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 イーディスとアルバートの結婚式はとてもひっそりと行われた。


 お互いの婚約者に後悔させるための契約結婚ではあったが、流石に婚約を急に取りやめた者同士、あまり敵を作らないように派手に立ち回らないというのは二人の中では納得の共通意識だった。


 しかし、それでも、イーディスの婚約者であったウォーレスが猛烈にイーディスに怒りを向けていた。


 大元の問題は彼にあったはずなのに、逃げ出したとか、捨て置いたのだと悪い噂を社交界に流し、挙句の果てにはすでに結婚したイーディスに復縁を求める手紙を送り続けていた。


 さすがにそうなると対応しないわけにもいかずに、イーディスは国王ダレルにその件について、話し合いをするために王宮へと足を運んだ。


 できる限り今は王宮へは行きたくなかったし、彼の術中にはまることになるが、このままではアルバートも気味が悪いだろうという事でケリをつけにやってきた。


 ダレルと話をして彼の処遇について聞き、一通り決着をつけたところまではよかった、しかし帰り際、エントランスホールに見慣れた姿があった。


「イーディス、やっと会えたな」


 金髪に碧眼の如何にも王族らしい容姿で、腕を組んで相変わらずの偉そうな態度。


 イーディスの周りを見回して一人だとわかれば、彼はにんまりと笑みを浮かべて、周りには王宮で働く使用人がいるのにもかかわらず、つかつかと歩み寄ってくる。


「こうして王宮に足を運ぶのを待っていたんだ。俺の妻になる女だというのに勝手に結婚なんかして、俺が許すと思ってるのか?」

「……ウォーレス。距離が近いわ、私たちはすでに他人なのだから、距離を保ってください」


 静かにそう返すイーディスに、ウォーレスは頬をひくっと引き攣らせる。しかし、自分を落ち着けるためにはぁ、と息をついてから、舌打ちをしてイーディスを見る。


「あのな、イーディス、お前が仕方ない女だというのは俺も知ってる。ただな、当てつけの為に他の男と結婚なんてしても、俺はお前の望むように動いたりしないんだ」

「何を言っているのかよくわかりません」

「昔は、きちんと俺を立ててよく従う女だったじゃないか、はぁ。多少、抜けている女性の方が愛嬌があるとは言ったが、頑固とはまた違うんだぞ?」


 一見優しい男のように、イーディスを貶めるようなことばかり言う彼にイーディスの方がため息をつきたくなった。


 呆れるほどにあの時から変わっていない。


 それに手紙ではあんなに恨みつらみを書き連ねて、男を見捨てた冷徹女という噂を流したくせに、何がどうなって今の発言になっているのだろうか。


「こんなに寛大に許してやるのは俺だからなんだぞ、分かるな? まあ、色々あったがこうして俺の元に戻ってきたなら許してやるよ。イーディス」


 ……なるほど、今の話は私が自主的にこの人の元に帰ってきたと思っているから、改めてマウントを取ったという事ね。


 冷静に分析してから、こんな状態では、色々と誤解をまねくだろうと思い、イーディスは気持ちを落ち着けて片手で彼の事を軽く押した。


 イーディスも平然とはしているが、どうにも彼と話していると心臓の音がうるさい、そのぐらいにはあまり関わりたくない人だ。


「距離を取ってください、旦那に、勘違いされてしまいますから」


 少し震えた声だったが、はっきりと言った。


 言えたことにイーディスがホッとしていると、とんっと押された彼は、目を見開いてそのままガンをつけるようにイーディスを見た。


「……お前、俺がせっかく優しくしてやろうって言ってるのに……」


 つぶやくように彼はそういって、おもむろに振りかぶる。それに反射的に目をつむるとガツンと肩を殴られ、よろめくように後ろに下がる。


「こい、今から部屋に戻ってわからせてやる」


 低く地を這うような声がして、体が縮みあがって声が出なかった。


 一つに結んでいる髪を縄のように掴まれて、血の気が引いて動けない。


「っ」


 体を強張らせて、大きな声を出して助けを呼ばなければと考えるが、ふと肩に手が触れて、髪を引かれる痛みがなくなる。


 反射的につむってしまっていた目を開いて見上げてみると、困った顔のまま、乱暴をしているウォーレスの手を掴んでいるアルバートの姿があった。


 ……あ、話はもう終わったのね。


 丁度ここに一人でいたのは、ダレルがアルバートにすこし用事があるということで先に出て待っていたからだったのだ。


 イーディスだって馬鹿ではない。ウォーレスがいる王宮に一人でやってくるほど不用心ではなかった。


 ……でも、アルバートはあまり争いごとが得意ではないし、ここは私が気張らなければ。


 彼に負担をかけないようにとイーディスが気合いを入れると同時に、アルバートの声がした。


「離していただけますか? ウォーレス殿下、彼女も怖がっていますから」


 毅然とした声と態度で、アルバートはウォーレスにそう言い、まったく目を逸らさずに見つめた。





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