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45話 叛意胎動

 

???SIDE


「最終確認完了しました、我が軍の兵は全て北へと集めてあります」


長年付き従ってくれていた副官の言葉に頷く


「…一年もの間、こんな真似をさせてしまい、本当にすまない…」


「違います、自分は自分がしたいと思ったのでついてきたのです、将軍が謝るような事ではありません…この作戦が完了こそ我々の悲願、それまでは嫌でも貴女について行きます」


真っ直ぐ自分を見据える瞳に偽りはない、それが嬉しくあり、苦しくなった


「…そろそろ行こう、凰濡がもう傍まで来ているはずだ…」


「はっ!!」


二人は外へと向かうのだった


………


……



蜀SIDE


「雛里ちゃん、大丈夫かな…」


「一刀殿や星達が付いているのです、心配ありませんよ」


「でも!でもね、愛紗ちゃん!もしもみんなに何か有ったら…」


悲痛に歪む表情、自分の仕えし王は非情とは無縁だ、親を、兄弟を、友を失った者達の嘆きをその小さな背中に背負い込む


「桃香様…大丈夫です、我等の仲間を信じましょう」


「…うん…」


やはり不安は拭えないようだ


「…桃香様、あまり不安気な態度は取らないで下さい、皆が不安がります」


こういう場合苦言を呈するのは自分の役目だ


「王が友の危機を嘆くのは悪い事ではありません、しかし貴女がそのようではついていく民や我等が道を誤りましょう、桃香様、貴女は王なのです」

 


「…う、うん…」


やはりいまいち覇気がない


「…桃香さ…」


「伝令!!成都城下街で戦闘らしき金属音多数!!詳細は確認中ですが北門が解放された模様!!」


 「「「!!!」」」


「城下には一般人もいるのだぞ!!」


「…お城に…友達…いる…恋行く…」


「恋殿が行くなら音々も参りますぞ!」


「鈴々も行くのだ!」


「紫苑!蒲公英!我々は桃香様を城まで護衛しつつ城内へと向かうぞ!朱里!詠!なるべく安全な道順を進んでくれ!」


「中の様子もわからないのに無茶言わないでよ!!」


「詠ちゃん……」


 


「ぐ…あ〜!月!!泣きそうな顔しないでよ〜!!わかったわよ!!随時1番安全な道順は指示するから、露払いはしてもらうわよ!!」


「頼む!!…皆の者!我が民達の危機!!奮戦せよ!!」


「「「応!!」」」


………


……



「にゃにゃにゃにゃ〜!!」


蛇矛を正面に構え突撃する鈴々


「……邪魔………!」


その鈴々が突撃して空けた穴を横薙の戟が拡げて進む


「恋殿〜!!音々を置いて行かないで下され〜!!」


ついていく音々音は必死だ


音々音も馬には乗ってはいるが軍師と武将では腕に差が出るのは仕方ない


「オデコ遅いのだ!!」


「音々音をオデコと呼ぶなです!!」


 


肩で息をしつつも鈴々につっこむ音々音


「音々…大丈夫…?」


「なんのこれしき!!音々は恋殿の軍師ですぞ!!何処まででもお供してみせるです!!」


「…ん…もう少し…だから…がんばって…」


「恋のうちはあそこなのだ?」


「…うん…うち…友達…いる…」


目の前の人形を吹っ飛ばし家まで一直線に向かって行く恋


そのあとを鈴々と音々音もついていく


中では動物達が庭の隅に固まっていた


大きい動物が小さい弱い動物達を守るように前で威嚇している


恋が戻ってきたのに気付くと皆が近寄ってきた


「…みんな…!…大丈夫……?」


 


