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49話 悪しき者、張任

長々とお待たせ致しました、ここ二週間程更新を遅らせ普段より長い話になりました(出来に今一満足できませんでしたが…)


宜しければご覧下さい

ホウ統SIDE


目に涙を溜め必死に馬を駆るホウ統


後ろから悲鳴や断末魔が聞こえる…しかし振り返る訳にはいかない、彼らは自分の為に命を懸けてくれたのだ、振り返ってる暇など…


…ヒュッ!!


「ひぅっ…!!」


鋭い風切り音が脇を疾駆った


「ホウ統様!!止まって下さいっ!!止まらねば次は当てます!!」


冷包の声、彼女の弓の腕ならば当てるのなど造作もないだろう


でも止まる訳にはいかない、足を止めれば自分の為に散った兵に申し訳が立たない


「くっ…!?…そうですか…それが…貴女の答え…ならば…申し訳ありません!!」


「あうっ!?」 


左肩を焼く様な痛みが走り、一瞬身体が揺らぐ


(…持ち直した…なら…)

シュッ!!


矢は狙い違わず馬の左後ろ足へと命中した


馬は痛みの為に嘶きながら体制崩し、自然に背にいたホウ統は転がるように地面に身体を打ち付けた


「あぅっ!!…ひっ…は」


痛みで呼吸できない、漏れた息はまるで呼吸としての効果を成さず、肺からは酸素が逃げ続けるのみだ


「…申し訳ありません、しかし貴女を劉備の下に帰す訳にはいかないのです」


馬から降り目の前で自分を見下ろす冷包を睨みつける様に見上げるホウ統


「…私は貴女のおかげで蜀でもやっていけた、敗将でしかない私を貴女は見出だし、士官の道をくれたのですから…ですから…貴女を私は殺したくない…ですから…私に降って下さい」


「い、いや…です…」


「劉備との戦には出なくても構いません、蜀との戦の後は何処なりと行って頂いても結構です、…ですから一時的でも…」


「…いやです…」


「…どうしても…ですか…?」


「…私の為に命を懸けて下さった人達を裏切るなんてできません…お断りしますっ!!」


瞳に絶対の意志が宿った…この少女の説得はもう不可能だろう…


「…降って下さらなければ張任様の下には連れて参れません……この場で死んで下さい…」


 


ホウ統と冷包の距離は1mもない、この距離ならば外す方が難しい


ギリギリと引き絞られる弓の音


周りの音が小さく聞こえる


「………ろぉっ!!」


誰かの怒声、何処から聞こえるのか、まるで現実感がない


「チッ…邪魔するなっ!!」


だが目の前の声には反応できた、誰かそばまで来たらしい


その時のホウ統は自分が死ぬよりこっちに来た誰かが死ぬ方が怖かった


死を覚悟したおかげだろうか…


咄嗟に冷包に飛び付いた


「なっ!?」


倒れた拍子に番えていた弓が弾けた


「ホウ統ちゃん!!」


「あぅっ!?」


ホウ統の身体が浮いた


脇を黒い馬が駆けていく


「くっ!?この!!」


 


…倒れた姿勢から放った弓はホウ統の帽子を落としただけに留まった


「………」


あの黒い馬とその操り手には見覚えがない、という事は…


「あれが…北郷…」


冷包はしばらくその場を動く事ができなかった…


………


……



はぁ


はぁ


はぁ!


はぁ!


…こんなに走ったのはいつ以来か


馬に乗らずに駆け回るなど、偉くなってからはするもんではないとやめていたのがやはり偉くなっても最後に頼れるのは自分の身体だ、馬なぞなくとも逃げられたのだから


「悪く思うなよ、俺もあんな化け物共が相手なんて聞いてねぇんだからよ…」


 


さっさとあの男の所へいかねばなるまい


部下がほぼ壊滅した今、金くらい手に入れなければ話にならない


もちろん約束では『誰か一人でも殺す』事だが関係ない


この地図の×印の場所で金と共に待っているのだ


…殺して奪えば良い、山賊を上手く使えるなどと思ったら大間違いだ


ガサガサと木々を分け入り目標の場所の手前で息を潜める


…いた


思わず笑みが零れる、無防備に金の入った箱に腰掛けこちらに背を向ける姿はまさに金を持って行けと言わんばかりだ


一歩


また一歩


「一人でも殺せたのか?部下からはそれといった報告はなかったが?」


振り向きもせずに問い掛ける男


「くそっ!!死ねぇ!!」


 


ガッ!!


