出会い
「ふぁ~…」
うららかな陽気に眠気が襲ってくる。
今朝も父に送ってもらい,事務所の前に座り目の前には木造船の船首が見える。
興奮のあまり,昨日はなかなか寝付けなかった。
左側の工場から出来上がった木の部品を一つ一つ船台にもってきているのが見えた。
筋骨隆々という言葉がよく似合う少し日焼けしたおっちゃんたちばかりだ。
そこにガングが威勢よく指示をとばしている。
前世では船の建造をこんなにゆっくり観察することはなかった。
それに木造船の建造などはめったにお目にかかれるものではない。
まだまだ興奮から冷めそうにない。
そんな観察を何日かしていたものの,見るだけでは暇になってくる。
そこらへんに木辺が大量に落ちているので,手遊びがてら竹とんぼもどきを作ってみた。
他にも竹馬もどきやけん玉もどきなど作ってみた。
「ぼっちゃん,なんでぇ,こりゃあ。木辺使ってもいいとはいったがよっぽど器用につくりやがるな,ここらへんはちゃんと父親譲りだな!」
ガングさんが大きな歯を見せながら眩しく笑って見せた。
「しかし,こりゃあ…なんだ?なんかの道具か?」
「いや…すみません。道具ではないんですが,おもちゃみたいのもので…」
いくらゴミになる木片とはいえ,おもちゃはまずかっただろうか一瞬冷や汗がでる。
「へえ!おもちゃか!どうやって遊ぶんだ!いや!娘の誕生日が近かったんだが,誕生日プレゼントに悩んでてよ!娘が新しいもの好きなんだが,これがまたやっかいでよぉ…」
それまでたくましく筋骨隆々の親方ってな男が急にデレデレの顔からの家族サービスに悩むお父さんの顔をガングが見せるので笑いそうになった。
我が父,グエンが母の誕プレに悩む顔そのものだ。
なんでも,娘のおねだりが毎年ひどいらしい。
しかも,流行のものを欲しがるのではなく誰も見たことないような新しいものを欲しがる変わった子のようだ。
「これ…一つくれないか…」
いつになく真剣な顔で”親方”は竹とんぼもどきを指さしながら僕に尋ねる。
竹とんぼもどきを真剣に欲しがる親方にどうしても笑いそうになる。
「こんなものでよければどうぞ」
軽い気持ちで答えたのだが,親方の目は笑っていない。
「いや,こんなものではない。必ず借りは返す」
大げさだし,律儀だなと思いながらも竹とんぼもどきを一つ渡した。
それが始まりだった。
気が付かなかったのだが,真剣なまなざしの筋骨隆々の男どもが親方の後ろに列を成していた。
いや,怖い普通に怖い。ヤクザににらまれてる気分だ。やめて欲しい。
この世界には娯楽が少ないことを忘れていた。しかも特に庶民には…。
もちろん,この世界にも木材を使ったおもちゃはそれなりにある。
だが,竹とんぼもどきというものはなかったのだ。
前世で言えばインベーダーゲームが出てきたようなものか。
いや,ポ〇モン?ス〇ラトゥーン?
とりあえず,今までにない新鮮なおもちゃがでてきたということだ。
そういうことで,筋骨隆々のおっさんたちがどんどんもっていった。
竹とんぼだけではない,竹馬もどきとかコマもどきとか個人的に昭和セットと言っていたものだが,これが飛ぶように無くなって行った。
もちろん,普段から世話になっているのでお代はとっていないが,皆何かしら力になってくれるみたいなことを言っていた。
現状はあまり必要とはおもっていないが。
さて,あれから数日。全員分のおもちゃを作っていたらあっという間に過ぎてしまった。
何人も兄弟がいるところには喧嘩にならないように人数分つくってあげたし,そもそもがこの造船所は人数が多い。
元々,まとまった数は作っていたのだが親分の突撃からはもう休む暇がなかった。
木片を削って削って削りまくった。おかげで手はタコだらけだ。
造船作業員(僕はこう呼んでいる)の一人に「将来は立派な船が作れるぜ!」と笑われてしまった。誰のせいだと思っている。
さて今日も今日とて木片削りに勤しんでいると肩を叩く感触を感じた。
気のせいかと思って何度か無視をしていたのだが,段々と強さを増している。
肩たたきレベルからいよいよゴムハンマー杭打ちレベルへ達そうとしていた。
流石に手元も狂うし痛いので,おもむろに顔を上げてみた。
ぶかぶかのツナギのようなものを着て,僕より一回り背丈がでかい。
髪で顔が半分ほど隠れている人間なのかドワーフなのか疑わしい生き物がそこにいた。
「これを作ったのはお前か?」
体躯からは似つかわしくない中性的な,だがしかし若干の凄みのある声で問いかけてくる。
「そうだよ?」
と面と向かって言った。
そこからは目の前の巨躯が押し迫ってきて記憶がない。