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羽浜中学校新聞部

惑星最大の大陸の東端、極東と呼ばれる地域に、とある島国があった。


その島国は主要となる4つの大きな島と、付属する無数の大小様々な島々から成っていた。

最大の島の中央には3000m級の山々が連なる、3つの大きな山脈がはしりこの島国を東西を分断していた。

中央の山脈の西側にはこの国最大の湖があり、山脈東側には単独でそびえるこの国最大の山である成層火山がある。

成層火山よりもうすこし東にいくと巨大な平野が広がっていた。この平野は島国最大の平野で、山地や丘陵の多い島国の総人口の4分の1がこの平野に暮らしていた。

平野には平野の中央部まで入り込む大きな港湾があり、その北端にこの国の首都があった。



その首都から離れること数百キロの位置に小さな地方都市・羽浜うはま市があった。

羽浜市の人口は五万人。今から約50年前に行われた合併により羽浜市の原型となる"大"羽浜町が誕生し、その後市制に移行。そして現在の羽浜市に至る。

羽浜市の北東約30キロには十万都市・七倉ななくら市があり、南約50キロには五十万都市であり中核都市でもある県都・金城きんじょう市がある。

羽浜市は、この二都市の中間点と、鉄道のハブ駅であることから地方都市ながら発展した。

発展の原動力となった羽浜駅の西側は住宅街が広がり、東側には繁華街が広がっている。



住宅街が集中している中に、羽浜郡立羽浜中学校と言う六年制の郡立中学校があった。

場所は羽浜駅の南西に位置し、徒歩十分程の距離である。

周囲は住宅に囲まれていた。




  * * *




西暦2010年4月10日

羽浜中学校の校内、いくつもある校舎の中に新聞部の部室があった。

その中には応接セットと部屋を分ける様に仕切りがあり、その奥に大きな机が二つあった。一つは窓を背に真ん中に置いてあり、もう一つは中央の机を正面から見て右側、大きな本棚を背にして置いてあった。

中央の机には三角錐の白いプレートがあり、黒色で部長と書かれていた。

その中央の机の席に髪が黒く、長さはやや長いくらの、顔立ちが整っている黒縁の眼鏡のかけた少年がいた。制服の名札には、長門と書かれていた。

彼は終始無言で、窓のほうを向きながら本を読んでいた。

そこに部屋の左にあるドアから一人の少女が歩いてきた。

身長は女子にしてはかなり大きい、眼鏡をかけた少女だった。制服の名札には、近本と書かれていた。手にはお盆がのせられていて、お盆の上には中身の入った二つのティーカップがあった。

彼女が少年の座っている席の前に立つと、

「お茶だよ、祐」

そう呼びかけると、祐と呼ばれる少年が振り向き、背の高い女子生徒からティーカップを受け取った。

「いつもすまんな、葵」

長門から感謝の言葉を受けて、

「どういたしまして」

葵と呼ばれる女子生徒は笑みをうかべながら返答し、残るお盆とその上のティーカップを携えながら右側側面の席に移動し、お盆を机に置いた後、着席した。

着席した机には三角錐の白いプレートがあり、黒色で副部長と書かれていた。

長門はもらったコーヒーカップの口を口にあて、コーヒーを飲んだ。

一口飲んだところで飲むのをやめ、

「やっぱり苦い」

ぽつりと一言漏らした。

コーヒーカップをソーサー(受け皿)に置き、角砂糖をコーヒーに入れながら、

「葵はよくこんな苦いのが飲めるな?」

ブラックコーヒーを悠々と飲んでいる近本に聞いた。

近本は、

「これじゃないとコーヒー本来の味は分からないからね」

とさらりと答え、

「ちょっと祐、砂糖とミルク入れ過ぎじゃないか?」

角砂糖とミルクを何個も入れている長門に言った。

「これくらいじゃないと飲めない…」

「それじゃあカフェ・オ・レじゃないか」

「そうだな」

「まったく祐はお子様だなぁ。大人なのは学校の成績だけなのかい?」

「そんなことはないが、苦い物駄目なんだ…」


しばらく無言の時が流れた。

部室には近くで活動している弓道部員の弓を射る音と、的に当たった音だけが響いた。


「葵、春休み明けのテストどうだった?」

つかの間の静寂を長門が破った。

近本はコーヒーカップを持ちながら、

「うーんそうだねぇ、490に届いたからまあまあかな」

と答えた。

近本はコーヒーカップを一旦ソーサーに置いた。

「ところで祐はどうだったんだ」

「自分か?自分は496だったよ」

「惜しかったなあと4点で500点だったのに」

「そう思いたいけど英語がなぁ…英語さえなければ満点だったのに…」

「そうだな」

英語を嘆いている長門に近本は短く同意した。

「でも、祐は学年トップなんだろ?」

「一応な。でも500点取れなかったことが唯一の心残りだ…」

「そうかい」

「で、葵はどうだったんだ?学年2位か?」

「んーそうだね、今回は加納に勝ったからそうかもしれないな」

「靖に勝ったのか?それなら2位だな」

「そうなのか?だったら久しぶりだな、2位になったのは」

「それはよかったな」


長門は話し終えると窓を開け、空を見上げた。

今日の空は蒼く、蒼穹そうきゅうたる大空に雲が靉靆あいたいとしている。

時より部室には、颯然そうぜんと風が吹き込んでくる。

それは、暖かい春の風だった。

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