61話 華琳、蜀に降り立つ
春蘭SIDE
「それではな秋蘭桂花、魏の事、二人に任せたぞ!」
「あぁ、姉者もあまり無茶をせぬ様にな、稟姉者をよろしく頼む」
「はい、お二人も魏をよろしくお願いします」
「春蘭、北郷の件、くれぐれも忘れるんじゃないわよ?」
「あいつの首を刎ねれば良いのだろう?そんな大事な事忘れるものか」
「…姉者、『華琳様にもしもの事があったら』、だ、有無を言わさずに刎ねたりはしないでくれよ?」
「う、うむ、分かった…えぇと…『華琳様に…何かあったら』…と、これで良いか?」
腕の『北郷の首を刎ねる』と書いてある部分のちょうど上の辺りに書き足す
「………」
「………」
「………」
…何故か周りの空気が一瞬固まった
「…秋蘭、私今までここまで馬鹿だとは思ってなかったわ…」
「な、なんだとぉっ!!」
「…すまん」
「秋蘭!何故そこで謝るのだ!」
「…稟、姉者の事くれぐれもよろしく頼んだぞ」
「…正直不安で仕方ありませんが可能な限り善処はします…」
「三人揃って何なのだぁ!!私を除け者にするなぁ!!」
「あんたまだ分かってないの?」
「何がだっ!!」
「…姉者、蜀に着くまでその腕の『めも』を消さぬつもりか?」
「うっ…」
「あんたの事だから忘れて消すのが関の山よ」
「ば、馬鹿にするなっ!!それくらい覚えるなど楽勝に決まっている!!」
「はっ、どうだか…、ま、精々覚えてれば良いわ、稟、北郷の前で春蘭が何をしても止めちゃだめよ?」
「え?それでは一刀殿の首が危ないのでは…?」
「良いわよ別に、あいつが死んでも怒られるのは春蘭だもの」
「くっ…見てろよ桂花!必ず北郷の頚を持ち帰ってやるからな!!」
「……………稟、『くれぐれも』、姉者をよろしくな…」
「……既に一刀殿を殺す気ですよ」
………
……
…
稟SIDE
「『華琳様に何かあったら北郷の頚を刎ねる』…ほれ見たことか!桂花め!私はちゃんと覚えているぞ!私を馬鹿にした酬いはお前が受ける事になりそうだな」
「酬いって…春蘭様、桂花様と何かお約束でもしたのですか?」
「む?…そういえば何もしてないな…」
…完璧にはまった様だ、春蘭様は完全にやる気だが桂花様は黙って結果を待てば良い、成功しようが失敗しようが桂花様自身には何も痛手はない、むしろ一刀殿が嫌いな桂花様の事だ、万が一にも一刀殿の頚が刎ねられればそれこそ苦労もせずに目標を達成する事になる
勝利は存在しても敗北はなく
誘導はしても手は下さない
それは軍師の憧れる最高の誉れ、『敗北のない戦い』を完成させたのだ
流石は王佐の才と呼ばれる人物、その才の使い道は多少間違った方に進んではいるが一度戦となればその能力は計り知れない
「…春蘭様を使い熟す、か…」
「ん?どうかしたか?稟」
「いえ、何でもありません、お気になさらず」
「…?」
…北郷一刀の危機は刻一刻と迫っていた
………
……
…
一刀SIDE
そんな話があったのかなかったのか、時は流れて現在に至る、と
「…華琳、ちょっと無茶じゃないか?」
王様がいなくなったってめちゃくちゃやばいだろ
「あら?管輅の占いを信じて魏を飛び出した貴方には言われたくないわね」
「そりゃ俺はこの國を救う為に帰ってきた訳だしさ…俺なんかの為に王が動くなんて…」
「一刀、貴方は勘違いしてるは王だからいかないのではない、王だからこそ私はここにいる」
「王、だからこそ?」
「一刀、確かに私は魏の王よ、おいそれと国を離れて良い身分ではないわ、しかしだからといって蜀の友が困窮する今、ただ後ろから指揮を取るだけで自身は動かず、事が終わるまで待つ、というのは本当の王の正しい事かしら?」
「…それは…」
「貴方が成すべき事が在って蜀にいるように、私にもすべき事がある、ただ貴方を追い掛けて来るほど私暇じゃないの、分かるわよね、一刀?」
「…もちろんさ、俺の王様はちょっと独り善がりな所はあるけどどんな時でも大局を見誤ったりはしない、俺一人の為なんか動く様な王じゃない、それが少し寂しいけどね」
「もちろん自分の部下が蜀でキチンとやれてるかの視察も兼ねてるわよ?」
「げぇ…それ最悪…」
正直絶賛ニート祭開催中だ、後で孔明ちゃん辺りに相談しておかないと華琳にキレられるのが目に映る…
「…ま、そこらへんはおいおいね、って…もういないし…」
「久しぶりね桃香、ウチの一刀が世話になってるわ」
…華琳、君は俺の母親か?
