70話 華琳、決断す
呉蘭SIDE
「…それで北郷との交渉は流れた訳だな?」
「…申し訳ありません」
「責めている訳ではない、むしろ私は嬉しいぞ、凰騎、あれだけ戦に消極的だった貴様が自分から戦うとなどとは、お前に交渉役を預けたのも失敗ではなかった、という訳だ、ふふっ…で、どうなのだ?」
「どうなのだ、とは?」
「その北郷という男の印象だ、会ってみて何か感じるものは有ったのか?」
「…正直、良くはわかりません…、自分自身あの男に何を感じ、何故あれほどの怒りを感じるのか…、自分の感情を持て余すなど今までになかった事です…」
「ふふふ…、なるほどなるほど、己の感情がわからなくなるほど気にはなる、という事か」
「…良くわかりません、気にはなっていますが、どうしたいのか…」
「ならば試してみれば良いではないか」
「試す、とは?」
「簡単だ、魏に戦を仕掛ければ良い」
「…張任様、劉備との交渉も済んでいない現段階で魏に戦を仕掛けるのは早計かと、何よりそれでは劉備陣営を刺激する事に…」
「はっ!良いではないか、魏とは交渉が決裂した時点で劉備に付くのは明白、ならば先に叩いても問題あるまい、現時点で将も兵も劉備に比べれば圧倒的に不足しておるのだ、少しでも戦力は削いでおくに限る」
「しかしそれでは…」
「我々は『劉備』と正面から戦えれば良いのだろう?魏とわざわざ正面から構える理由はないぞ」
「………」
「あまり納得しておらん顔だな」
「…いえ、張任様がそうおっしゃるならば私に是非はありません」
「ふふっ、ならば朗報を期待しておるぞ?」
「…はっ!我が身命に掛けて必ずや戦果を」
「あぁ、…兵は好きに連れていけ、ただし部下は損なうな、人形ならばいくら潰しても構わん」
「はっ!!では兵の再編がありますので下がります」
「…交渉の件本当にご苦労だった、凰騎」
「はっ!」
部屋から出ると廊下の壁に寄り掛かって王塁が待っていた
「…戻っていたのか」
「お、心配してくれてたのかい?」
「鳳濡はどうした?」
「…俺じゃねぇのかよ」
「当たり前だ」
「………」
「………」
「泣いて良いか?」
「邪魔にならんように端で頼む」
「………」
「で、そろそろ満足か?ならば兵の準備をしておけ」
いじけかけた王塁はその台詞に驚いた
「はぁ!?まだ劉備と交渉終わってねぇじゃねぇか、いったい何する気だよ?」
「…魏と一戦構える」
「…そりゃ御大将から言われたのか?」
「…あぁ」
「…冗談…じゃねぇみてぇだな…どうすんだよ、魏の連中、蜀の陣幕ん中だろ?下手すりゃ劉備とそのままぶつかるんじゃねぇか?」
「目的はあくまで魏の戦力を削る事だ、蜀が出てくるならば相手はするが極力交戦は避け、兵の生命を優先しろ、危険になったらいくら人形を盾にしても構わん、生き延びる事だけを最優先にし、可能な限り敵兵を削る、これが俺達の任だ」
「…簡単言ってくれるぜ、曹魏は他の二国相手にほぼ負け無しの文字通り現時点で三国最強の軍隊、でそこに最後まで魏と覇権争いをしてた蜀、この二国の武将達も有り得ねぇ位強いってのにどうやって勝つってんだい?」
「…確かに魏は強い、しかし今ならばまだ勝てる可能性はある」
「へぇ、どうすんだい?」
「幸い魏は遠征を終え到着したばかり、疲労が抜けていない、さらにこの周辺の詳細な地形図は俺達しか持っていない、戦略的地の利は我等にある、これを利用すればこの辺りの地形を知らぬ魏の連中とはある程度やれるはずだ」
「劉備軍はどうすんだよ?流石に詳細な地形図はねぇだろうがある程度は知ってるんじゃねぇのか?奇襲掛けるにしたって劉備軍が居ちゃあまず無理だぜ?」
「…そこは考えてある、問題はない、魏と劉備軍がこちらの予測通りに動けばまず間違いなく奇襲を仕掛ける隙ができる」
「そう上手く行くかねぇ?…ま、良いか、副将が自信たっぷりってのはだいたい大丈夫な時だしな」
「お前には少しばかり働いてもらわねばならんが構わんな?」
「どうせやらなきゃいけねぇのにわざわざ聞くな、性質悪ぃぜ、汚れ役と貧乏くじは俺達の仕事だ、任せな」
「…お前に貧乏くじは任せる、汚れ役は俺がする」
「副将…あんたまさか…」
