1.予想外の飛行
童話風アニマルアクションアドベンチャー小説
ある秋晴れの休日。
北海道の札幌で会社員をしている凜乃輔は人気のない山で1人、買ったばかりのドローンで空撮を楽しんでいました。
「いやー、いい!規制対象外の小っこいドローンとは全然違う。免許取って良かった」
以前は免許の必要ない小さなドローンを室内で飛ばしていたのですが、屋外での空撮などやってみたくなったので、免許を取ってより性能の高いドローンを購入したのです。
「……ん?何?」
ポケットの振動に気付いた凜乃輔がスマホを取り出すと、離れて暮らしている母親からの電話でした。
「なんだよオカン、いいとこなのに……」
しかし凜乃輔が出なければいつまでも鳴らし続けることが分かっているので、一旦電話に出ることにします。
「ドローン着陸させるのにいい場所ないかな……電話に出てる間に動物に壊されたりしたら困るし……」
ドローンに搭載されたカメラから送られてくる映像をモニターで見てどこかよい場所はないかと探してみます。
すると、高さ10メートル程の切り立った崖のちょうど真ん中あたりに3平方メートル程の平地になっている地形を見つけました。
あそこなら、崖の上からも下からも大きな動物は来られそうにありません。
その狭い平地には1本だけ生えています。
「地震か何かでできた地形なのかな?ま、いいや。あの平地ならちょうどいいな」
凜乃輔はその平地にゆっくりとドローンを着陸させ、電話に出るのでした。
◇◆◇
その日リスのリスノスケはオヤツのドングリを片手に抱えて崖の途中にある平地に昼寝に行きました。
この平地はリスなら崖を昇り降りして来れますが、イタチや野犬は来れません。
また、崖と平地に生えた木が邪魔になるので、大きな鳥も襲ってきません。
リスにはちょうどいい昼寝場所だったのです。
ところが、リスノスケが平地に着くと、そこには見慣れないものがありました。
「チャ?なにこれ?」
もちろんそれは凛乃輔のドローンだったのですがリスノスケには分かりません。
分からないなりに触ったり匂いを嗅いだりしてみます。
「ニンゲンのつかう道具っぽい?」
とりあえず危険は無さそうなのでオヤツのドングリを地面に置いて、好奇心のままに中央のカメラ等を搭載した機体部分によじ登ってみます。
機体の金属部分が太陽で程良く温まっており、リスノスケの眠気を誘います。
「ふわあ……」
こうしてリスノスケはドローンの上で眠り込んでしまいました。
◇◆◇
「はああ、ったく。言われなくたって年末には帰るってのに」
30分程母親からの電話に付き合った凛乃輔はスマホを仕舞うと再びドローンのコントローラーを握ります。
「さ、気を取り直していきますかっと」
◇◆◇
「ん……ムニャ……」
振動と浮遊感を感じたリスノスケが目を覚まします。
「けしきが下に流れていく?……チャアアアアア!?」
そう、ドローンに乗っていたリスノスケは寝ている間に宙に飛んでしまっていたのです。
気付いたときにはもう跳び降りられる高さを越えてしまっていました。
残念なことにカメラの死角に乗っているリスノスケは凜乃輔に気付いてもらえていません。
リスノスケの必死の叫びも「何か変わった鳥の声が入ってるな?」くらいにしか思われてないのです。
「ボクこれからどうなるのおおお!?」
作中のドローンの性能や動物の生態はかなりいいかげんです。