象や虎は脚や身体を怪我しているがみんないる、無事なようだ


「…よかった……音々…みんなで桃香のところ行く…道…おしえて…」


「わかったです!!」


「ならさっきのところに戻るのか?」


「この状況なら戻るより真っ直ぐ城を目指した方が桃香達とは合流しやすいのです、行くなら城を目指すです」


「わかったのだ!!」


「みんな…ついてきて…」


「張々!!皆を先導するです!!進軍!!」


鈴々を先頭に間に動物達と音々音、殿りは恋で進む動物達の一行は一路城を目指す…


???SIDE


「…鳳濡が来てくれて助かった…門解放時の音であそこまでの兵が集まるとは少し予想外だった…」 


「アハハ〜♪…あのいけ好かない男からの指示でなけりゃ褒められて悪い気はしないんだけどね…」


「…あの男から…?」


「ねぇ、麟濡、アイツっていったい何者?あたしらみたいに鳳蓮様に恩義があるわけでもなく何であんなに手助けしてるの?正直信用できないよ」


「この数週間、おかしな動きは?」


「全然、それがむしろ『自分は清廉潔白です』って言ってるみたいで気に入らなかった」


「…鳳濡」


麟濡が戒めるが当の鳳濡はどこ吹く風だ


「べっつに〜、ど〜せアイツあたしが嫌いなの気付いてるし、聞かれてても構わないよ」


「呉懿殿は相変わらずのようですね」 


今まで冷包の後ろに控えるように馬を走らせていた男が出てきた


「雷銅も元気そだね」


「張任殿の大願果たすまでは死ぬわけには参りません、それに冷包殿の護衛も終わってはいません」


相変わらずの生真面目な返事


1年待った…冷包が投降し、一旦散り散りにした直属の配下の兵達を少しずつ劉備軍へと組み込み、家族への手紙を装った暗号を配下達に数日おきに送らせ続けた…全てはただ一度の為


…冷包は自分の軍師としての能力など伏竜鳳雛の足元にも及ばないのを理解している、だから出来る限り自分には行き着けないように慎重に慎重を重ねようやく準備が整ったのだ


「失敗なんて許されない…張任様の為にも…」 


「んう?どしたの麟濡?」


「…何でもない、…そういえば鳳濡、何故あの人形達を全て置いて来たの?半分ほどは温存する予定だったと思うのだけど」


「その件は申し訳ないがこちらの独断だ、実は一つ問題が…」


割って入ってきたのは呉懿の副官呉蘭、昔から難しい話は彼に丸投げしていたが自分のいない間には改善されはしなかったようだ


「…続けて」


「魏から将軍らしき人間が蜀に来ているようだ、赤筒をあげられてしまった…」


「何か北郷とか名乗ってたよ」


「北郷…確か魏で天の御遣いと呼ばれていた人物…」 


半年前に天へと帰ったと聞いていたが戻ってきたのだろうか


「…よりによって魏の大物に見つかったね…」


「その北郷ってそんな偉いの?」


「間諜からの過去の報告では魏ではかなりの発言力を持っていて、策や政治に通じ国に新たな制度や法律をいくつも作った人物らしい…」


「げっ、おもいっきり国の重鎮じゃん…そんなお偉いさんがいったい何しに来たのさ?」


「…わからない…事前に洩れていた?…そんな訳…何か…目的が…?」


「どうせ偉い人の考える事なんて私達にはわかんないよ」


思考の海に沈もうとしていた冷包を呉懿の明るい声が押し留める


「…時々鳳濡の頭の悪さが羨ましくなる…」


「でしょ♪」

 


「…褒めてない」


「姐御!!伝令から報告だ!!どうも帰ってきた劉備軍の一部が白帝城に向かってるらしい!!」


「ありゃりゃ〜…しょうがないな〜、誰か!張任様のところに速馬出して!!」


「へぃ!」


「我々も急ぐ…先行している厳顔達と合流されては面倒だ…」


麟濡が後方へと視線を送る、その数300騎、皆劉璋軍時代からの仲間である


その仲間達への最後の号令


「聞け!皆の者!!」


全員の視線が冷包へと集まる


「ついに我等の悲願果たす時が来た!!」


みんなの顔を見渡す


「この1年、皆には辛い思いをさせた!親を、兄弟姉妹を、友を殺した劉備に仕える等、皆の怒りは私には計り知る事が出来ぬ程だろう!!」


頷く者や複雑な顔をする者など皆の顔つきは違う


「だがそれも今日で終わる!!劉備の頚を落とすべく作り上げた策により劉備の軍はもうすぐ瓦解する!!もう一押しだ!!」


「野郎共!!やっちゃうよ〜!!」


「「「おぉぉぉ!!」」」


「いざ!我等が城白帝城へ!…全軍!進めっ!!」


冷包、呉懿を先頭に騎兵が駆ける、目指すものは怨敵に仕えし敵…


………


……



蜀SIDE


人形達の攻撃を何とか防ぎ城に到着した劉備一行、現状報告を受けた朱里は皆を玉座の間に集めた


「…考えていた最悪の事態が起こりました、冷包さん以下三百騎の騎兵が偽善斬党側へ寝返りました…事前に情報が偽善斬党へと流されていたようです…」


「くっ…手紙の確認はしていたのか!?」


「商人に偽装した兵に直接預けていた可能性があります、流石にそこまでは調べる事は…すみません…」


「朱里ちゃんのせいじゃないよ…私が簡単に信用しちゃったから…」


「朱里や桃香様の責ではありません、我等も気が付かなかったのですからこれは皆の失態、皆で取り戻しましょう、朱里、現状報告を頼む、そのうえでこれからせねばならぬ事を話し合いたい」


