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【完結】契約結婚しましょうか!~元婚約者を見返すための幸せ同盟~  作者: ぽんぽこ狸


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 ウォーレスの手を握っているアルバートの手には相当に力が入っている様子で、ウォーレスの手が白く血の気を失っていた。


 ……。


「っ、お、お前か人の婚約者を奪って勝手に婚姻を結んだ相手はっ」

「はい。そうですが、何か不満があるのでしょうか」

「なんっ、なんだと?!」


 まったくひるまないアルバートにウォーレスは驚き半分怒り半分といった具合に混乱して声を荒げた。


 それに厳しい顔をしつつもアルバートは冷静にイーディスを自分の後ろになるようにかばって、彼と向かい合った。

 

 間に人を一人挟むだけでも、随分とイーディスは安心してしまって、息をつく。しかし、そうも言っていられない無理をさせるつもりはないのだ。


 自分は大丈夫だと言うつもりでアルバートの服の裾を引く。


 すると、様子を確認するように彼は振り返りながら言うのだった。


「貴方が、彼女を尊重せずに、酷い扱いをして一般的に婚約を破棄されてもおかしくない行為をしたのですよね。奪ったという点については文句はありませんが、不要だと思っていたから辛く当たっていたはずです」


 振り返ったアルバートはあまり無理をしているという様子ではなく、いつものように困ったような笑みを浮かべていた。


「なのにどうして、彼女が婚姻をして怒っているんですか?」

「それ、それはな。俺がイーディスにつらく当たっていたのは、試練だっ、躾だっそうしてイーディスをよりいい女にしてやるために俺が苦痛を与えてやっていたんだよ」

「なんのためにですか」


 笑みを浮かべてから、すぐにまたウォーレスの方へと向き直る。


 アルバートはどうやらイーディスを安心させるためだけに振り向いたらしかった。


「決まっているだろ。男に付き従い、一生を捧げる。それをすることが女の幸せというものだ!!それに気づかせてやるために俺はイーディスをそだててやっていたんだよ!」


 彼は決め台詞のように言い、それにアルバートはすぐに切り返した。


「ならもう必要ありませんね。今、幸せですから、俺も……イーディスも」

「……こ、このっ」


 ウォーレスは言われた言葉にカチンときた様子で、拳を振りかぶる。しかし、それはバチンと音を立てて、水の膜に当たりアルバートには届かなかった。


「魔法だと、ひ、卑怯だぞ!」

「行きましょうか……イ、イーディス」


 やわやわと揺れてウォーレスがあばれるのを防いでいる水の膜は彼が動くと共に移動して、やってきた兵士に押さえられて何かをわめいているウォーレスは引きずられて連れていかれる。


 実はウォーレスは、イーディスとの婚約破棄や一連の嫌がらせ騒動の問題もあり地方の子爵家へと婿養子に入ることが決まっている。


 ここで何を言ってもイーディスやアルバートに今後、危害が加えられることはない。


 アルバートは身を翻しつつ、そうして恥ずかしそうにイーディスの名を呼んだ。


 イーディスも彼の後に続くが、正直とても不思議だった。


 あんなに毅然とした態度を取ってきちんと対応できるのに、何故イーディスの名前を呼ぶぐらいでそんなに躊躇するのだろう。


 今までの結婚生活も、どうにもおどおどとしているというか、繊細な人というイメージだったのが覆った気分だ。


「あの、アルバート」


 とにかくお礼でも言って、どうして今日はそんなに頑張ってくれたのかと聞こうとした。その前にアルバートはイーディスの隣を歩きながらまた、怯えたようなしょぼくれ具合に戻る。


「イーディス、それ、その、ちゃんとできてましたか?」

「あ、う、うん?」


 ちゃんとできていたというのはウォーレスに対する態度の事だろうか、よくわからなくてイーディスは適当に頷く。


 それにアルバートはとても安心したように空色の瞳を細くして「よかった」と言う。


「こうして、イーディスと結婚出来て嬉しいという気持ちは本物だけど、いざ、幸せだと口にするのはとても緊張しました」


 ほっとした様子でそう続ける彼に、イーディスは先ほどの会話をもう一度思い出した。それから無性にどきどきしてくる。


 彼の態度の方に目が行ってすっかり忘れていたが、幸せそうにして元婚約者を見返したいと言ったのはイーディスで、そのための契約結婚だ。そういう事になっている。


 ……そうだけど、嬉しいけど……あれ?


「これからも見返せるように、頑張るね」

「……」


 振り返って言う彼になんだか顔が熱くなる。


 イーディスはいろんな気持ちで彼を結婚という形で不幸から逃げ出せるように手段を渡したかった。


 だから無理を通して、彼と結婚した。


 そこには恩返しとか、契約結婚の条件だとかいろいろな打算があったはずだ。

 

 それなのに、こうして当たり前のように結婚できたことが、嬉しいとか幸せとか言われると、どうにも心臓が痛い。


 まさか自分の中にはもしかして、まったく想定していなかった感情があったのではないか。そんな風に思わせる。


「さ、帰ろう。イーディス」


 エントランスを出て、すでに用意されている馬車の前で彼がイーディスに手を伸ばす。その手を取ると体が熱くて、これは参ったと思う。


 そんなこんなでイーディスとアルバートの波乱万丈の契約結婚は幕を開けたのだった。





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