「勘違いするな、俺も時と場合ぐらいは弁えている」
「…焦せらすなよ」
「正面から戦う、これは我等の総意だ、しかし負ければ後はない、必要ならば悪に徹する、それが俺の戦いだ」
「んなら任せるわ、俺も貧乏くじとことん引かせてもらうからよ、…張遼の姉ちゃんが出てくるなら俺が止める、文句ねぇな?」
「…気に入ったのか?」
「あぁ、気に入ったね、呑みっぷりも良かったが呑みながらもビシビシ伝わってくるあの殺気…そして得物は長柄、ありゃ間違いなく俺の相手だ」
「そこまで入れ込むとは余程だな、ならば張遼は任せる」
「うっし!久々やり合えそうな相手だからな、存分にやらせてもらうぜ」
「…『紅龍』は使うな、やり合うならば必ず『青龍』で仕留めろ」
「げっ!!本気かよっ!?」
「当たり前だ、劉備軍相手ならまだしも魏の将に使ってどうする」
「げ〜…ま、仕方ねぇかぁ…でもやばくなったら使うぜ?」
「自分が生き残る為ならばそれは仕方ない、構わず使え、…だが約束しろ、『使うならば必ず殺せ』見た者すべてを…な」
「…全員か」
「『紅龍』は一撃必殺の武器、しかし初見の相手以外には直ぐに弱点を見極められる諸刃の剣、見られたからには口を塞ぐしか広まりを止める術はない」
「そりゃ分かっちゃいるが…って……その顔は俺の話なんか聞きやしねぇつもりってかい…わぁったよ、見られた相手にゃ容赦しねぇ、それでいんだろ?」
「…手心を加えるつもりか?」
「俺は人殺ししたくて武官やってんじゃねぇんだ、劉備とその兵を殺すのには賛成だが魏と殺り合う理由がねぇ」
「そんな言い訳が通じると思うか?」
「…あぁ、劉璋の兄ちゃんがいたら話は通じただろうよ」
「………!!」
「副将…俺等、…何の為に戦うんだよ?」
「………」
「…って、わりぃ、あんたも言われてきた側だったっんだっけな、今のは忘れてくれ、兵の準備はしとくからよ」
「…待て…話は…」
「『紅龍』は極力使わねぇ、使う時は殺す気でやる…これで良いな?」
王塁に殺気が宿る
「…あぁ」
「なら後は将の数だな、魏の将は優秀なのがごろごろいんだろ?こっちはどうするんだい?」
「現在魏からの進発が確認されている将は夏侯惇、張遼、許緒、典韋、そして先の交渉の際に会った徐晃という将軍も含め5人、それ以外にも名の知られてない将や劉備からの援軍も考えられるな」
「うげっ!!結構いんじゃねぇか!!どうすんだよっ!?人形兵で圧倒しても武官に押されっ放しじゃじり貧だろがよ」
「心配要らん、父上も出陣する、退路さえ確保していれば我等に敗北はない」
「…まじかよ?…つまりおっさん、『あれ』で出陣すんのか…はっ!俺は武器制限だってのに良いご身分だな、おい」
「では逆に問う、貴様は『あれ』の弱点が分かった所でどうにかできるか?」
「………ちっ」
「そういう事だ、父上の『あれ』を止める術はない、もし弱点が分かったとしても我等が補助をすれば良いだけの事だ」
「まったく…羨ましいねぇ…俺も本気で戦してぇなぁ…」
「ではお前が『あれ』を代わりに使うか?」
「けっ、冗談、あんなもん使えるかよ!」
「ならばつべこべ言わず、さっさと人形の数でも確認しておけ、進発は4日後にする、指揮の取れる兵を20人程連れていく用意を」
そういってくるりと踵を返す
「え、おい!副将はどうすんだよ!?」
「部屋に篭る」
「…またやんのかよ…何がそんなに楽しいかねぇ」
「楽しい、楽しくないの問題ではない、俺なりのけじめだ」
「…けじめ、ねぇ…」
「兵の選出は任せる、雷銅にはまだ声をかけていないから一応聞いておけ」
「…聞かなくても分かっけど了解、っと」
「…頼む」
そのまま離れていく呉蘭を王塁は最後まで眺めていた
………
……
…
北郷SIDE
『交渉決裂』から半日、既に日は中天を越え、ようやく陣に戻ってきた俺達交渉組
流石に入り口の兵達には何時の間に出て行っていたのかと不審そうな視線を向けられたが俺達自身が怪しい人物なわけではないのでそのままスルー
絶影を厩舎で預け、華琳の天幕に向かえば入り口には白黒一対の従者が番をしていた
「あ、北郷さま〜♪」
「おはようございます、北郷様」
「おはよう、えと…」
…真名、呼んで良いのかな…?