振り下ろした刃が箱に突き刺さった


「…なるほど、確かに俺を殺して奪った方が効率が良い、賢い判断だ」


「うるせぇ!!とっとと死ねっ!!」


横薙ぎに首の辺りを払う


後ろに下がりその一撃をかわす男


「武人としての腕前はまあまあといった所か、下手な色気さえ出さなければ死ぬ事などなかったろうに…」


こちらを憐れむような目で見ている男


(こ、こいつ…いったい何なんだ!?なんで丸腰のくせにこんなに落ち着いてやがる!?)


自分の剣をまるで恐れていない男の様子に逆に剣を突き付けられているような気さえしてくる


「ぐっ…このっ!!」


 


左肩口を狙い袈裟懸けに斬り付ける



だがそれもわかっていたかの様に右にかわす男


「なかなかに良い振りだ、しかし俺はこちらだぞ?」


「う、うぅ…くそっ!!くそっ!!くそっ!!くそっ!!くそぉっ!!」


優位に立っているのは自分なのに何故ここまで追い詰められているのか…


「このっ!!白繞様を舐めんなっ!!」


逃げられない様に剣の間合いの更に一歩内側へと男を上手く引きずり込んだ、これで詰み、この男にはもうかわす手段などない


「死ねぇぇぇぇぇ!!」


 


脳天目掛け振り下ろした凶刃、頭蓋を断ち割るには充分過ぎる一撃が狙い通りに振り下ろされた


振り下ろした白繞の顔には金が手に入る事への満面の笑みが


そしてその刃を受けるであろう男には人生を諦めた者特有の諦観の色が…


『浮かんでいない』


自分の剣に絶対の自信のあった白繞にこの男の目に宿る光は単なる虚仮威しとしか思えなかった


『取った!!』…白繞がそう確信した瞬間、男の姿が小さくなった


いや、男が一歩踏み出したせいで体勢が低くなったのだ、剣を振り下ろすより速い踏み込みなど聞いた事もない


だが姿勢が低くなったからといって凶刃は止まらない、このまま下ろせば死ぬのは変わらないのだ


男をそのまま凶刃は真っ二つに…


真っ二つ…


「剣も持たずに俺を斬るつもりか?あぁ、その手では武器は持てないか」


両手で握っていた剣はいつの間にか失せ、代わりに男の拳が自分の頭上へと突き出されている


…自分の両手をまじまじと見つめる、左手は特に変わった様子はないが…


右手の指が関節とは逆に折れ曲がっている


それを視認した瞬間、指を激痛が襲った


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


痛みで地面を転がる白繞を黙って見下ろす男の顔に笑みが浮かぶ、それは慈愛と呼ぶに相応しい労りの笑みだ


「どうした?指を折れたのに気付かなかったか?…憐れな…」


憐れむ様な表情のまま髪を掴み、無理矢理立ち上がらせる


「う…うぅ…た、助け…」


「喚いている暇はないだろう?今からお前にはやる事があるのだから…なぁ黒山賊残党が頭首…白繞殿?」


「…な、何故…」


「元々お前の事を知った上で声を掛けたのだ、当然だろう?…そんなつまらない事は気にせず、早くお前はお前のやるべき事を済ませないとな」


「や…やるべき…こ、事……?」


もう白繞の顔は真っ青だ、痛みと目の前の男の持つ得も言われぬ雰囲気にのまれ、怯える様に体を震わせている


「貴様のすべき事、それは…後悔だ」


「こ、…こう…かい…?」


「自分のしてきた事への後悔…そして…」


 


「…罪を償わず俺の前に現れた事を、な」


男の口許に赤い月が浮かんだ


「…さぁ、…自分から殺してくれと頼むくらい…後悔させてやろう…!!」


「ひぃぃぃぃぃ!!…た、助け…ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


薄暗い森の中に白繞の絶叫が木霊した…


………


……



魏延SIDE


「…な…なに…?」


突然の事に一瞬思考が止まった


周りに居並ぶ自身の部下達、ほとんどが顔見知りだ


その仲間達が周囲の仲間を『斬り付けている』


「や、やめろっ!!」


側にいた切り掛かる寸前の男を鈍砕骨で弾き飛ばす


「ぐぎゃっ!!」 


吹き飛んだ男を見た一人が叫んだ


「魏、魏延様が裏切った!!魏延は敵だ!!」


「なっ!?違うっ!!私は裏切ってなど…!!」


味方の中に敵がいた状況で先程の声は致命的だ、次々と恐怖が伝播していく


実力がある人間だけに敵に回った時の恐怖は大きい、周りの兵は既に浮足立っている


「う、うわぁぁぁ!!」


味方なのか紛れ込んだ敵なのかわからないが悲鳴に近い声を上げながら突っ込んでくる


だがそれをまともに受けるわけにはいかない、上段からの一撃を左にかわしその刃を鈍砕骨で叩き折る


その行為は周りの不安を増長させた、 


先程魏延を敵と叫んだ男が煽っているのだ


(くそっ!!やはり敵兵に入り込まれたのか!!)


