそれを使用した香を取り出し、実際に使用してみせた。
「こ、これは素晴らしい商品ですね。私自身、欲しくなってしまいました。」
「宣伝も兼ねて、これからここに来る人が、僕の商品を買ってくれる様に言っておいて。そんなに量は作れないと思うけど。」
「畏まりました。我々の方で審査は進めて参りますが、おそらく大丈夫だとは思います。問題が無ければそのままこちらで買取見積り額の提示を進めますので、ジュール様の買取希望額を決めましょう。」
商業ギルドでの登録は好感触で終わった。
今持っている分だけでもギルドでサンプルとして買い取ってもらえたので、1セットで金貨4枚と銀貨5枚になった。
1時間程の話し合いで色々な事を教えてもらえたし、次は1週間後に納品と買取見積り提示だ。
『色々な事』の内訳には受付嬢との個人的な遣り取りも含まれていた。
彼女が僕と一緒にデートする約束の事だ。
さり気なく紙に自己紹介を書いて渡してくれた。
シオンという名前で、お洒落な服とカフェ巡りが好き。
「明日、マルタの街にあるケーキと紅茶が美味しい喫茶店、『マドモワゼル・スイート』で待ち合わせか。帰りは酒と食料、果物でも買っていくか。」
まだ宿屋に戻るには早過ぎるので、魔道具屋に行く。
店内は宝石付きのドリーム・キャッチャーの様なものが沢山飾り付けられていて、陽の光に当たりキラキラと輝いていた。
「お邪魔します。」
「らっしゃい。」
『クラファリオン』ではステータスボーナスの付くアクセサリーや、結界、幻惑効果のあるオブジェ、妙な効果があるものまで色々ある。
「これは?」
僕は陳列棚にあったボロいペイズリー柄のバンダナを店主に見せる。
「ん?あぁ、そりゃ魔力が込められたボロ布だ。欲しけりゃ銭貨1枚。」
ウィンドウで見ると『異界の勇者の聖骸布』と表示されている。
俺以外にも異世界から来た人間がいるんだろうか。
バンダナの他にも、ランプを幾つか、属性魔法補正の指輪、護りのバングル、保温の合羽を購入した。
店から出るとばったりリカルドと鉢合わせした。
「あ、兄さん、首尾はどうなの?」
「上々だ。城は問題無く機能しているし、防衛用のゴーレムも整然と動いた。途中、出会った騎士に呼び止められて、『あれは俺の城だ』と言ったら質問責めにあってな。ジュールが商業ギルドに行ってるのを思い出して、王国所有地借款登録に行こうかと思ってると伝えたら、あっさり通してくれた。おそらく『死の湖』は誰の土地でもないとは思うがな。」
それホントについさっき思い付いたんだね、僕。
やっぱりゲームの世界とは違ってややこしい事になるな。
「それで?後ろの方は?」
「ん?そういえば護衛がどうとか、高貴なるお方がどうとか。俺は貴族じゃないし、強いから護衛は要らんと言ったのに。紹介しよう、弟のジュールだ。」
背後にいる偉丈夫は正体不明の城を調査しにいった騎士の先遣隊のうちの2人という事だろう。
「そちらが、リカルド殿の弟君でしょうか。ゼーテスブラン王国のダグラス・ミエレンタだ。よろしく。」
「いやはや、そっくりなご兄弟ですな。私はケンベルク・リドル。よしなに、ジュール殿。」
「初めまして、ミエレンタ卿、リドル卿。僕も兄も、貴族じゃないですから、そんなに畏まらなくても。」
騎士2人は畏れ多いとでも言うように、首を振った。
「何を仰る。あれほど立派な居城を持ち、魔力豊富なゴーレム騎士を揃えられる人材が貴族でなく、一般庶民であれば大問題ですぞ?」
「騎士の奉公する場所を決めるのは、その土地の領主や街の有力者ですからな。あの『死の湖』の主人たる力を持つ兄君が在らせられるのであれば、我が王国も安泰というものだ。」
ついに兄さんは『クラファリオン』におけるチュートリアル、『ゼーテスブラン王との謁見』イベントが発生したみたいだな。
「ま、僕は弟ですから、たまに兄さんの城に遊びに行くくらいでしょうけど。」
「とんでもない。兄君に何かあったらジュール殿が・・・」
「俺は死なん。それはジュールも知ってるはずだ。」
「そうだね。兄さんにもしもは無い。」
騎士2人は頷き、リカルドと僕に伝えた。
「彼にはマルタに滞在してるうちに、街の教会で騎士叙任を受けてもらいたい。ゼーテスブラン王が偶々、近くに外遊していた事もあって城の視察も兼ねて来て下さるそうだ。」
「王から出向くなど本来無いが、現王は無駄な事が嫌いだ。わざわざ王都に戻って、また来て城を見に来るなんてしたくないのだろうな。」
やはりイベント発生だったか。
「じゃあ、頑張ってね、兄さん。」
「分かった。俺は今日は宿に泊まるが、遊ぶのは今度だな。女性達には城にいつでも遊びにきてくれと伝えて欲しい。」
3人と別れると、僕は執事クロードの様子をウィンドウで見る。
騎士の先遣隊が城門の周辺に展開しているのが確認出来た。
【サンド・ナイト】が昼夜問わず展開して、猿、猪、水妖、仏が居る限り、魔物は騎士を襲えない。
今頃『死の湖』が不死者リカルドによって完全掌握された事を実感しているだろう。