「曹操様より聞き及んでおります、私の事は黒花とお呼び下さい」
「私がおねぇちゃんで〜、白花、って呼んで下さいね〜♪」
やっぱり真名っぽい名前、何故かは分からないがそっち以外は教える気はなさそうだ
「黒花と白花ね、了解、俺の事も一刀で良いから」
「私達が御遣い様の名を呼ぶ訳にはいきません、今まで通り北郷様と」
「えぇ〜、黒花ちゃ〜ん、北郷さまから呼んで良いって言われたのに呼ばないの〜?」
「白花姉さんは軽々しく考え過ぎです、御遣い様の御名は私達が呼べる程軽い物ではありませんよ」
いや、むしろ重々しく考え過ぎでは…?
「いや〜、黒花ちゃ…」
「私の事は黒花と呼び捨てで構いません」
「じゃあ黒花、俺の方ももうちょっと気軽に呼んでくれない?流石に『北郷様』ではよそよそしいと思う」
「ほら〜、黒花ちゃん、北郷様も嫌がってるよ〜、真名預かっちゃおうよ〜」
「…白花姉さん、少し黙っていて下さい」
「…ふぇ〜ん…黒花ちゃんがいじめる〜…」
そう言いながら俺の右腕に縋り付く
…柔らかい、すごく柔らかい、何がとは言わないが…今理性がヤバイ
「白花姉さん!北郷様に抱き着かないで下さい!」
ギュッと反対側に引っ張られ右の柔らかい感触が離れていく…あぁ…
でも代わりに左腕に柔らかい感触が伝わってくる
…こっちもこっちで良いなぁ…
二人の間でくんずほぐれつそろそろ理性がヤバ…
「あら一刀、借り物とはいえ人の天幕の前で随分と楽しそうな事してるじゃない♪」
「うぉ!?か、華琳!!」
「…せっかく両腕を抑えられているようだしこのまま縦に真っ二つ、なんて良いかも知れないわね♪」
「あ、いや!まずい!それはまずいって!!」
…シャキン
「で、何か弁明はあるのかしら?」
「待って!俺は別にやましい事は一切してないんだ!!信じてくれ!!」
「やましくなくとも喜んではいたようだけど?」
「いや、そりゃ女の子二人に左右から挟まれてりゃ喜ぶだろ」
それに二人とも結構大きいし…
「一刀、今そこはかとなく怒りを覚える様な事を考えなかった…?」
「いえ、別に」
「…そう、…ま、良いわ、…二人ともご苦労様、しばらく休んでなさい」
「は〜い♪黒花ちゃん、行こう♪」
「…失礼致しました」
「貴女達もそれで遊ぶのはほどほどになさい」
「それって俺かよ…」
「わ、私は遊んでいた訳では…!」
「えへへぇ〜♪ごめんなさ〜い♪」
白花はわざとかい…
「…まぁ良いわ、二人はゆっくり休んで、一刀は早く入りなさい、報告がまだよ」
「…了解」
足止め喰らったのは誰のせいだよ…
「…何か言ったかしら?」
「い〜え」
………
……
…
華琳SIDE
「…そう、何者かに劉璋は殺されたのね」
「らしい、桃香が関わってるとは思えないけど少なくとも『偽善斬党』の連中は桃香が諸悪の根源だって信じて疑わないって感じだった」
「見当違いも甚だしいわね、自分達が無抵抗を決め込んだせいで起こった事を桃香のせいにしたいだけじゃない」
「俺もそう思う、でも…」
「でも?」
「…少し、分かるんだ」
「分かる?」
「…もし俺が同じ立場だったら…殺したと思える立場に誰か敵といえる人間が居たら…俺もその人の事憎むかも知れない…」
「………」
「理解はしてるんだ、彼らのやり方は間違ってるって、でもそれをそのままで納得できるかどうかって言うとできなくてさ…」
「…じゃあおとなしく桃香を引き渡すのかしら?」
「そんな訳ないだろ!桃香が悪いなんてありえない!!俺は彼女を信じてる!!」
「ならば答えは一つでしょう!!何を迷うの北郷一刀っ!!」
「っ!」
大きく開かれた一刀の目に意志が戻った
「…そう、だよな…ごめん、少し迷ってたんだ、あいつらを本当に悪人だって決め付けて良いのかさ」
「善悪の判断など勝者の理屈、前に言ったはずよ、戦の世で自分の言葉を聞かせたいのなら力ずくで聞かせるしかないと」
「…そうだったね」
「貴方は既に魏の重臣、この程度の事で私を怒らせないで頂戴」