男を黙らせようにも男は人垣の中、下手に入れば後ろからグサリという事になりかねない


更にまずいのは自分が桔梗様と上手くいっていないのを兵達が知っている事だ、これでは周りからは桔梗様との仲違いの末裏切った様に見えるだろう


…間違いなくこちらの情報は相手に掴まれている


(くっ…早く桔梗様と…)


「魏延!!覚悟ぉ!!」


咄嗟に声の方に鈍砕骨を突き出す、ギッという鈍い音と共に現れたのは…


「お前!!呉懿っ!!」


「ひっさしぶりだね!!魏延ちゃん!!…悪いけど覚悟ぉ!!」


 


鈍砕骨とぶつかっていた刃が離れ、踏鞴たたらを踏んだ瞬間に打ち下ろすような一撃


「くっ!?」


それをどうにか踏み止まり、頭上に鈍砕骨を掲げて受け止める、あまりの威力に両脚が地面に沈み込んだ


はっきり言って分が悪い、情報は筒抜け、味方は敵と同義、そして最悪なのは自分の目の前のこの少女、呉懿…


手合わせは一、二度しかしたことはない、だがはっきりわかる事がある

…武力では自分程度では相手にならない、独りで相対するにはかなり厳しい相手だ


(早く桔梗様と合流しなければ…)


しかしそんな余裕はない、鈍砕骨の間合いを測りつつ、こちらに仕掛ける隙を呉懿は狙っているのだ


今下手に動けば確実にやられる…


「…前に比べて我慢強くなったね〜、魏延ちゃん、…昔だったら焦れて突撃してたんじゃない?」


「………」


油断なく一挙手一投足に目を光らせながら焔耶はジリジリと後退する隙を狙っている


「でも…その方が楽しい…よ!!」


一気に肉薄する呉懿を腰溜めに構えた鈍砕骨で迎え撃つ、もとより実力は向こうが上、戦うならば自分に有利な間合いを守らなければ勝ち目などない


「うりゃあ!!」


「ハァァァ!!」


高速の刃と金棒の剛撃が交錯した


………


……



桔梗SIDE


「…久しいな、こうしてお主相手に豪天砲を構えるのも…」 


「…私は幾度となくこの時を夢想したぞ、裏切り者たるお主に我が『落鳳刃』を見舞える、この瞬間をな」


くつくつと笑う鳳蓮


だらりと下げた両手には片刃の蛮刀が二振り、刃渡りは3尺に及び、引きずる様に地に刃先を付けている


これが奴の構え、名を『無形の型』というらしい、形の無い型とはなかなかに面白い冗談だが実力が実力なだけに笑えない


「…鳳蓮、今からでも良い、劉備殿に降れ、まだ間に合う」


「…戦の場に立ち合い、これ以上交わす言などない、交わすべきは『これ』のみではないか?のう、桔梗よ?」


 


キンッと刃をぶつける澄んだ音が響いた


言葉等必要無い、この場に必要なのは相手を斬り伏せる気概のみ


「…説得は無駄か…ならばその身に豪天の一撃を喰らうが良い!!」


「ハッ!!寝言は寝てから言え!!桔梗!!」


………


……



「あ、あの…」


「ん?何?」


「あ、貴方は…?」


「そういえば自己紹介してなかったね、俺は北郷一刀、前は天の御遣い、何て呼ばれてたんだけど、覚えてない?」


「ぎ、魏の御遣いさんですか!?あ、あわわ…」


何故か激しく動揺しているホウ統ちゃん


「え、あの、えと!?な、なんで魏の御遣いさんがわ、私を助けに…」


 


「話せば長くなる、でもこれだけは聞いてくれ、君らの策は張任に見抜かれてるんだ、既に表でも戦闘が始まってると思う、俺はそれを伝えに来たんだ」


流石にこれには驚いたようだ、当たり前だろう、作戦はばれないように慎重を期したはずだ


…でもこれは事実、彼女の行動は全てばれていて、あのまま行けば…


(でもホウ統ちゃんは無事だ、大丈夫…)


