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42話 一刀、新たに進むの事



…体がユラユラと揺れている


まるで波の中の海藻になった様な感覚


この跳ねる様な感覚が何とも…




「いってぇ!!!?」


「おぉ、目がさめましたかお兄さん」


…絶影の上だ、どうやら運んでくれてたらしい、蜀の娘達も一緒だ、でも


「…あれ?馬超さんは?」


「…翠…先に行った…野営地…」


「そっか、早く医者に見せた方がいいしな、ここから野営地ってどれくらいあるんだ?」


「もうすぐだよ、北郷さん、焚火、見えるでしょ?」


「あれか、結構な規模だなぁ」


まぁ一万の兵の野営地だから当たり前か


「北郷さんは着いたら朱里…孔明のところに来て、魏の将軍さんと相談したいんだって」 


「諸葛亮ちゃんが…じゃあ、風、涼華、先に行っててくれ」


「朱里ちゃんの所ですね〜、わかりました〜、蒲公英ちゃん、案内して下さい」


「兄…一刀様はどちらに行かれるのですか?」


「ちょっと馬超さんの様子をね」


遅効性の毒が混ざっていた可能性も否定できない、医者に見せただろうが一応様子だけでも…


「多分お姉様なら向こうの天幕だよ」


「ありがとう」


絶影は馬屋番の人に任せ、歩き出す


「…北郷さん!」


「ん?」


後ろから声がかかった


「…お姉様を助けてくれてありがと♪」


かわいく微笑まれてしまった


一刀は後ろ向きに手を振るだけで答えるのだった


………


……



さてと、この天幕だな、


「お〜い、馬超さんいるかい?」


「誰だよ?あたしは今誰にも会いたくないんだよ」


不機嫌そうにバサリと天幕を開けて顔を出す馬超


…目が合った瞬間


「うわゎ!?」


悲鳴と共にバッと天幕に隠れてしまう馬超…


「ちょっ!?そんな…」


「ごめん!さっきはほんっ、とうにごめん!!」


「あ、え?いや、あれは俺が悪かったし…じゃなくて俺は馬超さんの具合を…」


「大丈夫!もう治って腕も動く!だから心配しなくて良い!!」


 


「…そうか、なら…良かった、…これから会議みたいだから、気が向いたら…」


気配が遠ざかっていく


隙間を作って覗くと北郷は近くの蜀の兵士に道を尋ねている


その姿にどうしようもなく胸が痛んだ


柱にもたれ腰を下ろす


「…何してんだよ、あたし…」


一人頭を抱え馬超は呟いたのだった…


………


……



「…失礼します」


「あ、一刀さ〜ん♪」


「朱里、彼が北郷殿だ」


「はい、何度か公の場でお会いしてます」


「お久しぶりです、諸葛孔明殿」


「はわわ!?こ、これはご丁寧に!お、お久しぶりでしゅ!」…やべぇ、今のすげぇかわいい…


と、和んでいる場合ではない


「挨拶はこれくらいで、早速ですが現状を詳しく教えて下さい、孔明殿」


「は、はい、…では説明させていただきます、…現状ですが、蜀と魏、呉を繋ぐ国境は共に閉鎖、北郷さん達がいらっしゃるまでは実質孤立していました」


…管輅の言っていたのはこの事だったのか…蜀に起こる戦、ここで出会う始まりを告げる敵…


「…蜀を孤立させるほどの戦力…相手はいったい何者なんだ?」


「まだ核心は持てませんが多分相手は白帝城を根城にしている『偽善斬党』の首領張任さんです」


「張任…」 


『忠臣は二君に仕えず』の張任か、だとしたらかなり厄介な相手だ


三国志演義において劉備の入蜀を最期まで阻み続けた劉璋一の忠臣…


…後、確か演義だともうひとつ凄い事したような…


…こういう時はマイノート


ペラペラとめくり、劉備入蜀の辺りを開く



ノートを閉じる


「孔明殿、ホウ統殿は今どちらにいらっしゃいますか?成都の方…ですか?」


懇願に似た質問をする、頼む!そうであってくれ!


