HIIT部
中学生の頃はバリバリの運動部だった。けれども花の高校生活は部活で潰したくない。友情に恋愛といった青春のときめきで満喫したい。ただこの学校は部活動に入る事が必須。なので新入生歓迎会、テレビジョンをザッピングするように眺めていると気になる部活動に出会った。
ヒート部。
ヒートというものは分からないけど、どの部活動よりも短く説明を終えたその部に、私は興味をそそられた。
週5回の部活動に出席する人は、1回の人もいれば5回の人もいると言っていた。
全校生徒の約3分の1の150人が所属する校内最大の部活動らしく、参加人数が多い日は15分だけ全校生徒が集まれる広さの第一体育館を貸し切りするそうだ。
そして参加人数が多いのは月曜日と仮入部機関の1日目だそう。
初めて袖を通す高校のジャージに着替え、道中の自動販売機でスポーツドリンクを買い、体育館へ行くと集まっていた人たち各々がアップをしていた。
その場でダッシュをしている人もいれば、ラジオ体操のような動きをしている人もいた。
私も空いている場所に行きアップのまねごとをした。
一分くらい経つとステージ上に半袖短パンの3人が並んだ。
真ん中にマイクを持って立っている人は、歓迎会で部活動紹介をしていたので多分部長だろう。
「こんにちは、これからヒート部の今年度第3回目の部活動を行います。今日は仮入部の一年生もいるみたいなので種目はエアースクワットです。一年生はステージ上の自分たちや周りの上級生を参考に適当にやってね。あとステージ脇にタイマーが設置されているのでそれを見ながら聞きながらでも20秒動いて10秒休みむ感じで適当に、怪我しない程度に。限界だと思ったら止めていいからネ。それじゃ始めます」
背中が曲がらないように腕を前に出して、ハムストリングスと腓腹筋をくっつける。そしたら最初の体勢に戻ってまた同じことの繰り返し。
2回目3回目は余裕だったけれど、ステージに立っている大中小3人のスクワットの速度が速い。
それにつられてしまって8回目、計4分間の終了時には太ももがパンパンになっており息を切らしてしまっていた。
終了のタイマーが響き渡ると2,3年生たちはあっという間に体育館から出ていき、生まれたての小鹿みたいになっていた一年生たちも後に続いていった。
そして入れ替わるようにバスケ部バレー部が入ってきて部活動の準備を始めた。
ステージ上の3人はというとタイマーをバスケ部に引き渡した後、体育館更衣室の上のスペースへと続く階段を昇って行った。中学校では似た場所で卓球部が活動していた。
気になって後を追って昇って行くと、そこには卓球のタの字はなく、あるのはジムにあるようなものだった。
ジムにあるようなものといってもベンチプレスなどのトレーニング器具ではなく、ランニングマシンにエアロバイクそしてステアクライマーにヨガマット3つ。
何だここと思っていると部長よりも大きい人に気づかれた。
「あ、新一年生の中で唯一小鹿にならなかった子だ」
先程の大所帯には比べたら圧倒的に過疎っている空間で気づかれないはずもなく、それに加えてエアスクワットを乗り越えたことによって認知されていた。
大きい人は私にはあまり興味なかったようで、自分の鞄を漁り始めた。
その代わりに部長と部長よりも小さい人が近づいてきた。
「どったの入部届?」
「入部だったら嬉しいな、同姓同姓」
遠目で分からなかったが小さい方の人は女性だった。小さいと言っても私と変わらないくらいの背丈。
「いるじゃん同姓沢山」
「えー、みんなバイトやら恋愛で直ぐ帰るじゃん」
「んで、新入生」
「籍はおかして貰いたいと思いますけれど、先輩たちは帰らないんですか?」
「ああ、そういうこと。HIIT部は部活を終えるとノルウェー式HIIT部になるんだ」
「ノルウェー式ヒート?」
「そ、体験していく?」
部長の誘いに異議を申し立てたのは私ではなく、他の先輩方ふたりだった。
「「いやいやいや、無理でしょ」」
「無理ってなんですかっ!?」
すぐさま否定されたことにムッとして声を荒げてしまった。
「「だってねえ」なぁ」
「で、体験していく?」
「はい、一応」
「無理だと思ったら止めて良いからね。新入生にエアロバイクを譲るとして、じゃんけん」
「「「ほい!!!」」」
部長がステアクライマ―、女の人がランニングマシン。私がエアロバイクで大きい人がヨガマットになった。何だか申し訳ない。
大きい人は何をするのかと思ったらグローブをはめてバーピーをするみたいだ。
「新入生、ノルウェー式HIITっていうのは簡単に言うと、4分間全力で動いて3分間ゆっくり運動。それを5回繰り返す奴」
「分かりました」
「じゃ、タイマーが開始されるまでアップで」
タイマーが開始されてから一回目の4分間、全力でペダルを漕いだ所為か2回目の4分間全力で漕いでも元の力の半分も力が出せなかった。
続いて3回目、なぜか全力で漕ぐことが出来てその後の14分間を乗り越えることが出来た。
ただマシンから下りた時私の足は、先ほど見た新入生の小鹿の足以上に震えていて、尚且つ全身汗でびっしょびしょだった。
乗り切った私に向けて先輩たちは意外そうな視線を向けた。むしろ息を切らしてはいるけれど平然とやってのけた先輩たちの方が怖い。
もう何も出来なくなっていた私に、なぜかしら部長は冷凍ブルーベリーの袋をくれた。
下半身が動けないので手を汚しながらブルーベリーを食べていると、女の先輩がタオルで目に見える汗を拭いてくれた。お姫様の気分。
「下着持って来てる?」
「いえ」
「じゃあ、新品の貸すよ。多分サイズは一緒だろうし」
もう喋る気力が無い私は先輩たちは察してくれたみたいだった。先輩たちも同じ経験をしたことがあるのだろうか。
自分の制服に着替えるのに女の先輩に手伝って貰った後、帰路が同じだった部長におんぶして送り届けて貰った。私が車に轢かれたらヒート部は廃部になってしまうという理由で背負われた。
次の日、筋肉痛歩けなくて学校を休んだ。さらば皆勤賞。新入生欠席タイムアタック優勝。