自分に言い聞かせるように何度も繰り返す、この娘が死ぬなんてあってはならない


「ホウ統ちゃん、正面で戦ってる軍を指揮してるのは誰?」


「え、焔耶さんと桔梗さんです!」


「…えと、多分真名だよね?」


 


「あわゎ!!ご、ごめんなさい!魏延さんと厳顔さんです!」


…魏延と厳顔、両名とも元劉璋の配下か…という事は少なくとも張任とは顔見知りな訳か


…嫌な予感がする


「ホウ統ちゃん、速度上げるからしっかり捕まって」


「は、はい!」


彼女が鬣を強めに握ったのを確認し、一刀は絶影の速度を上げた


………


……



「りぃやぁぁぁぁ!!」


「おぉぉぉぉぉ!!」


速度で勝る呉懿の一撃が先行する


が、そのまま魏延の身体に刃を当てれば重量だけで落ちてくる鈍砕骨に脳天を砕かれるのは必定、仕方なしに鈍砕骨が最大限加速する前に剣で切り払い、威力を減殺する


しかしそれを黙って見ている程魏延もお人好しではない、流された腕は無視し脇腹目掛け蹴りを放つ


だが体制が整わないままに放った蹴りをやすやすと喰らってくれる様な相手でもない


お互い繰り出せば出す程技を見切られる千日手の様相を呈していた


焔耶としては直ぐにでも逃げを打ちたい、しかし呉懿程の相手に背を向けるなど自殺行為も良い所だ


「ふっふっ〜ん♪魏延ちゃん強くなったね〜♪」


「…昔の私ではない、今は護るべき主君に仕えているのだからな」


「確かに劉璋様は仕えて楽しい人じゃなかったもんね〜、それじゃ今は楽しいんだろ〜ね♪」


「…あぁ」


 


「…でも、なんで僕と魏延ちゃんが戦わないといけないんだろうね…」


「…お互いに違う道を選んだ、お前は張任殿に仕える事を選んだし、私は劉備様を守ると決めた、…張任殿が劉備様のお命を狙うなら、私はお前を全力で…倒すっ!!」


鈍砕骨を突き付ける


「…私は鳳蓮様の命に従うだけだよ、例え相手が元の友達だろうと…ね」


二刀交差させ、右足を延ばしたまま左膝を落とす独特の構え、…本気だ


遠くで銅鑼の音が聞こえる、


…撤退の合図、桔梗様が送ってくれたのだろう


自分の隊があれ程混乱したのだ、戦など続行できる訳がない


「撤退の合図、だね…」


「どうせ逃げるならお前を倒してからだ、呉懿」


 


「…上っ等ぉ!!」


直線的な突進を鈍砕骨で薙ぎ払う様に留める


しかし向こうももちろん予想済み、大振りの一撃は大きく左にステップしてかわし間合いの内側に入り込む


魏延は遠心力の掛かった鈍砕骨で半ば無理矢理地面を抉り、反動で蹴りを放つ


蹴りの直撃を避け剣を振りかぶった呉懿に倒れ込む様に肩をぶつけると転がりながら魏延がマウントポジションを取る


呉懿も負けじと腕の力で押し返しながら手首の反しだけで首を狙うが如何せん筋力で勝る魏延がじりじりと両腕を押し返していく


(…流石にやばいかなぁ)


今更ながら後悔、 


奇襲の時点で仕留められなかったから薄々分かっていたが明らかに自分の動きは鈍っている、馬超吹き飛ばされた時に脇腹を痛めていたらしい、痛みがなかったから気が付かなかったようだ


(今更ながら凄い痛いし…もうもたない…かも…)


腕はガクガクと奮え脂汗が滲み出ている


(こりゃ〜負けかな〜…)


目を閉じ覚悟を決める…このまま自分の刃で自分の首を…


「ぐっ!?」


「ふぇ?」


突然魏延の全身から力が抜け自分の上に覆いかぶさってきた


「…無事のようだな、鳳濡、怪我はないか…」


「あ、兄ぃ!?」


佇む男は己が副官にして兄呉蘭、なのだが…


「な、なんで兄ぃが?さ、山賊はどなったのさ!?」 


呉蘭は山賊を焚き付け、後詰めの部隊を襲う手筈を整えていたはず、何故ここに…


「…周囲の山の山賊はほぼ全て再起不能、最大勢力を誇っていた黒山山賊残党も首領を失い瓦解した…もう俺がやることは…」


「兄ぃ!!」


半眼で睨む呉懿の怒声


ビクッ、っと呉蘭の身体が震えた


やばい、呉懿の声は本気だ


「…私と魏延ちゃんの一騎打ち!!な・ん・で!!邪魔したのぉっ!!」


耳を劈く大音量、先程の銅鑼のおかげで魏延以外の劉備の兵は退却している


…良かった、こんな姿見られれば士気に関わる…それだけは避けたい


「…いや、俺はただ鳳濡が苦戦しているようだから効率の良い方法を…」


 