「ごめん華琳、ありがとう、もう大丈夫だ」
「桃香の所へ?」
「…伝えておかないと後々ね…」
「…交渉の時に潰されかねない、か…」
「うん、多分張任さんはそこを重点的に攻めたいだろうし、桃香に教えておかないとかなりショッ…衝撃を受けると思うんだ」
「…そうね」
「じゃ、ちょっと行ってくる、代わりの護衛は…」
「必要ない、私も行くわ」
「え?でも…」
「貴方から桃香に説明するより私からの方が良いでしょ」
「え、いや、それは…」
「何よ、私からだと何か問題でもあるの?」
「…いや、問題というかなんと言うか…華琳、君、どんな風に伝える気…?」
「どんな風に?どんな風にと言われてもありのまま事実を伝えるだけよ?」
「いやいやそれは…」
「さ、早く行きましょ」
「あ、お、待てよ華琳!」
一刀が並んだ辺りで口を開く
「一刀、反対に聞くけど貴方はどういう風に伝えるつもりだったの?」
「いや、そりゃあまり彼女を傷付けない様にオブラート…じゃなかった歯に衣を着せて…でもなくて…とにかく彼女を傷付けない様にやんわりと伝えるつもりで…」
「甘いわね」
「いや、それは分かってるけど…」
「違うわ、桃香に甘いと言ってるのではないの、貴方が桃香がこの程度で折れると思っているのが甘いと言ってるのよ」
「どういう意味?」
「そのままの意味よ、彼女は強いわ、理想を信じ、理想に共感した仲間を信じ、そして何より理想を信じ続けた自分を信じて私に向かってきた…悔しいけどあの強さは私にも無いもの、諦めの悪さは三国一じゃないかしら」
「…それは褒めてるの?貶してるの?」
「両方よ、確かにその点は私も認めてはいるけれどまだまだあの娘は現実が分かっていない所があるわ、そこはきっちり教えておくつもりよ」
「相変わらず厳しい裁定だね」
「甘くしても桃香の為にはならないもの」
「さいで…」
「あ!華琳様ぁ〜!!兄ちゃ〜ん!」
「ん?季衣?」
「どうしたの季衣」
「桃香さんが華琳様と兄ちゃんの事を探してるみたいで、中央の天幕にきて欲しいって言ってました」
「そう、ご苦労様、…そうね、季衣も一緒にいらっしゃい、貴女も聞いておくべき話があるの」
「にゃ?何の話ですか?」
「大事な話よ、いらっしゃい」
「は〜い」
………
……
…
一刀SIDE
「お待ちしておりました、曹操様、中で劉備様達がお待ちです……曹操様!北郷様!許緒様!参られました!!」
「失礼するわ」
「失礼するよ」
「お邪魔しま〜す」
中には蜀の主要なメンバーが集まっていた
どうやら軍師コンビから俺の件を聞いたようだ、俺の方を見て安堵する様な表情を見せてくれた
だがすぐに表情を引き締める
「…北郷さん、朱里ちゃん達から聞きました、私達の為に危ない目に合わせてしまってごめんなさい」
深々と頭を下げる桃香
「いや、俺は自分の意志で交渉に臨んだんだ、桃香が謝る様な事じゃないよ」
「…でも…」
「…いや、今はそれより内容の話を聞いて欲しい」
周囲の表情が一段と厳しくなった
「単刀直入に言わせてもらう、交渉の方は完全に決裂、相手の将…呉蘭って人だったんだけど話が終わってすぐ部下をまとめて引き上げていったよ」
「どの様な話を?」
…どうしようか…劉璋さんの話はしたほうが良いだろうか…
「桃香、貴女は劉璋についてどれくらい分かっているのかしら?」
「…劉璋さんについての話を聞くと皆さんあまり良い感情は持っていないみたいです…」
「そのようね、こちらもそこは確認済みよ、朱里、雛里、最近の情勢等については調べた?」
「劉璋さんは私達の入蜀直前に即位した事になっているんですが、短期間であれ程悪い印象を持たれている点、それと劉焉さんから劉璋さんに王位が移るまで期間が空いていた点など少し不自然な点が見受けられました」
「…そう…、一刀が聞いた話に嘘はなさそうね…桃香、貴女と朱里、雛里、それに一刀を残して他の将達はすぐに出しなさい」
「…華琳殿、それは我等には聞かせられんという事か?」