「そ、そんな事ありませんよ!私達こそお世話になりっぱなしで…昨日も遅くまで私と雛里ちゃんのお勉強を手伝ってくれたりしたんですよ」
「…勉強…?」
チャキ…
「華琳、違う!誤解だ!俺にやましい部分はない!信じて!お願いします!」
今聞こえた絶を構える音は下手な事を言えば死亡確定、もうひたすら必死に弁解の単語を口にしている華琳にはとことん弱い俺
「本当にやましい気持ちは無かったのね?」
華琳と視線が絡み合う
…
…
「………すいません」
嘘なんかつけません
「多少は有ったようね」
「そりゃあ…」
…あの胸ですし…
「…はぁ、素直に白状したことだけは褒めるべきなのでしょうね、…貴方の性欲に限りがあるとは思ってないわ」
「…すいません」
…でも桃香達の前ではやめて欲しい
「ま、良いわ、…桃香、中に案内なさい、現状等の話が聞きたいわ」
「あ、はい、なら中央の天幕にどうぞ」
「あぁ、それなら華琳、悪いけど俺少し自分の天幕で用があるから少し失礼させてもらうよ」
「あらそう?なら用が済んだら中央の天幕に、そこで待ってるわ」
「了解」
………
……
…
「遅いっ!!」
「…戻って第一声がそれかよ…」
「…え、詠ちゃん…」
「すぐ戻るから天幕で待ってろって言ったのはあんたでしょう!いったいどれだけ待たせるのよ!!」
確かに外に目を向ければ太陽の位置は大分変わっている
「悪かったよ、ちょっと華琳が来てさ…」
「華琳さん、ですか?」
「なんで魏の王様まで出てくるのよ!」
流石にこれには二人共驚いた様だ、突然他の国の王が来たのだから無理もない
「ま、華琳にも思う所があるんだろ、それより、二人を呼んだ理由なんだけどさ…」
「はい、なんでしょう?」
「さっさとしなさいよ、僕達、これでも結構忙しいんだから」
「んじゃ早速…詠、これ読んでみて」
「紙なんて珍しいわね、何か大事な事でも書いてるの?」
中身に視線を送る詠の表情が次第に強張っていく
「…何よこれ」
「どうやら旧蜀軍のお偉いさんが俺となにかしら交渉したいらしい、日にちの指定はあるけど時間帯とか場所の指定がないんだ、詠はこういう場合どうすれば良いか分かるか?」
「…なんで僕に聞くのよ」
詠は明らかに俺が何を言いたいのか察しているみたいだ、月は不安そうに詠に視線を送っている
「ごめん、二人とも、俺さ、二人の名前、たまたま知っちゃったんだよ」
びくりと二人の体が震えた
「…僕達をどうする気?」
「どうするってどういう意味だよ?」
「…お願い、月に手を出さないって言うなら僕が■奴隷でもなんでもやるから…だから月にだけは手を出さないって約束して…」
「…一刀さん、詠ちゃんは何も悪くないんです…ですからするなら私を…」
「だめっ!月!貴女じゃこいつにどんな目に遭わされるか…」
…俺二人からそういう目で見られてたのか…結構ショックかも知れない
「あ〜…えと、二人とも落ち着いてくれ、俺は別に二人を脅そうと思ってこんな話した訳じゃないから」
「嘘よ!どうせ僕達を■■■して■■■■したうえ■■■■として■■するつもりだったくせに!!」
「俺はいったい何だと思われてんだよっ!?」
「魏の種馬」
「ぐはっ!!」
ひ、否定できねぇ…
「…は、はぅ〜…詠ちゃん…」
月は真っ赤になりながら困ったように詠を呼ぶ
「大丈夫、月の事は僕が護るわ!さ、するなら好きにすれば良い!僕の月はあんたなんかに指一本触れさせないわ!」
「どんだけ俺を悪人に仕立てたいんだよっ!!」
そろそろ泣くぞ!?
