38話 戦の狼煙、上がる
長坂橋から五里手前に布陣した張任配下と思われる五千の兵達は一概に覇気がなく正に死者のように立ち尽くしている
「うへぇ…なんかホントにお化けみたい…」
「確かに、ありゃあ人じゃないな」
「馬超さん!誰か出てきました!」
見ると向こうから前に進み出てきている影が一つ、どうやら舌戦を交わすつもりらしい
「アタシが行ってくる」
翠の言葉に不安になる蒲公英…
「お姉様大丈夫?前みたいに口で負けて士気落とさないでね?」
「うっせ!」
馬を前進させていけば向こうは自分より幼さを残す燃えるような赤髪の少女、なんだかこっちを見て興奮した様子で手を振っている
「わ!わ!わっ!!もしかして貴方錦馬超!?、すっご!!本物だ〜♪」
「あたしの事知ってんのか?」
「もちろん♪馬孟起と言えば他の群雄からも恐れられる蜀の五大将軍だよ!」
「そ、そうか?…そ、そんなに褒めんなよ…て、照れちゃうだろ…」
「事実だよ〜、わ〜い♪嬉しいな〜♪まさか錦馬超が相手なんてさ、強い人が相手なら手加減しなくて良いって姐御からは許可されてるし、久しぶりに本気でやらせてもらうからね」そう言って満面の笑みで馬首を返す少女
…間違いない、あの少女は『本物』だ、たたき付けられた殺気が警鐘を鳴らしている、殺り合うならば殺すつもりでいかねば死ぬのはこちらだろう
「…名前、教えていきな、あたしがこの世でお前の名前を覚えてる最期の人間になるんだろうからな」
ピタリと馬が停まる
「…本気で勝つ気みたいだね、良いよ、私、呉懿、字は子遠、馬孟起、貴女を討ち取る名誉、受ける機会をくれてありがとう」
「機会だけだ、あたしがあんたの首をもらう」こちらも馬首を返す、もう言葉など不要、後は殺すか殺されるかという理に従うだけだ
舌戦が壮絶になる事を予想していた朱里と蒲公英は予想外の静かな会話に安堵した
朱里は元々舌戦での士気高揚は目的としていない、むしろ相手の様子の変化に目を光らせていた
(…やはり士気には変化が無いですね、やはり人ではない可能性が高いか…)
「蒲公英ちゃん、翠さんが戻り次第左翼に展開して敵の側面を回り込みそのまま駆け抜けていって下さい」
「戦わないの?」
「はい、私達も翠さん達が橋を越えたのを確認次第退却します」馬の蹄の音、翠が戻ったらしい
「あ、お姉様、私達左翼配置でそのままかわして行けって」
「そっか、じゃあ蒲公英、そっちは任せた、あたしは残る」
朱里と蒲公英は驚いた
「お。お姉様!?」
「翠さん、どうする気ですか?」
「さっき出てきた赤髪の娘…呉懿って言ってたんだけどあいつ、無視して行ける程甘くないみたいだ、足止めしてくる」
「お、お姉様ぁ…」
蒲公英は不安そうだ…
「心配すんなって、あたしは殿についてあいつの相手をする、その間の指揮を蒲公英、お前に頼みたいんだよ」
「わ、私に指揮なんてできないよぉ!」
「今まであたしの指揮見てきただろ、大丈夫、あたしが保証する」
「蒲公英ちゃん、私からもお願いします」
「しゅ、朱里まで〜…」「翠さんの言う通り、あの呉懿という将軍が翠さんと勝負したがっているのでしたら橋を抜ける絶好の好機です、蒲公英ちゃんと翠さんの隊に二分して蒲公英ちゃんが渡り切れるまで翠さんが呉懿さんを抑えてくれれば救援を呼ぶ隊はかなり有利になります」
「な、蒲公英、みんなお前を信頼してくれてるんだよ、部隊の指揮、任されてみないか?」
「うぅ…責任重大…」
「心配すんなって、失敗したって他の奴らが必ず補ってくれっから、だろ?みんな!」
周りの兵達がにこやかに笑みを浮かべ応!と声を返す
「みんな今まであたし達について来てくれたやつらばっかだ、戦ならお前以上に慣れてる、蒲公英が間違ってもみんながなんとかしてくれる、蒲公英、みんなを信じろ」
難しい表情からキッと顔色を変える蒲公英
「…うん、わかった、私に任せて、お姉様!」
「…あぁ、頼んだぞ!蒲公英!」
法螺が鳴る、他の隊の準備が整ったらしい
「よし、あたしらも行こう、途中呉懿の部隊と会ったら指揮から外れるからな」
「うん…じゃあみんな行くよ!」
「「「応!!」」」
…開戦を告げる銅鑼が青空へと響き渡った…
最近携帯の調子が悪くしばらく更新ができませんでした、読んで下さってる皆様には大変ご迷惑をかけたものと思い、この場を借りて謝罪を述べさせて頂きます、大変申し訳ありませんでした