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55話 強襲、後の交渉

 


『忠臣は二君に仕える』


これが私の生き方


己の生き方を変えてくれた男への誓い


己を愛してくれた男への約束


たった一言、その一言だけが私の生涯に意味をもたらした


だからこそ私はこの言葉に掛け、劉備を討たねばならない


それを悪と言われ様が私は構わない、あの二人の為ならば喜んで悪となろう


共に歩んだ者達の屍を踏み越え、また歩みを進める様な茨の道


…二人が望んだ未来がその先にあるのだ


………


……



「失礼します」


少し考え事をしていたせいか入ってきた青年に些か驚いた


「…どうした、凰騎」


「先程の件で報告が、…王塁ですが現在劉備軍の天幕を探らせております」 

「で、何をさせるんだ?劉備の頚でも持って帰らせる気か?」


「いえ、奴の頚は我等が皆で取らねば意味を為さぬものです」


「…普段は効率優先のお主が劉備に関する事だけは私の意志を汲んでくれて、感謝している」


「私は劉璋様や張任様、そして父上から受けた厚恩に報いる為にやっているのです、こちらが感謝する事はあっても張任様に感謝される様な事はありません」


「相変わらず固い男だ、…で?結局王塁が劉備軍の陣幕へ行った理由は?」


「は、実は…」


呉蘭が事の顛末を話すにつれ眉を顰め始める張任


「…ふん、あやつの入れ知恵か…確かにあやつは自分で北郷とは少なからず因縁があるとか申しておったが…」 

「奴の言を信じるならば、間違いなくこちらの言う通りにすると申しておりましたが、何処まで信用できるか…」


「そういった事に対してあやつは嘘は吐かん、それが上手くいけば劉備を孤立無援にできるかも知れんな」

「呉を抑えずともよろしいのでしょうか?呉王孫策は友の為ならば鬼人の如く剣を振るうという噂、万が一戦に介入されれば…」


「大事ない、あやつが既に手を打っている」


「…全てあの男の掌の上、という訳ですか…」


「案ずるな、あやつとは利害が一致している間のみの関係、向こうもこちらが邪魔さえしなければ関係は変わらないと公言している、いざ邪魔立てするようなら死んでもらうだけさ…王塁の方は凰騎、お主に一任するとしよう、交渉内容もお主の自由とする、が、お互いの妥協点での交渉、期待しておるぞ?」


「はっ!」


………


……



「うへぇ…流石に警戒してやがるなぁ…」


まぁ、負け戦の後に警戒してないとしたら間違いなく馬鹿だ


「さてと、お前ら、手筈通り頼むぜ」


茂みに伏せ頷く部下達にに後を任せ、天幕の周囲を囲う壁に身を寄せる


衛兵は3人…異常が有った場合の確認、その確認者の補助または援護、そして伝令役、まぁごくありふれた体制ではある


…ガサガサと茂みが音を立てた


「…何だ?」


「気を付けろ、敵かも知れないぞ」


 

…大正解、だがそう思ってすぐさま伝令を走らせなかったのは大失敗…ってな


近付いた衛兵の援護の為に二人目も少し入口から離れている


三人目は詳しい状況説明の為か入口で留まったまま


音もなく壁伝いに近付き三人目の頚に手刀を叩き込む

倒れ込む男を無視して次の男へ


人が崩れ落ちるドサッという音に前の二人が反応し、振り返ろうとした二人目の脇腹に蹴りを入れる


残り一人は茂みから飛び出した部下の一人が地に沈めた


すぐに周りの部下達が手早く二人を簀巻きにして壁際に転がしておくと残り一人の服を剥ぎ取る


「うし、馬の準備は良いな?」


 

「はっ!王塁様の馬はあちらに隠してあります、それ以外の馬は既に」


「良〜し、いい子だ…危なくなったら適当に逃げろ、お前らに何か有ったら蘭副将にどやされちまう」


「はっ!王塁様もご無事で!!」


「へいよ…んじゃま、ぼちぼちやるかねぇ…」


………


……



一刀SIDE


「敵襲っ!!敵襲っ!!」


外に響き渡った声に跳ね起きた俺は慌てて鐵斎と新月を引っ掴み、預けられた天幕を飛び出した


折しも場内は混乱の真っ只中、松明を片手に兵士が右往左往し、指揮系統がどうなってるかすら把握できない様子


「くそっ!ひとまず中央の天幕に…」


 