「勘違いしないで桔梗、貴女達に聞かせないという訳では無いわ」
「…桔梗さん、それにみんな、華琳さんの言う通りにして下さい」
「桃香様…」
「私、みんながいると甘えちゃいますから、華琳さんの言葉は私がきちんと受け止めないといけないんです…」
「…桃香様……分かりました、…皆、解散だ、一旦各自の天幕へ戻るぞ」
「え、おい、良いのかよ愛紗…」
「桃香様がお決めになられた事だ、ならば私は従うのみだ」
「あ、おい愛紗!」
「姉者〜、待つのだ〜!」
「では私もお暇しよう、桃香様至上主義の愛紗が引くというのに私が口出ししては本末転倒ですからな」
「そうじゃな、…焔耶の様子も気になる」
「…魏延さん、どうなんですか?」
「医者の話では身体に特に異常はない、薬か何かで眠っているだけだろうといっておった」
「…良かった…」
「礼は今夜にでもな…それでは失礼する」
「いや、桔梗お礼なんて良い…ってもう行っちゃってるし…」
桔梗がいなくなった後何故か桃香と華琳は難しい顔をし、孔明ちゃん雛里ちゃんははわはわあわあわ慌てている
「…みんな何してんの?」
「…誰かそこの脳天気を絞め殺して」
「何故っ!?」
「あぅ〜…え、えと、分かってないから…だと思います…」
「え?分かってないって何が?」
「「「………」」」
「え?え?」
「…桃香、話の続きだけど…」
「無視ですかっ!?」
「…一刀さん、鈍感過ぎますよぉ〜」
何故俺が桃香に怒られる?
「…桃香、一刀なんか放っておきなさい、それより今は劉璋の話よ」
華琳、君は俺を無視か
「…はい、聞かせてください…」
…華琳は語る、現状俺が伝えた内容とその要点を簡潔に、飾ることなく、『事実のみ』を桃香へと突き付ける
「…それが…、…劉璋さん達の真実…」
「…俺が聞いた限りわね」
「貴女達の入蜀の時期から考えて間違いないわ、劉璋が城から離れた時機も一致してる、これが張任達が貴女を狙う理由よ」
「…私は…劉璋さんがみんなを困らせてるんだって…そう…思ってました……」
「違った様ね」
「………」
「貴女の願いは何?桃香」
「…みんなを、笑顔にする事です」
「…その願いの果ての結果がこれ、何かを救えば犠牲が出る、全ての人を救うなど所詮は夢物語、思い知ったでしょう?」
「…っ!!」
「華琳っ!!」
「…黙りなさい一刀」
「…っ!?」
静かに一言
しかし否応なしに口を閉ざさざる終えない程の覇気、今の彼女は華琳ではなく曹孟徳なのだ
王の言葉に口を挟む余地などない
「私は三国統一の折に貴女に蜀を託した、それが蜀という国を豊かにしてくれる、貴女に国を守るだけの力があると信じたから蜀を任せた…だから貴女に、私の選んだ王に反意を抱く者があるのなら私はそいつらに容赦などしない」
「か、華琳さん!それは…!!」
「嫌とは言わせないわ、このまま戦禍が拡大すれば民達にも害が及ぶ、それはまた新たに禍根を生む、私はそんな真似はさせない、禍根は『根本』から断つの、徹底的にね」
「………」
「貴女にはできないでしょう?だから貴女の代わりに私がするわ、彼らの振りかざす正義は私が己の力で叩き潰す」
「そんなの…そんなの駄目です!!そんなことしたらまた同じじゃないですか!!誰かがまた泣いて、また誰かを恨んで、それを繰り返すだけです!!」
「だから断つ!!もう二度と立ち塞がらない様に徹底的に叩き潰すのっ!!ここで非情になれなければ国は貴女の言った通りになる!!」
「でも!!まだ話し合えば分かってくれるかも知れません!!」
「聞くわけがないでしょうっ!!…偽善斬党が貴女を呼び出したのは話し合いをしたい訳じゃない、ただの宣戦布告目的、もしくはその場で貴女に害を与えるのが目的かも知れない、貴女が偽善斬党の前に立つ意味などないわ」
「意味ならあります!!会って直接話せば…」
「貴女はいつまでお人好しでいる気なのっ!!」
「…っ!」
華琳の一喝に思わず肩を竦める桃香
「…貴女が説得などすれば偽善斬党の怒りを買うだけよ、相手は本気で劉玄徳という人間を敵視している」