「雛里ちゃんですか?…そうですね、北郷さんにも今回の策の概要を知っていただいた方が良いですね」


「…策?」


「はい、実は魏へ援軍を要請に行く我々とは別に白帝城からの救援を妨害する為に厳顔さん、魏延さん、そしてホウ統ちゃんが向かっています」


「っ!!出発したのは何時だ!?」


「はうっ!?え、えと、さ、先程です!援軍要請の早馬が通った後ぐらいを狙って出発したはずなので途中で馬に休憩をいれさせて通ったならちょうど…」


よし!まだ間に合う!!


「風、涼華、すぐに魏の兵士で部隊を再編する、出来るか?」


「風に任せるですよ、まだ休憩には入っていないですから10分あれば集まるのです」


「よし、じゃあ涼華は再編した部隊を率いて成都へ向かってくれ、蜀の娘達と一緒にね」


「一刀殿は如何なさるのです?」


星の質問に対して一瞬間をおいて、


「…俺は白帝城へ行く」


「「「!!!」」」


 


会議用の天幕が一瞬ざわついた


「か、一刀殿!?無茶です!一人で行くなどっ!!せ、せめて蜀軍の準備が整うまで…」


「風、蜀軍の体制が整ってから追いかけるのと別動隊が白帝城に仕掛けるのどっちが早い?」


「強行軍でも一日足りないかと〜、白帝城は丘の上ですからね〜、兵の疲労を考えれば限界かと〜」


「…なら俺一人で強行した場合は?」


「むしろお兄さん一人でなく騎兵だけでの編隊で行けば半日ほど余裕があるでしょ〜」


「ならば我々が参ります一刀殿」


愛紗がすっくと前に出てくる


「元はと言えばこの戦は我々が至らぬばかりに起きたもの、一刀殿のお力添えは嬉しく思いますがこの件は我々の手で…」 


「…駄目だ、それはできない」


静かに、しかしきっぱりと言い放つ


「俺には引けない理由がある、誰になんと言われてもこれだけは変えられない」


「し、しかし…」


「…俺はさ華琳との約束を、いや、魏のみんなとの約束を俺は一度破ってしまってる…、華琳の望みを叶える為に現れて、魏の未来を支える為に現れたはずなのに、最後の最後で裏切った…だから、だからもう裏切るわけにはいかない、彼女達が望む全てを、俺が持てる限りの力で叶えいけないんだ…頼む、白帝城には俺を行かせてくれ、必ずホウ統ちゃんを守ってみせる」 