「…詠ちゃん…一刀さんの事、信じてあげよう?」
「月…分かったわよ…で、結局あんたは何が目的なの?」
「…って俺に裏があるのが前提かよ…」
イマイチ信用されてねぇな、俺…ま、仕方ない
「用件は今見てもらった手紙だよ、日付けだけで時間、場所の指定がないから相談したんだよ」
「相談って…そうならなんでこんな回りくどい事したのよ?」
「いや…なんつ〜か…俺、二人にとっちゃあまり聞いて欲しくない話を知っちゃった訳だろ?」
「『あまり』、じゃなく、『絶対』、よ!こっちは下手すれば打ち首なのよ!?」
「す、すまん…」
「詠ちゃん…少し落ち着いて…」
「わ、分かってるわよ…で、早く続けなさいよ一刀」
「話の腰折ったのは誰だよ…」
「なんか言った!?」
「いいえ、なんにも、…話を続けるけど、知ってしまった事は伝えないといけない、二人もこの話を公の場で知られるのは困る、だから二人と俺しかいない場で話しておきたかったんだ、もちろん他の人間に知られない様にね」
「知られない様にって…馬鹿!入口の兵士…!!」
「あぁ、それなら心配ないよ、二人とも、入っておいで」
「し、失礼します!」
「邪魔すんで〜♪」
「霞!!」
「霞さん…そちらの方は…?」
「霞、涼華、見張りご苦労様、異常ない?」
「全っ然、華琳来とるせい何かみんな中央の天幕にいってしもとる、完全にフラれとるなぁ、一刀♪」
「こっちの天幕に近付く人間がいないならむしろ好都合だよ」
「一刀も悪やねぇ…」
「いやいや、お代官様こそ…」
「って誰がお代官様やねんっ!!」
「………」
「…バッカじゃない?」
「あ、兄上ぇ…」
見事なノリツッコミに周りがドン引きである
「…霞、巻き込んでごめん…」
「…ええねん…芸人にはやらんといけん時があんねん!!」
「あんた芸人じゃないでしょ…」
「…うぅ〜、一刀ぉ〜、詠のツッコミ愛がない〜」
「仕方ないよ芸人の道は芸人しかわからないんだからさ」
「…兄上、話が進みませんから少し自重して下さい」
「………すいません」
「で、その娘は?確か魏の武将だったのは覚えてるけど、僕達の話を聞かせて問題ない相手なの?」
詠の瞳に剣呑な光が宿る
「…落ち着いてくれ詠、涼華も君等にゆかりのある娘だよ、涼華、二人に自己紹介をしてくれ」
「あ、はい、…お久しぶりです董将軍、賈文和様、徐公明と申します」
「徐公明…ってもしかして徐栄の…」
「はい、兄が生前大変お世話になりました…」
「徐栄さんの…一度洛陽のお城にも来てくれましたよね…?」
「覚えていて下さったのですか?…はい、兄上が重歩兵隊の将に任命された際に一度だけお城まで…その時に兄上は言ってました『あの方が俺が生涯を賭けて仕えると決めた方だ、きっと前世でも俺はあの方に仕えていただろうし来世でもあの方に仕える事を望むほど素晴らしい方だ』、と」
「……へぅぅ……」
恥ずかしそうに身をよじる月
「へぇ、あの堅物がそんな事をねぇ…ちょっと以外だわ」
「彼女とは二人が蜀に移ってから何度か会ってるだろ?それなのに俺が問い詰めるまでは一切知らぬ存ぜぬを貫いてたんだ、二人の身分の件で彼女ほど信頼をおける人物はそうそういないよ、もちろん霞もね」
「ま、そういう事や、ウチらの事は信用してくれてえぇで、詠」
「董将軍、賈文和様、ご安心下さい」
「…分かった、疑ったりして悪かったわね、一刀」
「ごめんなさい、一刀さん…」
「いいよ、その件は、それより詠、…」
「分かってる、手紙でしょ、それは心配しなくて良いわ」
「どういう意味だ?」
「多分今日明日中にあんた宛てにもう一通手紙が届くはずよ」
「もう一通?わざわざ手紙をばらして出して寄越したって事か?」
「この手紙、昨日の夜中に直接届けられたでしょ?」
「なっ!?なんでそれ…」
「昨日あれだけの騒ぎになってて何もしなかったのがおかしいのよ、流石に何をやったのかまでは分からなかったけど、あんたがこんな手紙を持ってる時点で予想はついたわ」
…そこまで読まれたとは、恐るべし賈文和…
「多分もう一通には時間と場所の指定があるはず、日付を一枚目に書いたのは二枚を照らし合わせないと意味を成さないようにしたようね」
「へぇ、そこまで分かるもんなのか」
「分かるも何も分からなきゃいけないのよ!…あんたって時々ものすごい切れるのに普段は本当に抜けてるわね…」
「…すいません」
「ま、良いわ、…で、後手紙から分かる事は…相手がかなり狡猾な事ぐらいかしら」