「………」
「相手が間違っているのは明らか、それでもその間違いを真実だと信じている人間にとってはどんな言葉も役には立たない、それが憎しみの対象なら尚の事ね」
「それでも…戦っちゃいけないんです、…私達が蜀にきたせいで劉璋さんが亡くなったなら、私がきちんと話をしないと何も解決しないと思うんです」
己の確固たる意志を表すかのように桃香の瞳は揺らぐ事なく真っ直ぐ華琳を見据えている
「…貴女も相変わらず頑固ね」
「私に出来るのはそれだけですから」
きっぱりと言い放つ
「…もし張任が民に害を成すようなら私は黙っていないわよ?」
「…はい、もし張任さんが無関係な人達に手を出すなら私もみんな守る為に戦います」
「…覚悟はできているようね…なら好きになさい」
「はい♪好きにしちゃいます♪」
「…ふぅ…まったく…朱里、雛里、私達の使っている天幕辺りに軍議に使える天幕を用意したいの、付き合ってくれるかしら?」
「あ、はい、でしたら資材の手配を…」
「設置場所も決めておきたいの、私の天幕まで来てちょうだい」
「あ、ですが…」
「桃香、二人を借りていくわね、代わりにそれを置いていくから」
「…それって俺かよ…」
「…一刀、しっかりやりなさい」
「え?」
「解ったわね?」
「え?え?ちょ!華琳!?わ、解ったって何がだよ!…行っちまってっし…なんだか今日の華琳唐突過ぎないか?ねぇ桃香…って、あれ?どうかした?」
「えへへ…♪少し甘えさせて下さいね」
さっきまで華琳の向かい側(俺の斜め前)にいた桃香がわざわざ隣に移動してきてぴたりと腕に抱き着く
で、柔らかい感触が腕に…
…何、この美味しいシチュエーション…?って考えれば現在この天幕には俺達二人きり…
華琳!これなのかっ!?マジでそういう事なのかっ!?
左肩に頭を載せ、ますます腕を強く抱きしめる桃香…
…そこでようやく気付いた、桃香の肩が小刻みに震えている
「…少し…甘えさせて下さいね…、…ちょっとだけ…ですから…」
「…桃香…」
服の布地に染み込んでくる涙
「…孔明ちゃんや雛里ちゃんの前で弱音、吐けないもんな…良く我慢したね」
「…だ…て、…私…弱音……たら…二人…心配かけちゃ…、でも…も…我慢、できなくて…」
「…うん、大丈夫、ここには俺しかいないから」
しゃくりあげる桃香の頭を撫でながらゆっくりと促す
「…劉璋さんが…亡く……のは…私のせい…て、聞かされて…、ほ…とは私、蜀に…こなければ…良かったのかな…て…」
「…後悔してる?」
「…あの…時、私が…逃げよう…なんて言わなければ…劉璋さん達と今みたいに…戦う事には…ならなかったって…思う…んです」
「…でも、桃香はあの時逃げなかったら袁紹さんと戦う事になったんだろ?…あのまま桃香達が袁紹さん達と戦ったら、間違いなく負けてた、それが分かったから逃げる事を選んだんだろ?桃香がそう決めたから多くの人が戦に巻き込まれずに済んだんだろ?…確かに戦うのも勇気だ、だけどああいう時逃げるって選択をするのも勇気だと思う、間違ってないとは言えないかも知れない、でも桃香の選択にみんなが従ったのはそれが正しいってみんなが信じたからだよ」
「一刀さん…」
「…って何偉そうに説教してるんだろ…」
「…いえ…ありがとうございます…」
「役に立ったなら良かったよ」
「…私、ちゃんと張任さんと話してみます」
ぐっと袖で涙を拭うと桃香はそう宣言した
「…うん、俺も出来る限り協力する、…本来なら納得してもらえるのが1番だけど…」
…出来なければ、その時は…
「大丈夫です、何度でも、何十度でも、張任さん達が話を聞いてくれるまで、私諦めません、張任さん達とは話せばきっと分かってもらえます♪」
…諦めない、か…
「…それでこそ桃香だ、俺も手伝うから一緒に頑張ろう!」
「はい!ありがとうございます♪」
…そうだな、俺も出来る限り頑張ろう、桃香が諦めないのに俺が先に諦める訳にはいかないのだから
あとがき†無双?
