第4話 演奏会にいるとか聞いてないんだが?①
「演奏会?」
「ええ、あんたにも招待状が来てたはずよ、ほら」
紗綾は、私の机の上に置かれていた封筒を指差す。
いつの間にそんな所に封筒置いてたんだろう。そして、まるで自分の家のように寛ぐこいつも何なんだろう。
紗綾は、何食わぬ顔でメイドが持ってきたクッキーに手を伸ばす。
「ん? 何か顔に付いてるかしら」
「いや、大丈夫だよ」
「そう、ならいいけど」
はあ。そういえば前世の時もいきなりお家に遊びに来ては帰ってったなあ。懐かしい。でも、せめて手紙で連絡してから来てほしいものだ。
私は、ため息をつきながら、渋々封筒を取りに行き、ペーパーナイフで封筒を開けた。
「ロベルト公爵家?」
「そうよ、そこが主催なの。ほら前に説明したでしょ、攻略対象者の1人よ」
「ああー」
「棒読みだけど大丈夫かしら」
「大丈夫じゃないかしら」
紗綾からじーと視線を感じるけど知らないからね。絶対目あわせないよ。
「はあー。私、前に説明したわよ。ほら後輩キャラの」
「ロベルト·ルイだっけ?」
「そうそう、演奏会って書いてるけど本当のところは、来年の王都フィアネール音楽学園の入学者の人脈作りが目的じゃないかしら」
「ほうほう、なるほどなあ」
こっちの世界にも音大みたいな所があるのかあ。そういえば、ピアノの講師も今の実力なら音楽学校に行けますよとか言っていたような……。
「そういえば、あんたの弟はどうだったの? あんたったらまったく何にも連絡寄越さないんだから心配してたのよこれでも」
「それはごめん」
「ピアノを弾くのに忙しかったとか言うんじゃないでしょうね」
「それはそうかな」
「はあー、あんたって子はもう」
紗綾は、私の行動に呆れながらまたクッキーに手を伸ばした。そのクッキーそんなに好きなら持って帰ります?
「でも、多分仲良くはなったよ、うん」
「ピアノのバカのあんたが仲良くなれるなんて相当いい子なのね弟君」
「うん。最初ピアノの弾くのを辞めろって怒鳴られて」
「うん?」
「ピアノ弾きあったら仲良くなってた」
「それは、本当に仲良くなったの?」
「多分ね」
最近は毎日、ピアノ弾くのを邪魔してくるけどね、この前だってピアノ弾いてたら、たまには街に行きませんかって言って引っ張るから必死にピアノの足を掴んで抵抗したなあ。
「まあ、殺される心配がないならいいわよ、少しは、ピアノ以外のこともしてほしいけど……まぁ、無理よね」
「否定はしないどく」
私は、紗綾が食べているクッキーの味が気になったので、クッキーを口に入れてみる。うん。なかなか美味しいなあこれ。
「まぁ、とりあえず演奏会は一緒に行動しましょう。それにもう1人の取り巻きの子も紹介するわ。この前便りが来て、体調も回復したらしいし」
「お! 取り巻きBの子か、会うの楽しみだなあ」
「ところで、あんた当日もその格好でいくの?」
今の私は縦ロールに紫のアイシャドウが際立つメイク。フリフリレースがたっぷり付いたドレスのフル装備である。だってレガート嬢様が来るって行ったからねメイド達の手によってこうなったんだよなあ。
「ピアノ以外のことには興味が持てないしね。新しくドレス買うのもめんどいし。髪型も決まってると以外と楽だし。メイクも勝手にやってくれるし」
「要するにめんどくさいのね。あんたを、標準で考えたらいけないんだったわ。たまには、違う髪型を見てみたかったけど残念ね」
紗綾は、ため息をつきながら立ち上がる。皿の中のクッキーは空だった。
「じゃあ、また当日迎えに行くわね」
「今日は色々ありがとう紗綾」
「ええ、今度はちゃんと連絡するのよ」
「はーい」
私は紗綾に手を振る。紗綾は、少し照れながら手を振り替えした。