 


冷静に状況を見極められるからこその軍師、今は反省より行動である


「わかりました、今の状況ですが偽善斬党へと寝返った冷包将軍、及び300騎の騎兵隊は全て元劉璋軍の者達という事がわかっています」


「内応に応じたという訳か…」


「もしかしたら最初から寝返るつもりでこちらの軍に士官したのかも知れません…」


「朱里、城下街に侵入っていた者達は?何か聞き出せんか?」


「残っていたのは全て人形でした、武器を持って動き回ってはいましたが武器を持っていない人間には攻撃しないよう指示をされていたようです、かなりの数兵士さん達に怪我人が出ていますがいずれも死亡に至るものではないとの事です」


「無用な殺しは避けたという事かしら」


 


「多分紫苑さんの言う通りでしょう、ただそれだけではないかと…」


「というと?」


「怪我の具合からどれもすぐに治療が必要なものが多く、多分怪我人の治療に兵を割かせてすぐに後を追えないようにしたのかも知れません」


「上手いな…我等の兵はどれくらいで立て直せる?」


「城内に残っていた兵の半数が怪我を負っていますので帰還部隊から城の護衛部隊へと移動してもらえれば動けるかと」


「では私が残りましょうか?」


「頼めるか紫苑?」


「えぇ、本当なら張任さんの性格を知っている私が行くべき何でしょうけど張任さんも私の性格はわかっているから…」


「裏をかかれると?」 


「えぇ、間違いなく、彼女と私では彼女の方が一枚も二枚も上手だと思うわ」


淡々と事実のみを語る紫苑だが唇を噛み締めている…普段は優しい母親でも将の一員、自分が及ばないのが悔しいのだろう


「…わかった、城は任せる、では桃香様…」


「私も行きます、みんなが頑張ってるのにお城で待ってるなんてできません!」


「で!ですがっ!!…」


「『王とは皆の後ろで控える者にあらず、王とは皆を導く指針となる者なり』だよ、愛紗ちゃん」


桃香の持てる精一杯を瞳に込め愛紗を見返す




「ふぅ…我が王は本当に難儀なお方だ、後ろで腰を据えるのも王の仕事だというのに…私が危険と判断したらすぐに下がってもらいますよ」


「私、愛紗ちゃんのこういう所好きだよ♪」


ギュッと抱き着く桃香


「な!?悪ふざけはおやめ下さい!!桃香様!あなたはもっと王としての自覚が…」


愛紗の説教が始まったので他の将達はすぐにそそくさと準備をし始める


…ぶっちゃけ傍に居ると要らぬとばっちりを受ける事になるからだ


「良いですか!?王という者は…で……から…」


しばらく続いた説教が急に小さくなった


「愛紗ちゃん?」


「…桃香様、貴女はもっと自分という者が国にとってどれだけ大事かを自覚すべきです」


ガミガミと怒鳴るいつものような説教ではなく説き伏せる様な言葉


「でも愛紗ちゃ…」


「わかっております、貴女が人の後ろで護られるばかりなど耐えられないのは…しかし貴女が傷付き倒れれば国が礎を失いその有り様を大きく変える事になりましょう、そうなっては貴女を慕う我等や民はどれほど苦しむ事か…」


「うん…」


「桃香様、心にお留め置き下さい、王としての貴女ももちろん大切ですが家族として、友として、そして平和を願い集まった仲間として貴女が我等は大切なのです」


「うん…わかった…危なくなったらすぐに逃げるよ…みんなに心配はかけたくないもん」


 


真摯に桃香を見つめていた愛紗だったがその表情が緩んだ


「貴女だからこそ我等は忠義を誓ったのです、貴女がそういう方だというのはわかっておりますからね…ですが注言をするのも臣下の務め、危なくなれば首に縄を掛けてでも逃げていただきます」


「わ、わかってるよ〜…」


一瞬目が本気だった愛紗に怯える桃香


「では参りましょう、朱里の事です、鈴々達が戻り次第行けるよう段取りしているはずです」


「うん、行こう、愛紗ちゃん」


…臣下と交わした言葉、それはやがて己が信念を貫く剣とならん…

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