「狡猾?」
「この五日後ってのが曲者ね、日付を早くに指定して相手の予定の都合が付くように気をつかったのかも知れないけど、多分本当の目的はその五日の間にこちらが軍を動かす用意をするかどうかでしょうね」
「軍を動かす様なら交渉決裂って訳だ」
「えぇ、だから交渉の場には最低限の人間だけ連れていく事ね、多くてもあんたを含めて4人、軍師は最低1人か2人要るから武に長けた人間をもう1人か2人…」
「なぁ詠…」
「何よ?」
「お前、俺のになってくれない?」
周りの空気が固まった…
「な、なな、なっ、何なのよっ!!突然っ!!」
「へ、へぅぅ…か、一刀さん…やっぱり詠ちゃんの事…」
「あぁ、詠、俺は君が欲しい、君が俺の隣にいてくれたら俺はもっとやれると思う」
「も、もっとやれるって………(脳内文字変換中)……!…こ、このドスケベ男ぉっ!!」
「へっ!?…へぶっ!!」
拳が風を切る音と共に、…一刀の視界ブラックアウト
「…」
「……」
「………」
「…………華琳さん、この冒頭見覚えが…」
「……………来たわ」
「えっ?」
「…私の時代…来たわ」
「あ、あぁ、今回からストーリーに完全に入ってくるらしいね」
「ふ、ふふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」
「あ、あの華琳さん…?」
「ようやく私の時代が…否!!時代がようやく曹孟徳に追い付いたっ!!」
「えっ!?えっ!?」
「これから始まる私の時代…ずっと私のターンッ!!それじゃ、ふぁんのみんな!!待たせたわね!次回!
『新・恋姫†無双〜曹操様の日常をもう一度〜第一話 曹孟徳、他の女主役共を邪魔とし、蜀と呉へ攻め込むの事!』楽しみにしてることねっ!!」
「華琳っ!!落ち着けっ!!ただでさえこの後書きで君は自由過ぎると心配の声がちらほら聞こえる位になっちゃってるんだぞっ!?これ以上壊れたらその内別キャラになっちゃうかも知れんよ!?」
「キャラ崩壊がなんだと言うのっ!!私は私の覇道を歩む!!何人たりともそれを止めさせはしないわっ!!」
「その覇道の根!本!が!間違ってるっつうの!!」
「…覇道とは理解されぬ哀しき道…一刀、覚えておきなさい…」
「そんな達観した台詞吐かれたって納得、出来るかぁっ!!」
「もぅ、一刀、少しは私の気持ちを察しなさいよ…」
「か、華琳?」
「…私だって…もっと…貴方と…ね?」
「か、華琳!」
「と、一刀を誘惑してる場合じゃないわ、やっと私に時代が追い付いたんだもの、もっと楽しまないとねっ♪」
「………ぅぅ」
「さてと、泣いてる一刀は放っておいて…来なさい!園丁†無双!!」
……
……
……
「えと、華琳?」
「シッ!静かに」
「「…ィャ!…」」
「ん?」
「「セイヤッ!セイヤッ!セイヤッ!セイヤッ!セイヤッ!」」
「おおおおおおっ!?」
な、何っ!?何この筋骨隆々なお兄さん方っ!?
「魏軍親衛隊の更にエリートをよりすぐった園丁†無双のみんなよ!!」
「「セイヤッ!!」」
「…そういや本編にもいたね…」
具体的には季衣流琉伝の六回目…
「園丁†無双の皆!ついに私に時代が追い付いた!!」
「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
「これより始まる我が時代!高らかに叫ぶのだっ!!…ジーク!曹操!!」
「「ジーク!曹操!!ジーク!曹操!!ジーク!曹操!!ジーク!曹操!!」」
「うわぁ…やっちゃったよこの人…」
「みんな、お疲れ様、もう帰って良いわ」
「「セイヤッ!!」」
「…華琳、今回は随分無茶苦茶やったね…」
「私のターンは始まったばかり、これからもっと…」
「残念だけどそうはいかない」
「な、なんでよ!」
「あまりにも君が自由奔放過ぎて短い本編一個分終わっちゃったよ、…今回は必殺技紹介コーナーも無しだってさ」
「な、何よそれ!?どういう事よ!?作者!!」
「今回の後書き†無双(ようやくサブタイトル決まったみたいだけど)はゲストさんを交えての必殺技紹介の予定だったらしいんだけど大暴れしすぎで後書きすごい事になってるらしいからね」
「え?ちょ、ちょっとぉ〜…!!」
「それでは次回はゲストキャラを交えての後書き†無双よろしくお願いします、それではまた」
「み、認めない!!私が認めない限り後書きは終わらな…え?ちょ…ちょっとぉ〜!!」
後書き†無双 終幕