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 ……そもそも女性が苦手なのに女性を好きになったりするはずがないと、わかっているはずなのに……。


 そう考えるとなんだかイーディスまでしょんぼりとしてきてしまう。


「うん。俺はこうして、貴方に手を差し伸べてもらえて今、ジェーンから距離を置けてる……貴方は、あの舞踏会の日に俺に貴方自身をみたといいました。それはきっと間違ってなかった」


 ルチアに餌をやりながら、アルバートは流し目でイーディスを見る。


「お互いに元婚約者とはどんな関係だったのかは、詳しく話をしていないけど、俺たちは似た者同士だったと思います。……だから、きっとこうしてそばに寄り添うのは正しい事で、間違っていない。それに俺、貴方はあまり怖くないですからね」


 言いながらもアルバートはどこか思い詰めているような顔をしていて、イーディスの件についてはきちんと方もついたし、ウォーレスとは物理的にも距離を置けて、彼は社交界に権力を持って戻ってくるようなことは無いと思う。


 しかし、アルバートの婚約者であるジェーンは別だ。


 彼女から、イーディスは婚約者を奪い取って結婚した形になる。そこについても問題は解決したとは言えないだろう。


 それに、アルバートはいくら水の魔法を持っていて、優しい気質なのだとしても女性に怯えるほど酷い婚約者に、周りも彼自身も自発的に離れようとしなかったのには理由があるだろう。


 ……その理由もいまだ彼は言わないし、こうしてたまに、自分に言い聞かせるような言葉を口にしている。これで良かったって思い込みたいみたいに。

 

 何かあることは確実なのに、イーディスは結婚までしているアルバートに対して踏み込めずにいた。


「逆に……イーディスは、俺の事、というか男性が怖くはありませんか? こうして共に暮らしているけど、俺は図体が大きくて歳も貴方より上ですし」


 考え込んでいるとアルバートはおもむろにかがんで目線を合わせるようにイーディスに向き合う。


 いつもは見上げている綺麗な瞳が目の前にあって、向かい合って座っている時より距離が近い。


「……怖くはないわ。ただ、そうね。あまり近いと変な動悸がしてくるぐらいで」


 急な接近にイーディスは一人で勝手にどぎまぎしながらそう言った。しかし、その言葉に、アルバートはすぐに一歩離れて距離を置いて「ごめん」と謝った。


 ……どうして謝るの?


「緊張して、ドキドキしてしまいますよね。俺の方もできるだけ配慮します」

「ええ、緊張してドキドキしてしまうけど、アルバートが無理していないなら、むしろ気軽にそばに寄ってくれた方がうれしいわ」


 言いながら、アルバートに一歩近づく。


 すると彼はまったく理解していなさそうな顔をして、頭に疑問符を浮かべるが離れていくようなことは無い。


 ……ああもしかして、怖くないって私が強がって言ったと思ったのかしら。


 だから怖いという言葉を使わずに、配慮をしてくれた。


 なんだかその気遣いと優しさに胸がぽかぽかとしてくる。他人の機微を窺うこと、言葉の裏を読むことは職業上、イーディスの得意とするところだし、他人に当たり前にそう接している。


 しかし、ここまで配慮されているというか、イーディス自身を気遣おうとしてくれる人がそばにいたことは無い。


 こんなにうれしいものなのかと思って、つい微笑んだ。


 すると「カー!」と主張するような鳴き声が聞こえて、ばさりと羽ばたきルチアがイーディスとアルバートの間に割って入った。


「わっ、と」


 それに咄嗟にアルバートがルチアの足元に手を差し出して、その手を止まり木のようにしてルチアはイーディスを見やった。


 彼の黒い瞳はキラキラとしていて、魔獣らしい美しい瞳は相変わらず眼力がある。そしてその眼力でイーディスに訴えかけてきた。


「そんな目をしないでよ。忘れていてごめんなさい、すぐにあげますから。……アルバートそのままその子を持っていてあげてくれる?」

「うん、構わないけど」


 アルバートの腕に止まったままのルチアにイーディスは目を合わせながらゆっくりと頭を撫でた。


 魔力を紡ぎだし彼にゆっくりと注ぎ込む。そうすると魔獣の魔力がともった瞳がさらに輝きを増して、黒い瞳の中に小さな粒子がキラキラと星のようにうかぶ。


 吸い込まれてしまいそうなほど綺麗でうつくしい夜空が広がっているようだった。


「……前から思っていたんだけど、綺麗ですね」

「そうね。それによく言う事を聞いてくれるし、信頼できる相棒だわ」

「……えっと、ごめんなさい。貴方の事です」


 ……?


 言われて視線だけで上を向くと、ばっちりと目が合う。そして確かに、ルチアはこちらを向いているのだから、アルバートにはその瞳は見えないはずだった。


「魔力を使うとき、人間も魔獣のように瞳に魔力が宿るから、その輝きが、イーディスのアメジスト色の瞳を彩ってすごく綺麗ですよ」

「……どうもありがとう」

「いえ」


 優しく微笑むアルバートに、イーディスは呆然としたまま答えた。そして妙な勘違いをしてしまいそうになる。


 少しぐらいはイーディスの事を好意的に思ってくれているのだと、考えたくなる。


 ……参ったわね。


 そう思ってから思考を停止した。考えない事にした方がいい気がして、気持ちにどうにか蓋をした。


 まだまだ結婚生活は始まったばかりなのに困ったものだった。






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