4.第3の危機①
リスノスケを乗せたドローンは森林の木々の上を飛んでいます。
「チャア……どこかで下ろしてくれないかなあ。でもここで下ろされても戻るの大変だよね。元の崖に近いとこに戻ってくれないかなあ」
リスノスケが呟いていると、遠くで森の中から空中に一羽の鳥が飛び出してきたのが見えました。
「あ、あれは」
嫌な予感がリスノスケの背を走ります。
◇◆◇
そして当然、凜乃輔もその鳥が飛び出すところを見ていました。
「ん?なんだあれ?なんか猛禽類っぽいな?タカ?」
そこで猛禽類好きの友人の話を思い出します。
『猛禽類は好奇心でドローンに寄ってくるのもいるけど、攻撃してくるのもいるからな。繁殖期ほど気は立ってないだろうが飛ばすんなら気をつけろ』
「じゃあ、あまり刺激しない程度に近づいて撮影するか」
その『刺激しない程度』がどの程度の距離なのかよく分かっていないままに凜乃輔はドローンをタカに向けて飛ばします。
◇◆◇
「チャアアアアアー!やっぱりいいい!」
リスノスケの予想どおりドローンはタカに向かっていきます。
鷹の方でもドローン上のリスノスケをその目に捉えて真っすぐ向かってきます。
そしてドローンの正面にきたところで少し上昇し、一気に降下してにリスノスケに襲い掛かります!
「チャアアアー!」
とっさにリスノスケは左斜め前方にジャンプ!
タカの襲撃を躱してプロペラを支えるアームに両手で捕まります。
リスノスケを捉え損ねたタカはカツッと機体に軽く爪を当てて一旦ドローンの後方に飛び去ります。
その隙にリスノスケはアームをよじ登って機体に乗り直しました。
◇◆◇
「は!?え?今の何?リス?どっから落ちてきたの?あのタカが落としたとか?いやそんなわけないだろ!」
リスノスケがアームに飛び乗った映像を見た凜乃輔は混乱しますが考えればすぐにわかります。
やけに近くで聞こえる鳥のような鳴き声。
執拗に追ってくるイタチ。
巨大魚とぶつかったときに写った謎の物体。
「あの崖からずっと乗ってたのか……」
凜乃輔は気付きます。
「いやいや呆けてる場合じゃねえ!このままじゃあいつタカに食われるだろ、なんとか逃がして」
そこでふと、亡くなった祖父に昔言われたことを思い出しました。
『人間や飼っている動物に危険がなければ、野生動物の食う食われるに人間は手を出してはならない』
と。
凜乃輔は迷いましたが
「ゴメン、爺ちゃん。今回だけは見逃してくれ。さすがにこれは俺の責任だろ」
リスノスケを逃がす決意を固め、コントローラーを握りなおします。
「よーし、リスー!しっかり掴まってろよー」
◇◆◇
「よーし、リスー!しっかり掴まってろよー」
「チャ?こんどはタカから逃げてくれてる?」
これまでと違い、何故かタカから逃げるように飛びはじめたドローンにリスノスケが戸惑います。
凜乃輔の言葉は聞こえない(聞いても分かりませんが)ので理由が分からないのです。
しかしむしろその方が都合がよいので、振り返って追ってくるタカを注視します。
「スピードを上げて……よし、引き離せてる。このままいけるか」
凜乃輔は猛禽類好きの友人にタカの水平飛行速度は平均時速50キロ前後のものが多いと聞いていました。
大概のタカなら最高時速70キロ近い凜乃輔のドローンの方が速いはずなのです。
「この方向だと戻ってこれないな。右に旋回ー」
と、凜乃輔がドローンを右に旋回させたところ、タカはそのコースの内側をショートカットしてきました!
「!危ない!」
とっさに左に旋回し、タカを再び引き離します。
「クソッ、旋回性能はあっちが上か。当分直行で引き離すしかないか」
凜乃輔が呟いた次の瞬間タカが飛行姿勢を変えます。
「!?なんかやばい!」
とっさに飛行の方向を変えたドローンの横をタカが掠めていきます。
「チャアアア!」
「なんだあのスピード!」
叫んだところで凜乃輔は猛禽類好きの友人の話を思い出します。
『まあ時速50キロって言っても落下飛行ならその倍以上のスピード出せるけど。あとは気流を利用したり最短距離を飛んだりして自分より水平飛行速度の速い鳥類を捕食したりするね』
「真っすぐ逃げれば逃げ切れるってわけでもないのか……って危ない!」
「チャア!」
通り抜けた後、ターンして前方から襲ってきたタカを躱します。
凜乃輔とリスノスケの逃亡はまだ続きます。