そこではたと気付いた、兵が右往左往している中、悠然とこちらに向かって歩いてくる兵士がいる事に、そいつは周りの兵士達の焦りなどどこ吹く風とやり過ごし、周りを走り回る兵士達はそいつが見えていないかの様に走り去る、つまるところあいつは周りの人間に知覚されない程度に気配を絶っているのだ


…間違いなく俺が気付いているのは分かっているだろうが悠然と歩く姿はまるでそれが当然の様に、目の前まで歩を進めた


「…そのまま後ろの天幕に戻りな、あんたに話が有って来た」


「…冗談、このまま俺が大声上げりゃ周りの兵達が気付いてくれるんだぜ?」


 

「好きにすると良い、ただあんたの行動が魏延の命に関わるのだけは覚えとけよ?」


「…無事な保証は?」


「そればっかりは信じてもらうしかない、ただ交渉しに来た相手に交渉もせず帰すのは良くないんじゃないか?」


「…このまま下がれば良いんだな?」


「腰と背中の剣は奥に放り込みな、そのまま両手は入口の端を掴んだまま下がれ…」


ベッドに向け鐵斎と新月を放り、言う通り端を掴んだまま下がる


「良〜し、いい子だ、じゃ手を離して寝台まで引っ込みな、話はそっからだ」


「…………」


ベッドまで両手を頭の上に上げてゆっくりと後退する

「うし、そこで良い、腰を落ち着けて交渉といこうか、『天の御遣い』北郷一刀殿?」


「…この状況であんたとまともに交渉しろって言うのか?」


「いや、流石にこの状況じゃあんたも交渉、って訳にゃいかねぇだろ?」


「…あぁ、そりゃあんたにそんな不利な交渉させちゃ可哀相だ」


「…何?」


「動かないで下さい!」


ピタリと頚に後ろから刀が突き付けられた


「おいおい…まさかそんな優秀な細作がいるたぁ聞いてないぜ?あんた蜀や魏の細作じゃねぇな?」


「私は呉の人間です、騒ぎの折に怪しい動きの人間を見つけたので、…ついて来て正解でした」


「正直やばかった…助かったよ、周泰ちゃん」


「お役に立てて良かったです」


 

「呉の細作頭たぁ俺もついてねぇな、ま、良いさ、…御遣い殿、後ろの剣を引いちゃもらえねぇか?魏延の命に関わるぜ?」


「…周泰ちゃん、刀を納めてくれ」


「…はい」


チャッ、と小さな音を立て鞘に納まった刀を確認しこちらを向き直る男


「…さてと、んじゃ改めて、…俺は『偽善斬党』の細作頭、王塁ってもんだ、今日は俺の上司からあんた宛てに手紙を預かって来た」

「どういう事だよ?お前は俺を殺しに来たんじゃ無いの?」


「誰も武器を捨てさせたからって殺すつもりとはかぎらねぇだろうが、俺は一対一で話ができる状況にしたかったからわざわざ天幕まで引っ込んでもらったんだ、それ以上に危害なんざ加えるつもりねぇよ」


「そ、そうなのか」


「本来ならあんたともやり合う気はなかったんだがどうやら思い違いしてたらしくてな、魏で幾つも法や制度を組み上げた男だってっからてっきり文官や能吏かと思って来てみりゃ武官みてぇな格好の男が出てくるじゃねぇか、で、そのまま天幕離れてもらっちゃ困っから脅しを掛けた、て、話さ」


さもめんどくさそうに語る男


「…状況は理解した、でも何で使者ならそう言って正面から来なかったんだ?」

「おかげで蜀の皆さんは困ってます!」


「そりゃワリィとは思うが仕方ねぇさ、表から使者として来たりしたら劉備軍の奴らにも話通さなきゃいけなくなる」


「…何だって?」


「つまり俺達は『あんた個人』と取引してぇのさ」


「…取引ったって俺、あんたと取引できるようなもん持ってないよ?」


「ま、そこら辺は俺には分からねぇから詳しい話はそれの中身を読んでもらえば分かるだろ、んじゃ、俺は失礼させてもらうぜ」


「ちょっ!まっ!?」


すたすたと出ていく途中


「あぁ、そうだ」


と突然振り返り


「俺は劉備側の人間は嫌いだがあんたとなら上手くやれそうだ、あんた、こっち側に付く気は無いか?」


「悪いがそれはできない相談だ、俺は曹操一筋でね」

「…ま、だろうな、その位で寝返るようなら意味ねぇし、忘れてくれ」


 

