第3話 こんなシナリオ聞いてないんだが? ②
そして、やっと両手で最後までノーミスで弾ききった。
「お嬢様が……一曲仕上げられるなんて、私感動で涙が止まりません」
ピアノ講師は、自分のハンカチを顔に当てながら泣き出す。
うん。フィーネ、一曲も仕上げたことなかったんかい。
「私、本当にお嬢様に教えられてよかったです」
なんか、今日で最後のレッスンみたいなセリフになってるけど大丈夫かな?
「と、とりあえず、レッスンはここまでです。次回までにこの曲を両手で弾けるように練習しててくださいね」
「分かりましたわ」
レッスンが終わった事にホッと一息つき、ピアノの椅子から立ち上がる。
それにしても、本当に楽譜があるなんてなあ。
私は貰ったばかりの楽譜を抱きかかえ、にやけそうになる口を抑えながら、自分の部屋までスキップで進む。
楽譜が無くても体が覚えていて弾ける曲はあったけど、やっぱり覚えてる曲でも楽譜が欲しい。
それに、前世で弾いたことがない曲も弾けるかもしれない。そう考えるとわくわくしてくる。
私は、自分の部屋の扉を開け、ゆっくりとベッドに倒れ込んだ。
さすが、公爵家のベット。羽毛をふんだんに使っているだけあってふかふかだ。
このまま寝れそう……。
私は、うつ伏せのまま瞼を閉じる。
変に神経使ったからなあ。普通に弾くだけだったら4時間練習しても疲れないのに……。
これが毎週続くのか。
普通、ピアノのレッスンを受けたら上達するはずなのに、もはや時間の無駄になった気がする……。なんなら、後退してるんじゃ……。
私は、今日のレッスンを思い出して唸る。
そういえば、一曲仕上げただけで泣かれたなあ。9歳だとしても、前世では小学生4年生ぐらいだから、両手で弾けるとは思ってたのに。
この楽譜だってほぼ初心者レベルだし。欲を言えば物足りないけど……。
まぁでも、楽譜が手に入ったからよしとするか。
私は、寝転びながら、自分のベッドの上に貰ったばかりの楽譜を広げた。
楽譜を見るとすーと音が頭に入ってくる。私は楽譜を見ながら指を楽譜通りに動かした。
やっぱり楽譜があると安心するなあ。なんというか、曲全体が分かるからやりやすい。
「お嬢様! 何をなさってるんですか!」
私は突然の声に驚き、とっさに楽譜を手で覆って隠したが無念にも、楽譜はメイドに見つかり全て取り上げられてしまった。
「お嬢様、楽譜を見るなら、机の上で見てください。せっかくベットメイキングをしてるんですから」
「ごめんなさい、楽譜を貰ったのが嬉しくて、つい並べてしましましたわ」
「お嬢様が謝るなんて……お嬢様、頭でも打ちました?」
いや、頭は打ってるよ、数週間前に。
「とりあえず次からは、ちゃんと机の上で見てくださいね」
「……」
「なんで返事をなさらないんですか?」
きっとまた同じことをしそうだからとは口が裂けても言えない。
しばらく、メイドと視線で抗議し合っていたが、メイドは何かを思い出したのかあっと手で口を押さえた。
「あ、そうでしたお嬢様、奥様がお呼びです」
「そう、どこに行けばいいのかしら?」
「家族でお食事をするので食堂にとおっしゃってました」
「分かりましたわ」
いつも夕食は、家族で食べてたけど、わざわざ伝えに来るってことはなにか用事があるのかな?
まぁ、とりあえず行ってみるか。
♫♪♫♪♫♪♫
「フィーネちゃん、今日からあなたの弟になるソル君よ」
「ソルです。よろしくお願いいたします」
あー、そういえば紗綾が義理の弟が来るって言ってたわ、ピアノに夢中で、すっかり忘れてた。