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 イーディスはその日のうちにアルバートにミオの事を話をして、それから、ダレルに手紙を送った。


 まずはアルバートがミオの一時的に身元を引き受けるのに賛成してくれたのでそのつもりだという話と、彼女にはあまり威圧的に接さないで上げてほしいというお願いだった。


 諸々の準備もあるので、少し時間がかかるという事をミオにも手紙を書いてそれも渡してもらうようにダレルへと手紙に同封した。


 急いで手紙を送ってもらっているうちに、イーディスはダイアナの元へと向かった。彼女は魔法学園から離れていても練習は怠っていない様子で実家の小さな噴水庭園で炎の魔法を操っていた。


「ダイアナ」


 遠くにいるうちから声をかけて、彼女が振り返るのと同時に手を振った。イーディスを見て少し嬉しそうな顔をしたが、彼女はすぐに顔をしかめる。


 昨日の呼び出しの時に、彼女に何も相談もなく屋敷を出てしまったことを怒っているのだろう。


 しかし、そんなダイアナを懐柔するために、コックに頼んで美味しいお茶菓子を用意してもらっているのだ。


「少し話をしましょう? 昨日の件も話すから」

「……昨日はお姉さまがいなくて……後から急の呼び出しで王宮に向かったって聞いて肝が冷えたんだから」

「うん。ごめんなさい、でも本当に急を要する事態だったみたいでその要件もまだ公にはされていない情報だけど話をするわ。しばらくこのオルコット侯爵邸で預かる事になると思うしね」

「あら、良いの? 急な事態に相談の一つもしない信用していない妹にそんなことを言って」


 イーディスが下手に出て彼女の機嫌をどうにかとろうとすると、ダイアナは気まぐれにまた炎の魔法を使って今忙しいんだというようにふいっと顔をそむける。


「そんなことないわ。私の結婚を心配してくれるような優しい妹だもの。信頼しているし、頼みたいこともあるの。お茶菓子も用意したし、お願い」

「……」


 それでも丁寧に頼み込んでバスケットの中をちらりと見せるとダイアナはイーディスの方へと視線を送り、頼み事もあると聞いて「仕方ないわね!」と言って庭園にあるテーブルセットの方へと向かったのだった。



 あらかたの話を終えて、なるほどと納得した様子でダイアナは頷いた。一通り話し終わったイーディスの上をふと影が横切って、その先を見ると自由に青空を飛び交っているルチアの姿をとらえた。


 彼は、気持ちよさそうに空を飛んでみたり、噴水で水浴びをしたり、庭園に咲きほこる春の花たちをついばんで遊んでいる。


 今日はどうやら機嫌がいいらしい。良い天気に加えて心地の良い風が吹いているからだろうか。


「……ミオ様ね。……それに大地の女神か、大きな戦の時には強いけど、貴族としてはあまり使いどころのない魔術だわ」


 彼女自身がどうこうというよりも、ダイアナはミオの魔法の方に興味があるらしく、使い道について口にするのだった。


「そうなのね。私は魔法には詳しくないけれど、なんだか強そうだということはわかったわ。少しだけ怪我もしたし」

「大丈夫だったのお姉さまっ! 宮廷の水の魔法使いに治してもらったの?」


 昨日、アルバートに癒してもらった耳に触れながら言うと、ダイアナは驚いた様子でそう聞いてくる。それに言ってなかっただろうかと思いつつも、イーディスは彼について説明した。


「いいえ。屋敷にアルバートがいるもの、彼、一応水の魔法使いよ。きちんと資格も持っているし、宮廷魔法使いには劣るでしょうけど、割と魔力もあるし……」

「え! そうなの? え、水の魔法? なんでもっと早く言ってくれなかったのよお姉さま!」

「だってダイアナが急に帰ってきたんですもの。きちんと紹介する場を設ける前に会いに来たでしょう?」

「う、それはそうだけれど……」

「それにダイアナ、学園は大丈夫なの? うちは放任主義とは言え、留年は汚点になるわよ」

「それは……一応大丈夫よ。あたし優秀なのよ……」


 勝手に休学して帰ってきている彼女に問いかけると、少し思いつめた様子で言う。この子が魔法に対して熱い情熱を持っていてパッションがあるのは知っているがその分、他との衝突が多い。


 学園での意識の低さが気になるという彼女の愚痴も聞いたことがあったし、あまりイーディスの踏み込むべきところではないだろう。


 魔法を持っていないイーディスには学園の話は不得手だ。


「それより! ミオ様のことはわかったし、構わないけれど、問題はアルバート様の事よ!」

「彼がどうかした?」

「通りで、引っかかるわけだわ。だって水の魔法の持ち主なのでしょう? 火の魔法と水の魔法は昔から相性が悪いのよ。意図してなくても、虐めちゃったり、攻撃的になったりしてしまうものなの!」

「……そうなのね」

「言っておいてくれないと困るわ!」

「ええ、今度から気を付ける」


 魔法使い同志にそんな相性があっただなんて知らなかったし、妹ながらに少し理不尽に思ったが、可愛い妹だそんなのは目を瞑って、微笑んで了承した。


 しかし、文句だけが彼女の言いたいことではなかったらしく、少し言い淀んでから、何か考えている様子でイーディスの事を見た。


 それから口を開いたが、また考えるように視線を逸らす。何か言いづらい事があるらしい。


「……」

「……水の魔法使いなら、あまりよく思えないのも当然だから、あまり悪い事を言いたくないし、きちんとアルバート様の事をあたしも知りたいと思ってる」

「ええ」

「だから、すこし、彼について何か他にあるなら教えてくれないかしら? お姉さま。あまり二人はあたしに話をしてくれないけれど、話しづらい事情でもちゃんと聞きたいの」


 真剣にそういわれて、丁度時間もたっぷりあることだし、ルチアの機嫌もいい。こんな日には長く外に放鳥していてもいいだろう。


 ……なにより、家族に迎え入れたのは私だもの、お互いが理解し合うためにつなぎ役になる義務もある。


「わかったわ。あまり気分のいい話ではないかもしれないけれど」


 そう前置きをしてイーディスは語り始めた。彼と初めて会った舞踏会の話だ。





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