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木造船

船の歴史は古い。

何しろ人類が最初に作った輸送機械が船と言われる。

太古の遺跡から木をただ削りだしただけの丸木舟が出土したりするニュースを見たことがないだろうか。

陸を移動する器具はソリか車輪の開発を待たねばならなかったし空の移動など,ライト兄弟が偉業を達するまで鳥たちの独壇場だったわけだ。




水上を移動するのは至極簡単である。

水にハコを浮かべてその上に物か人を乗せればそれは船なのだ。

最も単純であるがそれゆえにその輸送効率は高い。




浮力というものをとても使い勝手が良い。

この世に重力が存在する限り,浮力は永久機関の如く作用する。



あと我々が気にすることはどこに動かすかだけだ。

こいつは単純で,荷物の重さの何十分の一という力で引っ張ればよい。




古代から海沿いの都市や川沿いの都市が発展してきたのはこれらが一因だ。

モノを多く運べるということはそれだけ人を養える。

そして養える人口は労働力となり軍事力となる。




太古の昔から現代まで飛行機が開発され,人類が宇宙へとその歩を進めても,

この大原則は変わることはない。




さて目の前にそびえる帆船だがこいつもまた歴史は長い。

漕ぐのに疲れた人はふと考えた。風を利用できないか,と。

帆は蒸気機関の開発されるほんの百有余年前まで,主力推進機関だった。

かのマゼランたちはこの風の力だけで世界一周を成し遂げたのだ。



さて,その船を造っているこの”造船所”で作られている木造帆船。

“造船作業員”たちは”造船技師”の指示の元仕事に精を出している。




ある者はカンナで気を削り。

ある者は木を骨組みに貼り付け。

ある者は木をのこぎりで切り落としている。

そして皺の刻まれた顔に筋骨隆々な体を携えた一人の人間が怒鳴っている。




いや,どう見ても”木工場”で”大工”たちが”親分”の指示で建物を作っている光景だ。

自分が前世で関わっていた造船はそこにはなかったのだ。

鉄粉の代わりに木くずが飛んでいる。




「おお!グエンじゃないか!」

ひとり呆然としていると怒号がこちらに飛んできた。

グエンとは我が父グエンの事だ。


「やあ,邪魔するつもりはなかったんだ。ガング。息子と近くまで来たもんでな」

この筋骨隆々のおっさんガングっていうのか。

「邪魔だなんて水臭えな。いつでもうちは大歓迎だぜ。また昔みたいに腕を振るってくれよ。カンナ屋のグエン。」

「結婚して息子もできてからはそんなあぶねえ仕事はできねえよ。今じゃ稼業もうまくいってんだ」

「おっと,そういやそこのちびっこがお前の息子さんか。ごめんな腰より下は見えねえんだ」




高所作業,危険作業ばかりだろうにこのおっさん大丈夫だろうか。ご安全に。

「こんにちは,ハワードと言います。よろしくお願いします!」

初対面の人への挨拶は元気よくだ。

どこの世界もかわらない。



「おお!グエンに似てるのは顔だけだなあ。なんて礼儀正しいぼっちゃんだ」

「おいおい。まるで礼儀がなってねえやんちゃ坊主だったみたいな言いぐさだな?ガング?」

「へっ!その通りだったろうよ。リエナに出会うまではカンナを持たせねえとそこいらですぐ喧嘩を始めるし,握らせたら握らせたで人の話は聞きやがらずに満足するまで削ってやがったし,どうしようもなかったじゃねえか」

「おい!息子の前だぞやめろよ!!」

「いやあ,リエナがしっかり尻に敷いてくれてるようで安心だ」

「ちょっとガング!尻に敷くなんてまるで私が鬼嫁みたいじゃない!やめてよ!」



うへえ,自分の父親のとんでもない一面を知っちまった。

いつもはただただニコニコして魚を売る優しいおじさんって感じなのにな。

結婚するとひとって変わるってのはほんとなんだ。




そのまま,3人の話を聞いていると,どうも皆同じ職場で元々働いていたらしい。

父はさっきも言ってた通りカンナ屋,母はメシ屋で食堂っぽいところで働いていたらしい。

んで父グエンが母リエナを口説き落としたと,いわゆる社内恋愛ってやつだ。


懐かしい屋号呼びだ。

こちらにもあるのか…。というかこちらが元々だな。


現実世界でも,図面屋,構造屋,パイプ屋,機関屋等各々担当部署の人間を屋号で呼ぶ風習があった。ちなみに俺は船殻設計なので,構造屋兼図面屋だ。





「おっとすっかり話こんじまった。そろそろ現場に戻るわ,またな!」

「おお,すっかり引き留めてすまねえ,また飲みに行こうぜ!」

「おお勿論だ!あとハワードだったか,もし興味があればいつでもきな!見学なら大歓迎だぜ!」

「おいおい!俺のハワードは誰にも渡さねえぞ!」




どうも俺の興味深そうなつぶらな瞳が見抜かれていたらしい。


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