何事も無かったかの様にまた歩き出す男


「俺、あんたとはまともにやり合いたくないな」


「俺も同感だ、正面切ってやり合ったら間違いなく勝てないからな」


天幕の入口が閉じた


「北郷さん、あのまま帰して良かったんですか?」


「あぁ、あの男、正面切ってやったら勝てないなんて言ってたけど『正面以外の方法なら勝てる』って言ってた感じがしたからね、下手に手出ししない方が良かったと思うんだ」


周泰ちゃんが不思議そうな顔をしているがどちらにせよ魏延さんの命が掛かってる、迂闊な真似はできない

「失礼します!一刀殿!ご無事で……み、明命っ!?お、お主一刀殿の天幕で何をしている!」


 

「あぁ、愛紗、俺は無事だよ、周泰ちゃんは俺を心配して今さっき来てくれたんだ」


周泰ちゃんが狼狽しているがそこは話を合わせてもらうしかない


「そ、そうですか…良かった…と、それどころではありませんでした、今の襲撃で糧食の一部が焼け、陣内が混乱しています、部隊の一部を取り纏めて頂きたいのです」


「ん、了解、魏の部隊で良いんだね?」


「あ〜、いや、その…取り纏めて頂きたいのは魏ではなくですね…」


「ん?魏の部隊じゃ無いの?」


「それが…実は…纏めて頂きたいのは蜀の部隊でして…」


「あぁ、なるほど、魏延さんの部隊だね?」


 

部隊長がいないのだ、混乱しても仕方ないか


「いえ、焔耶…魏延の部隊は既に代わりの者がやっておりますので…指揮を執って欲しいのは桔梗…厳顔の部隊なのです」


「桔梗さんの?」


「それが桔梗のやつ、何か思う所があるとかで一人出ていってしまったらしいのです」


「行き先に心当たりは?」

「いえ…今翠と鈴々が部隊を率いて捜索に出ていますがなにぶんこの暗闇で…」

「…とりあえず今は先に桔梗さんの部隊だけでも待機できる状態にして捜索人員を…」


「愛紗、一刀殿、こちらか?」


「星、何用だ?桔梗の部隊ならば今一刀殿が…」


「いや、その必要は無い」

「何?」


 

「今桔梗が戻って来た、話があるらしいのでな、呼びに来たのだ」


「くっ、桔梗のやつ、こちらがどれだけ心配したと思っておるのだ!」


「そう言ってやるな、桔梗は怪我をおして襲撃者達を追い払っていたのだ、我等が咎めるのは間違いだろうよ」


「し、しかし…」


「まぁまぁ、話はそれ位にして早く行った方が良くないか、みんな待たせちゃ悪いしさ」


「そうですな、あまり長居していると愛紗の愚痴まで聞かねばならなくなりそうです」


「星っ!!」


「ふふん、愛紗、そのように声を荒げては嫌われるぞ?」


「んぐっ…星、貴様私をおちょくって愉しんでおるな?」


 

「当然だ、ここまで初々しく隙だらけなお主は滅多に見られんからな、この機会に遊んでおかないと後々後悔しそうだ」


「ぐっ…おのれ、いい加減に…」


「はーい!一旦中止!さっさとみんなの所行くよ!」

「す、すみません…」


「申し訳ない一刀殿、今参ります」


「何の喧嘩してるか知らないけど二人とも仲良く、な?」


「「………」」


二人の視線が嫌に冷たい


「え、なに?俺何か間違った?」


「…一刀殿、流石に鈍感過ぎです」


ジト目でこちらを見ている愛紗


「これでは魏の連中も苦労したでしょうな…」


星は露骨にため息をついた

「え、え?俺何か悪い事した!?」


「…行こう星」


「そうだな」 

すたすたと先に行く二人に取り残された一刀は…


「…何でさ?」


結局分かっていなかった

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