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第1話 王子が私を探してるってどういうこと?④

王子Sideです。



 雑な音。


 つまらない。この演奏もつまらない。ペダルで音は濁ってるし、強弱はバラバラ。楽譜読んでないんじゃない?

 

 

 アンダンテレントは、9歳にして全てを完璧にこなすことが出来た。剣術に、美術。そして舞道。それはピアノも例外ではなかった。

 

 良くも悪くも分かってしまう耳のせいでどんな有名な演奏家が来ても素晴らしい演奏を聞いたと思ったことは今までで一度もなかった。

 

 ある日、フィーネ嬢が、寝込んでいるという知らせがあった。

 

 どうせ仮病でも使ったのだろうと考えたが、婚約者という肩書きもあるため、めんどくさいが、お見舞いに行かなければならない。

 

 そこで、急いでフィーネ嬢の屋敷に向かったが、フィーネ嬢のメイドから身支度ができていないのでしばらく待ってほしい言われた。どうせ、髪飾りが気に入らないとかそこらへんの理由だろう。フィーネ嬢のメイドも可哀想だ。


 ため息をつく。このように待たされたことは一度や二度ではなかった。だから、いつも通り暇つぶしに屋敷の中にある図書室に行き、何冊か音楽の関連の本を借りて応接室で読もうと考えた。

 

 何冊か本を借りきて、応接室に帰ろうとした時どこからか音が聞こえてくることに気づいた。

 

 ピアノの音?

 

 どうやらこのピアノを弾いている人は、まだピアノを始めたばかりの初心者かもしれない。そう考えたのは、エリー○のためにが始めたばかりの人によく弾かれる曲だったからだ。

 

 しかし、その音が大きくなるにつれてその考えは変わることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もっと聞いてみたい。

 

 

 自分の感情に驚きながらピアノの音がするほうへ引き寄せられる。

 

 はっきりしているのに今にも壊れてしまいそうなほど繊細な音。

 

 遠くからでも分かる。このピアノの演奏を弾いている人は只者ではないと。

 

 僕は足を早める。

 

 エリー○のためには、簡単な曲だ。それも始めたばっかりの子が1ヶ月かけて練習して弾けるようになるくらいには。

 

 それなのに、これは本当にエリー○のためにという曲なのだろうか。

 

 僕はやっと音の根源に辿り着いた。

 

 

 そこで金髪の少女は、ピアノを弾いていた。少女が子柄だったせいか、ピアノは大きく見えた。

 

 窓から入った風が少女の髪を揺らす。そして、少女の音だけが部屋に響く。

 

 

 

 

 

 音の波が体に響き渡って鳥肌が収まらない。一つ一つの音が胸に迫ってくる。

 

 

 時には胸を突き刺すような悲しい音を。

 

 時には嫌なことも忘れてしまうような楽しい音を。

 

 

 同じ楽器で弾いてるとは思えないほど少女の音は多彩に変化していく。

 

 こんな音いままで聞いたことがない。

 

 

 僕はすべての音を聞き逃すまいと息を潜める。

 

 

 

 

 ガタンッ

 

 ピアノの音が止まり我に返る。そして、自分が手に持っていた本を落としてしまったことに気づいた。

 

 

 

「ごめん、あまりにも君が上手だったから聴いちゃった。邪魔したかな?」

「いいえ、大丈夫ですわ」

 

 

 

 少女のアメジストの吊り上がった瞳が私を捉えるが他の令嬢のように頬を赤らめることはなかった。そのことを僕はなぜか残念に感じた。

 

 フィーネ嬢? のはずがないか、お友達かな? フィーネ嬢にまともな友達がいるとは思えないけど。

 

 

「フィーネの友達かな? すごく上手だったね」

「ありがとうございます」

 

 

 多分無意識なのだろうか、彼女はピアノを褒められたことに対して少し微笑んだ。

 

 僕はその彼女の微笑みを見て固まってしまった。

 

 いつもならすらすらと出てくる言葉が今は全く思いつかない。

 

 

 

「じゃあ、続きを弾くので」

「えっ」

 

 

 そして、少女は僕に全く興味がないようでまたピアノを弾き始めた。

 

 

 僕はいつの間にか彼女の音よりも彼女自身のことに興味を持つようになっていた。

 

 

 ♬♪♬♬♪♬♪

 

 

 

 どこのご令嬢だろうか。

 

 

 

 頭から彼女の演奏が離れない。

 

 頬杖をつきながら彼女のことを考える。

 

 いままでパーティー会場で彼女を見たことはない。

 

 もしかしたら年下なのだろうか?

 

 ずっと彼女のことを考えていたがふと我に返る。

 

 それにしても今日はフィーネ嬢は静かだ。いつもならここで一言や二言はあるのに。

 

 

「今日はフィーネ嬢は、あまり喋らないのだね」

「ちょっとまだ体調が悪いのですわ、おほほほほほー」

 

 フィーネ嬢は彼女のことを知ってるのだろうか? 教えてくれないとは思うが聞いてみるか。

 

 

「ところで、今日フィーネ嬢に来ていたお友達はどこのご令嬢かな?」

 

 

 フィーネ嬢は、いつも僕が甘く微笑みかけると何でも言うことを聞くので利用させてもらう。彼女のことを知れるなら何でもできる。例え嫌いな女に微笑みかけることも。

 

 

 しかし、僕の考えてとは裏腹に、フィーネ嬢は答えない。

 

 

「私の前で他の女の話をするなんてあんまりですわ。でも、今日は誰も来る予定はなかったはずよ、幽霊でも見たんじゃなくて?」

 

 

 フィーネ嬢が何かを隠している? 彼女の表情からは何も読み取れない。

 

 

「ふーん。そう幽霊ね。じゃあ、僕はやる事ができたからもう帰るよ」

 

 

 何としてでも彼女を見つけたい。例え彼女に婚約者がいたとしてももう僕は彼女を手放すことはできないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで1話は、終わりです。

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