議題3「暗殺者になった」提出者:音無 叶人
「ほら、あったでしょ! 転職できる神殿」
疎間 保の背には、デカデカと『転職希望の方はこちら→』と書かれた看板が建てられた巨大施設がある。
「さあさっさと転職して強くなるぞ〜!」
「この辺りだいぶ、ご都合主義なんですね」
隠岐 利己がそう言うと、後ろから気怠そうに歩いてくる赤波 真中が返した。
「まあ、疎間の希望から派生してる異世界だから、めんどい展開はどんどん飛ばしていくんでしょ」
理屈はわからないが、私も効率の良い仕事の方が好きだ。テンプレートを使うのなら省けるところは省きつつ、しかし丁寧な仕事を心掛けるように、とは私がかつてヒラだった頃に上司に教わったことである。
「まあ、効率重視という点では、私も賛成です。さっさと転職とやら済ませてしまいしょう」
効率主義の隠岐がそう言うと、皆後ろをついていくように神殿の中へと入っていく。しかし、まさかこんなところで長年やってきた会社員を捨てて、転職する羽目になろうとは。
*
「──それぞれ適正のある職業にしかなれんのじゃが、構わないかね?」
神官を名乗る御老体が、我々に転職の説明をしてくれている。どうやら、なれる職業を自由に選べるわけではないらしく、それぞれに元々備わっている才から、転職先が勝手に決まるらしい。その辺は現実の転職と近いのかもしれない。
──程なくして、それぞれの転職が完了する。
「ひまりは僧侶になりました〜♪」
衣良皆 陽葵は、皆の癒し系ポジションが評価されて、皆を癒す魔法が使える僧侶になったそうな。確かに、衣良皆には、天職かもしれないな。
「アタシは武闘家だってさ。素手で良いらしいから、金掛からなくていいわ」
赤波 真中は体育会系そのまま、体術を駆使する武闘家の適性があったらしい。体を動かすことが得意な赤波にとっては、これまたピッタリな職業であると言えよう。
「……私は魔法使いとのことです、定番ですけど」
隠岐 利己は、飛び抜けた頭の良さと、鋭いツッコミの攻撃性から判断され、攻撃魔法のスペシャリストである魔法使いに適性があるそうな。隠岐であればどのような魔法でも習得できることだろう。
「──僕はなんと、勇者なんだって!! さすが主人公格ってことだよね!!」
意外だったのは、オチ要員かと思われていた疎間 保である。現世でのバランサーポジションが評価されたようで、バランスタイプの勇者に転職が決まったらしい。勇者は大変レアな職業らしく、適正のある人は非常に少ないんだとか。
「疎間さんだけは、なにか納得がいきませんね」
「……そうね、遊び人あたりかと思っていたのに」
「え〜、タモッチいいな〜♪」
女性陣からのブーイングにも負けず、疎間は得意気に鼻を高くし天狗になっている。
「へっへ〜ん! 分かる人には分かるのさっ! あ、そういえば主任はどうだったんですか?」
そして、私はというと──
「「「──えっ主任、暗殺者なんですか!?」」」
無口な性格と影の薄い存在感に適性あり、と判断がくだったらしく、会社員から一転、私は暗殺者という職業にされてしまった。
私の職務経歴は、本当に大丈夫なのだろうか。異世界生活に一抹の不安が残る。