天幕内は一瞬静まり返った、北郷一刀という男がどれだけ大きな物を抱えてこの場にいたのかを知り誰も彼の態度に口を挟む事ができなくなっていた


「…一刀殿」


しばらくして口を開いたのは星だ


「貴方は蜀の人間ではない、それでも蜀と共にこの戦に参じる事で御身が危険に晒される、これを承知の上のご決断ですか?」


「もとより覚悟の上、俺自身の目的の為なら命掛けでやってやるさ」


「ならば私には何も申す事はありません、…桃香様」


キッと桃香の方に向き直る星


「我が槍を北郷殿に預ける事をお許し戴きたい、我が王よ」


ジャキッ、と音を立て星の前に槍が置かれる


「うん、一刀さんの助けになってあげて」深く頷く桃香


これが蜀の王とその王に仕える臣下の姿…昨日まであれほどいがみ合っていたとは思えない姿に俺は深く感動していた


「よし、では我々も…」


「愛紗、お主は桃香様を成都まで送らねばならぬだろう?」


「うぐっ…し、しかし戦力は多い方が…」


「ならば何もお主でなくとも問題はない、むしろ馬の扱いに長けた白蓮が来てくれた方が良いのではないか?」


「うぐぐ…」


悔しそうに引き下がる愛紗


「ほ、北郷も私が必要だと思うか!?」


「あぁ、馬に詳しい白蓮がいてくれれば心強いな、頼めるか?」


「ま、任せろ!馬の体調管理なら私ほど詳しい将はいないぞ!」


白蓮にしては珍しい気合いの入り方、久々の出番に張り切ってるらしい


「それじゃ星と白蓮、二人に力を…」


「ちょ!ちょっと待ってくれっ!!」


ドダダッと誰かが天幕に駆け込んできた


「あ、あたしも連れてってくれっ!!」


ガバッと頭を下げる


「さ、さっきはごめん!あ、あたしどうして良いかわかんなくて…」


「え、あ、い、いや、さっきの事なら気にしないで、もっ、元はと言えば俺が悪いんだし…」


そりゃそうだ緊急だったとはいえ胸に耳押し付けたのだから…


「い、いや、あたしの事心配してくれたんだろ?…えと…」


「あ、俺は北郷一刀、字とかないから北郷って呼んでくれ」 


「ほ、北郷…わ、わかった、あたしは馬超って呼び捨てで頼む、さん付けだとなんか違和感が…」


「わかったよ、よろしく馬超」


「あ、あぁ…」


「ま、待て翠!お主まで北郷殿に付いて行く気か!?」


「あたしは北郷に助けられた借りを返したいんだ」


「助けられたって、そんな大袈裟な…」


「いや、あのまんまだったらあたしはやられてた…ホントに感謝してる…だからあたしも連れていってくれ、北郷への借りは必ず返してみせる」


銀色の槍が鈍く輝く


「馬超…ありがとう」


「バッ、バカ!あんま見詰めるなよ!恥ずかしいだろ!?」等というやり取りをしたがあまりゆっくりともしていられない


「桃香、馬超も借りて行くけど良いかい?」


「騎馬隊の事は蒲公英の奴に任せてある、頼む!行かせてくれ桃香!」


「む〜…翠ちゃんまでなの〜…」


眉根を寄せて考え込む桃香、多分この後の事まで色々と考えているのだろう…さすが蜀の王だ、思慮が深い…


「…翠ちゃんまで…う〜…でも…雛里ちゃん…」


何かを思い立ったのか表情をキッと引き締め


「星ちゃん、白蓮ちゃん、翠ちゃん、一刀さんに力を貸してあげて」


「はっ!」


「任せろ、桃香」


「応!」


 


三人の返事を確認した桃香はコソコソと白蓮に近付いていく


(…白蓮ちゃん、星ちゃんと翠ちゃんを頼むね)


「へ?あ、あぁ…」


「お願いね?白蓮ちゃんだけが頼りなんだよ〜」


泣き付く桃香…なんと感動的な場面だ、ホウ統ちゃんの為にそこまで…


…なんとしてもホウ統ちゃんは俺が助ける、桃香、任せてくれ!


気合いを入れ直した俺の袖を誰かが引っ張る…とは言っても袖を引っ張って俺を呼ぶのは一名しかいない


「なんだい恋?」


「…恋も行く…一刀、…護る」


「恋殿!そんな汚い物に近付いてはいけませんぞ!」


「…恋の気持ちは嬉しいけど駄目だ」


「なんで?」顔を傾けて聞いてくる恋は純粋に意味がわからないのだろう、問い返してくる


「蜀で1番強いのは恋だ、だから恋には桃香の傍にいてあげてほしいんだ」


俺を信頼して三人も将を預けてくれたのに彼女自身を守る将まで連れていってしまっては本末転倒だ


「恋が桃香を守ってくれるなら俺は安心して向こうに行ける、頼めるか?恋」


「ん…恋、桃香守る」


「ありがとう恋」


撫で撫でしたくなるのを必死に堪え


「風、涼華、来てくれるな?」


「もちろんですよ〜、お兄さんが嫌と言ってもついて行きますよ〜」


「はい!我が戦斧は北郷様の敵を討つ為に振るわれる物!どこまでもお供致します!!」


「ありがとう二人とも…よし、桃香、魏の兵は指揮は蜀に従うように伝えておくからそのまま成都まで行ってくれ、 


魏からの援軍が合流したらそのまま指揮官に預けてやってくれ」


「わかりました、…気をつけてください、一刀さん」


「…ありがとう、…じゃ、行ってくる」


このままの未来などあってはならない、一刀は決意を新たに進む

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