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第3話 こんなシナリオ聞いてないんだが?⑥

ソルsideです。




 人の声。本をめくった音。誰かの足音。風が吹く音。



 僕は小さい頃から絶対音感を持っていました。音があれば、その音がどの音なのか分かる。最初は絶対音感を持っていることが誇りでした。



 ある出来事があるまでは……。



 僕は耳がよかったんです。だからどんな人の音も再現することができた。



 どこかで行われた演奏会のバイオリン。誰かを思って切ない音を出すチェロ。広場でダンスと一緒に奏でられるピアノ。



 両親が、音楽家であることもあって僕が小さい頃から屋敷にはいつも音楽が溢れていました。だから、どこかで聞いた誰かの音を出すことは僕にとっては簡単でした。



 その日は、定期的に行われる演奏会の日でした。



 演奏するのは大人だけで、僕は、色んな音を興味津々に聞いていました。



 その中でも、飛び抜けて上手なバイオリンリストがいて、僕はその人の演奏が好きだったんです。だからどうしても再現したくなりました。



 僕は、舞台裏に置いてあったバイオリンをこっそり借りてすぐにその人の音再現しました。



 その日は調子がよかった。良くも悪くも。



「その音は俺の音だ!その音を出すために20年も練習してここに来たんだ!それなのになんでお前が弾いてる!!」



 そんなの知らない。僕ははただ好きだった音をもう一度聞きたかっただけでしたから。



「お前には、自分の音がない空っぽなんだっ! お前に楽器を弾く資格なんてない!」



 僕の音。分からない。そんな物知らない。



 今まで聞いてきた音が消えていく。



 長年練習し続けて作り出した演奏会のバイオリンの音色。


 今は亡き恋人思って切ない音を出すチェロの音色。


 毎年行われるお祭りの広場で弾かれるピアノの音色。




 あれ、僕はどうやって弾いてましたか?


 どうして、楽器を弾いてたんでしょうか?



 頭の中でいままで再生されていた音は、いつしか流れなくなり、人の音を聞くのがとても怖くなりました。



 また、自分が無意識のうちに他人の音を真似しているのではないか。僕は、その不安で気持ちがいっぱいになり、耳を塞ぎました。



 そして、楽器を弾いても楽しいと思えなくなり、ついに僕は、楽器が弾けなくなりました。



 それから、僕は、まるで魂が抜けたように、起きて、ご飯を食べて、寝るだけの生活を繰り返しました。



 変化のない平凡な日々は、とても静かで心地よかったです。だってもう何も考えなくていいですから。



 両親は、楽器を弾かなくなった僕をとても心配そうに見守ってくれました。



 でも、僕はもう2度と音楽に関わることはできなさそうです。



 それから、僕は自分の部屋から出ることはなくなりました。



 しかし、僕の不幸はここで終わりませんでした。



 「両親が馬車の事故でお亡くなりになられました」




 嘘だと思いました。



 神様は、僕から音を奪うだけじゃ飽き足らず両親まで奪うのかと問いたくなりました。



 涙が止まらなかった。泣いて泣いてそして、気づいた。



 部屋に残っているのは自分の嗚咽だけ。



 お父様の声も、お母様が本をめくる音もメイドが廊下を歩く音も風が窓を揺らす音さえもない。



 あるのは、僕が作り出した静かな世界だけ。



 心の奥にあった何かが、ポキリと音を立てて折れた気がしました。



♬♪♬♪♬♪♬




 両親が亡くなってから何週間か過ぎて、2人の大人が来て僕を引き取りたいと申し出ました。



 僕は、もうどうでもよかった。だって僕にはもう何も残っていませんでしたから。



 だから流されるままにその大人に着いて行きました。



 2人の大人は自分達には娘がいると言いました。



 僕は、その娘の名前を知っていました。なぜならフィーネ嬢は、ピアノが下手なことで有名だったから。



 僕は、フィーネ嬢の名前を聞いてほっとしました。きっとフィーネ嬢は、練習をしないから屋敷では静かで快適に過ごせるだろうと。


 しかし、僕の予想とは反して、自分の部屋にピアノの音が流れ込んできました。



 僕は、流れてくる音に苛立ちを感じて部屋を飛び出しました。


 着いたらすぐに一言文句を言おう。そして、2度とピアノを弾かないように言って……。



 彼女の演奏を聴いて思わず立ち止まりました。



 まるでピアノの音が踊ってる?





 一つ一つの音が、自分の心の奥に入ってくるのが分かりました。



 彼女の音はピアノが好きだと語ってくる。


 彼女の音は、音楽は楽しい物だと語りかけてくる。


 彼女の音は多彩に変化する。



 彼女の指が鍵盤に触れた瞬間僕の世界に音が溢れ出しました。




 ピアノが弾きたい。



 もう一度、あの鍵盤に触れて音を出してみたい。



 そんな、自分の感情に驚きました。



 でも、ピアノを弾くと、彼女を怒らせてしまうかもしれないから……。



 僕は、開いていた手のひらをぎゅっと握りしめました。


 僕は、ピアノを弾いたらいけない人間だ。



 そうだったはずなのに。



「じゃあ試しに私の音真似して見てくださいませ、聞いてみたいですわ」

「不快じゃないんですか?」

「全く?自分の音を他の人から聞けるなんて新鮮で楽しそうですわ」

「やっぱり変な人ですね、分かりました。弾いてみます」



 だけど彼女の音は、再現できませんでした。こんなことは、産まれて始めてでした。きっとブランクがあるという感じじゃない。きっと彼女の音は特別だから再現できないのかもしれない。



「とりあえず、私の音を再現するのを目標にして一緒に音楽をしませんこと?」

「僕は、楽器弾いてもいいんでしょうか?」

「そんなの知らないわ。だって弾くかを決めるのはあなたじゃない。でも私はピアノなかったら生きていけないぐらい、ピアノが好きですわ」



 冗談とかではなく本気なのかもしれない。それくらい彼女の音はピアノが大好きだと語ってきます。



 僕もお姉さまのように音楽を愛せたらあんな音が出せるのでしょうか?



 お姉さまの音は全く揺ぎません。一つ一つの音がはっきりしてるのにメロディとして繋がっていて聞き手を虜にする音。



 それに、お姉さまは、僕と同じでいろんな音が出せる。だけど多分僕とは違う。姉さまの音一つ一つは過去のお姉さまの辛い気持ちや悲しい気持ち楽しい気持ち、嬉しい気持ちから出来ているのでしょう。



 時々思う、お姉さまは本当に9歳なのか。それくらい姉さまの音は多彩です。



 僕は、お姉さまの音を思い出しながら今日もピアノを弾きます。



 甘い音に時々なってしまうのは、お姉さまのせいかもしれません。


 



ここで、3話は終わりです。

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