「兄ぃはいっつもそれだ!!効率効率って今の状況分かってるの!?一対一だよ!?一対一!!これじゃ騙し討ちも良いとこだよっ!!」


「しかし一対一に拘り大局を見失っては…」


「兄ぃには武人としての誇りはないのっ!!」


あまりの剣幕に言葉に詰まる呉蘭


そして呉蘭にとっては致命的な一言


「兄ぃなんて…大っ嫌いっ!!」


気絶した魏延を引き摺りながら城門に下がっていく呉懿を真っ白くなりながら見送る呉蘭


「蘭副将、大丈夫ですかい?」


「………」


「こりゃ駄目だ…おい!!誰か呉蘭副将軍を運べ!!劉備軍の奴ら一度引いてっからこっちも体制立て直しとくぞ!!」


「「応っ!!」」


 


呉蘭を運んでいったのを確認して一人愚痴る


「…どうしてこう内の軍の偉い人間は変わり者が多いかねぇ…」


「そんな愚痴ってる場合すか?張任様と呉班様が帰ってませんぜ?」


「ま、良いだろ、どうせ御大は顔馴染みの厳顔様と遊んでんだろうし、んで大将軍殿は裏で冷包と合流してるはずだ、なんでもホウ統とか言う軍師を取っ捕まるつもりだったみてぇだが逃げられたらしい」


「相っ変わらず情報が早いっすね〜、兄貴は」


「情報ってのは果物と一緒だ、熟す前に取って腐る前に食う、これさえやれりゃ誰でも使いこなせる、テメェも覚えとけ」


「へ、へえ…」


 


「ま、んな話は良いんだよ、おい、それより御大の引き際に劉備軍の奴らに矢ぁ射かける準備くらいしとけや、やばそうなら大将軍殿にも連絡とれ」


「分かりやした」


下がっていく兵を見下ろしながら男はまた一言愚痴った


「偉い人間に変な奴が多いってこたぁ、俺もそう思われてんのかねぇ…」


…王累は少し嫌になった


………


……



桔梗SIDE


「ハッハァー!!どうした桔梗?貴様の後方から聞こえる銅鑼は撤退の合図では無いか!?貴様独りを残して奴ら逃げ散る気のようだぞ!!随分慕われておるでは無いかっ!!」


ガッ!!


重い二刀を受け止め鍔迫り合う


「クッ!?このっ!!」


 


「我が軍の掟を覚えておるか?『剣を捨てても友は見捨てず』…寂しいなぁ桔梗、劉備軍には友の一人もいないか」


桔梗を揶揄しながら楽しそうに剣を振るう鳳蓮に対し、精神的に追い詰められていく桔梗


周りの兵には手を出さずに引くように指示した、その者達が銅鑼を鳴らしたのだろうか


…いや、にしても早過ぎる、という事はやはり誰かが勝手に…


「ほら!!よそ見してると首が…飛ぶぞっ!!」


回転するように二連撃


一刀目を受けよろけそうになった所にすかさず二刀目が襲う


桔梗はその威力に抗う事が出来ず地面へと叩き付けられた


「…弱い…弱いぞ桔梗!!」


 


桔梗の髪を引っ掴み無理矢理首を上げさせる


「…う…うぅ…」


「…桔梗、良く聞けや…テメェいったい劉備の所で何やってやがった?あ?…こんな腑抜けやがって…次会う迄にその鈍った腕なんとかしてこい、…そのままのようなら…テメェ、殺すぜ?」


「…ちょ…張…任…」


「…寝てろ」


首筋を剣の柄で一撃し、昏倒させる


「…ちっ…腑抜けやがって…」


気絶した桔梗の服に劉備宛ての手紙を挟む


遠くから騎馬の音が聞こえてくる、劉備の迎えだろう、見つかる前に今回は引き下がっておく


「桔梗、次は楽しみにしてるぜ?」


…張任は笑いながら城へと戻っていった…

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