5−4 覇王の憂鬱
「まったく、酷い目にあったわ」
私が主催した『立食パーティー』に私が登場した途端大混乱とは笑い話にしかならない
…まぁみんなの反応を見る限り、あの服が似合っていないなんて事はなさそうなので安心した
「なかなかの見立てじゃない…一刀」
久しぶりに唇に乗せた名前が嫌に生々しい
彼が居なくなってからはみんなには会話上にはなるべく出さないようにするよう指示した
私自身も極力呼ばないように意識してきた
…しかし呼べるようにまで落ち着けるようになったらしい
「…違うわね」
…違う、呼べるようになった訳ではない
これは薄れてきてしまってるのだ
大切な人との思い出が少しずつ薄れている…その事実がこの上なく胸を締め付ける
「…嫌、嫌よ。…曹孟徳が欲した『もの』が許しもなく消える事は許さない」
その『もの』は思い出だけの『物』だったのか、それともその男自身の『者』だったのか…
月明かりに照らされた部屋の窓辺に腰掛けゆっくりと目を閉じる
…見える…初めて会ったあの時…私は彼を天の御遣いに仕立て上げる算段を立てた、天の御遣いとして祭り上げ使えなければ切り捨てれば良いと割り切っていた
…しかし彼は有能だった、彼の献策は必ず私の目に止まり、彼の案は詰めれば使える物ばかりだった
だから常に傍にいた、私の隣に常に居てしまった…
だから…、いつの間にか自分の思いが別の物になっていったのに気付かなかった、彼に頼られて生きているつもりが彼がいない事に耐えられなくなるほど依存してしまっていた
…早くに気付けば良かった…
…さっさと手放せば良かった…
…いなかった事にすれば良かった…
そうすれば…
「…こんな思い…しなかったのに…」
涙が零れる
嗚咽が洩れる
「…帰って来なさいよ…一刀…」
覇王はその夜、一人の『少女』として窓辺で涙を流す
魏ルートで後一つルートが有りますが彼女達は後からストーリーに関わる為短編ストーリーはありません。期待してた方ごめんなさいm(__)m