「………」
「……ZZZ」
「…起きろ、王塁」
「……んが…」
「起きろ」
「…後一刻…」
「長い、起きないなら永遠に眠っていろ…破っ!!」
「うおっ!?お、おいてめっ!!今本気で俺の頭潰そうとしやがったなっ!?」
「…何の話だ?…チッ」
「おい、副将よぅ…今舌打ちしたろ?なぁ、したよな…?」
「………考え過ぎだ」
「間が長ぇ!!本気だったのかよ!!」
「そんな些細な話は忘れろ、それよりお前は周りの様子に気付かんか?」
「…俺が死にかかったのは些細な話か…?てか周り…ってここ何処だよ?」
「ここは多分あとがき†無双で間違いない」
「げっ!?まじかよ!!」
「多分我等のテンションが以上に高いのはそのせいだろう、我等は作者に嵌められたようだな」
「どういうこった?」
「馬鹿な作者は前々から他の作品でたまにあるオリキャラと作者の絡みを面白そうだと思っていたようだ」
「んであとがきで俺とあんたを絡ませた訳か」
「その様だな」
「まさに作者死ねって感じだな」
「…で、どうする?」
「…どうするって何がだよ?」
「このままあとがき†無双を続けるのかどうか、という事だ」
「いや、そりゃここの担当の二人いねぇし代わりにやるしかなくね?」
「…それがどういう結果を生むかお前は理解しているか?」
「結果ぁ?司会進行を代わるだけだろ?楽勝じゃねぇか…って…まさか…」
「そう、そのまさかだ…」
「「…俺達のキャラが崩壊する」」
「やべぇ!!せっかくの俺のクールなキャラが…」
「本編でも貴様はクールキャラというよりただノリ軽いだけだろう?」
「な、なんつ〜心ない言葉…」
「貴様相手にはこれくらいでちょうど良いだろ」
「…俺、あんたの補佐役なんだけど、何この仕打ち…?」
「補佐なら補佐らしく上司の罵声でも聞いておけ」
「なんちゅう理不尽な…ん?」
「どうした?」
「ん、いや…どっからか音しねぇ?」
「………っ…」
「何の音だ?」
「わ……し…で……………せぇ…!」
「副将…なんかくんぞ…」
「あぁ、来るな」
「逃げた方が良くね?」
「あれからか?…逃げ切れると思うか?」
「いや、絶対無理、あんな砂煙上げて走る人間から逃げられるなら俺神…ってあれ、鎌持ってねぇか?」
「…多分我等を狩る気だろうな」
「げっ!?」
「私の!出番!返せぇぇぇぇぇ!!」
「…王塁、すまん…耐えろっ!」
「うぎゃーーーー!さ、刺さった!!間違いなく今刺さってる!!死ぬから!!マジ死ぬから!!てかてめっ!!今盾にしやがったろ!?後ろからホールドとかマジ汚ぇ!!」
「………何の事だ?」
「この会話さっきしただろうが!!…あ、あぁ…叫んだらち、血が…」
「私の出番を奪った罪の重さ、とくと思い知りなさい!!」
「かり〜ん!!敵って何処にい…うわっ!?は、派手にやったねぇ…その人まだ生きてる?」
「…かろうじて…」
「なら大丈夫」
「何処がだよ!!これ間違いなく死ぬだろ!?」
「見事なノリツッコミ、これは死なないでしょ」
「…王塁の生死はさておき、北郷一刀、何故ここに我等が呼ばれた?」
「…おい、副将よぅ、今俺とあんたの間に深い溝が出来たんだが気付いたか?なぁ?」
「………で北郷一刀、ここに俺が呼ばれた理由なんだが…」
「無視すんなやっ!!」
「………えと、多分だけど…」
「ブルー○スお前もか!!じゃなく北郷てめぇもか!!」
「だって、ねぇ?」
「ねぇ?じゃねぇよ!!」
「おい、王塁、良いか?」
「あ?何だよ、今大事な話をだな…」
「…お前、…大分馴染んでるぞ」
「嘘っ!?」
………
……
…
「まったく…何故この作者はあとがきで訳の分からん事をやりたがる」
「今回は二人のキャラ紹介を兼ねて偽善斬党からのゲストを呼びたかったみたいだね」
「なんで俺らが自分のキャラ紹介で来んだよ、それなら御大将辺りで良いんじゃねぇのか」
「確かに我等が自分で話すより張任様の方が適任ではある」
「…ち、張任さん…い、嫌だぁぁぁぁぁ!鞭、鞭だけは許してぇぇぇぇ」
「ガクガクブルブルガクガクブルブル…………」
「え、あ、おい!」
「いったいどうした?」
「ちょ、ちょっとその名前を聞くとトラウマが…」
「ガクガクブルブルガクガクブルブル……………」
「何があったんだよ…」
