第3話 こんなシナリオ聞いてないんだが?③
「モデラートフィーネです。よろしくお願いいたしますわ」
私はドレスを掴み優雅に礼をしてみせる。
私も、ピアノばっかり弾いていた訳ではない。きちんと礼儀作法の授業も受けているのだ。
それにしても、義理の弟かあ。
お母様の様子から見て愛人の子とかでは無さそうだけど……。
私はソルと呼ばれた子を観察する。
短くサラサラとした水色の髪に、少し泣いたのか腫れている黒い瞳。背の高さは私より少し低いぐらいかな。
「ソルの両親が馬車の事故で死去されてね、うちで引き取ることになったんだ」
「それは、ご冥福をお祈りしますわ……」
「ありがとうございます」
ソルは感情がこもっていない声で淡々と受け答えをする。
「暗い話になってしまったわね、とりあえず、みんなでご飯でも食べましょうか」
「そうですわね、お腹が空きましたわ」
私はいつもの定位置に座る。
それにしても、両親を馬車の事故で亡くしていたなんて……。
紗耶、ストーリーを教えてくれたのはいいんだけど説明がざっくりしすぎてソルの情報ほぼあってないような物だったんだよな。まぁ、ストーリー飛ばしたから文句は言えないけど……。
私はシェフが作ったステーキにナイフを入れる。
肉の間から肉汁が溢れているのを見てお腹が鳴る。私は勢いよく自分の口のサイズに切ったお肉を口の中に放り込んだ。
今日の夜ご飯美味しいなあ。
私は瞼を閉じて肉の味と柔らかい感触を味わう。
「そういえばソルは、フィーネより1歳年下らしいぞ」
「ソル君は、ピアノがとっても上手だと聞いたらフィーネちゃんと一緒に練習したらどうかしら」
「ええ、もちろ…」
「いいです。別に……」
「ソル君?」
「もうお腹がいっぱいなので失礼します、部屋の場所はメイドに聞くので」
ソルは、席を立つと部屋のドアに向かって歩き出す。
「ちょっと待ってソル君」
我に返ったお母様がソルを追いかけていく。
どうしたんだろうソル……。
私はぼーとお母様とソルが出て行った扉を見てから机の上のお皿に視線を向ける。
それにしても、今日の夜ご飯やっぱり、美味しいなあ。
私は何事もなかったように口に人参を運んだ。
ソル、全くご飯手をつけてないの勿体ない。もはや、私が食べたい。
「フィーネ、人のご飯は食べちゃだめだぞ?」
なんで、考えてる事が分かったんだろ……。
さすがお父様。娘の事なら何でも分かってるなあ。