「聞かないで…」
「ガクガクブルブルガクガクブルブル…………」
「北郷、曹孟徳が壊れているぞ、なんとかしてやれ」
「(…華琳、戻ってきて、出番、出番だよ)」
「ガクガク…はっ!はぁい♪みんなの主人曹操孟徳 華琳よ♪」
「華琳落ち着け、冒頭はもう終わったから」
「え、あ、つ、次のコーナーは…一刀、次は!?」
「だいぶ錯乱してんな、その姉ちゃん」
「誰!!曹孟徳をそこら辺のお水の姉ちゃんと称する愚か者はっ!?」
「誰もそこまで言ってねぇよ!!」
「…一刀、誰こいつら?」
「錯乱した末記憶が飛んでるな」
「華琳、実はかくかくしかじか…」
「なるほどまるまるうまうまという訳、…ガクガクブルブル…」
「それはもう良い!!」
「はっ!?あ、危なかった…で、貴方達のキャラ紹介が目的な訳ね?」
「おう、そうらしいな」
「自己紹介など得意ではないからな二人に任せる」
「あらそう、…皆さん♪この二人は↑の様なキャラですのでよろしくね♪」
「ちょっと待てぇい!!」
「何?」
「…今の説明、おざなり過ぎやしねぇか?」
「そう?」
「おざなり、というよりは説明は皆無だったな」
「私の出番を奪う悪党等に割く時間無し、これから私の独演会なんだから邪魔しないで、ていうかあんたら戦闘で武器使ってないんだからどうせ解説だって穴だらけでしょ」
「いや、そりゃそうだが服装とか容姿とかよぉ…」
「口調と雰囲気から連想なさい、以上!」
「適当だなおい!!」
「あんたは本編で武器持ったら自ずとイメージのキャラに近付いてくんだから良いのよ、問題はそっちの影薄いの」
「影薄いの…」
「しゃべらざるものキャラは立たず!!これがあとがき†無双の掟!!そして私以上に目立つ奴は死ぬ、これもあとがき†無双の掟」
「…なんと恐ろしい」
「いや、本気にしちゃまずいから、たしかにしゃべらないと立たないのは事実だけど華琳以上に目立ったら死ぬとかないから」
「え〜、ないのぉ〜?」
「自分で言っておいて君が聞き返すなよ華琳…」
「ふぅ、使えないわね、ま、良いわ、影薄いのと軽そうなのはどうせ次回かその次に説明されるでしょ、本編の方に触れましょ」
「…後回しって」
「…まぁ、良いだろう、呼ばれた身としては甚だ遺憾だがたしかにネタバレは少ない方がいい」
「という訳で偽善斬党内ではついに魏との戦闘の準備が開始、蜀との交渉進まぬまま魏と偽善斬党は戦い始めるのか?ここら辺の話を聞いていきたいね」
「おし!てことで副将、ガツンと言ってやれ!」
「…突っ込むべきなんだろうが無視させてもらうぞ…俺達偽善斬党本来の目的と魏は直接の関係はない、すなわち現段階では戦う意味はない」
「現段階?」
「…我等には一つ魏…いや、曹孟徳と対立する理由がある、気付いているな?曹孟徳」
「えぇ、もし貴方達が私を断罪するならこれが原因でしょうね」
「うお!?珍しく華琳が真面目に受け答えを…てか思い当たる節あるの?」
「珍しくは余計よ…えぇ、あるわ、私が彼等に狙われる理由」
「本編ですぐ語られるさ、問題ねぇよ」
「ま、確かにね」
「で、私一つ気になってるの、今回のサブタイトルの『華琳決断す』何だけど私決断した?むしろ決断したの桃香じゃない?」
「「…確かに」」
「いやいや、華琳は決断したよ」
「何をよ?」
「華琳の決断、それは…」
「「「そ、それは?」」」
「『あの状況(桃香が泣きそう)で一刀と桃香を二人きりにする』という愚行をしよう!!と」
「「「!!!」」」
「確かに…」
「魏の種馬とあんなの一緒にしたらなぁ…」
「ヤックデ○ルチャー……私は何という愚行を…」
「…こんな反応されるなら言わなきゃ良かった…」
………
……
…
「さて、久しぶりの更新、いかがでしたか?多忙で更新がめっきりなくなった作者を見捨てないで下さい」
「無理矢理締めにかかったな」
「種馬が堪えたんだろ」
「しょうがないじゃない事実だし」
「うるさいやい!そろそろ文字数がやばいんだい!」
「じゃあ締めましょ、次回、貴方との日々をもう一度〜71話 壊れた正義、偽善斬党〜をお送りします」
「…我等の正義、止められはせん」
「へっ、覚悟しな」
「それじゃ、またあとがきで会いましょ!」
あとがき†無双 終
「あいつら、主人公無視で締めた…」