29話 街はお祭り…ただその前に
ここは魏と蜀を繋ぐ1番大きな街道、洛陽から1番近い宿場街である
魏と蜀の最高責任者達の交流は街道にかなりの潤いをもたらす宿泊施設経営者にとっても大きな効果をもたらした
護衛の一般兵士百名と首脳陣数名が街道に点在する宿屋数軒を貸し切り状態で進むわけだから年に2〜3回の巨大な収益である
「外お祭りみたいだね〜♪みんなも見に行こう♪」
「桃香様!我々は遊びに来たわけではなく蜀の代表として来ているのです!それに我々には遊ぶ為の余分なお金などありません!」
「えぇ〜、一刀さんとお祭り行きたいよ〜、行こうよ愛紗ちゃ〜ん」
「良いではないか愛紗よ、我々は大役を果たし、帰路に就いたところ、息抜きぐらい構わんではないか」
「星!呑みながらでは説得力に欠けるぞ!」
「あぁ〜星ずるいのだ〜!もうお外行って来たのだ!鈴々も行きたいのだ〜!」
「…恋も…行きたい…」
「恋殿!愛紗の様な堅物など放っておいて音々と参りましょうぞ!」
「…音々音…そういう言い方…だめ…愛紗…頑張ってる…」
「うぅ…恋殿ぉ〜!」
「詠ちゃん…私達はどうしよう…」
「桃香次第だけど桃香が行きたいならそれに従うだけよ」
愛紗にみんなの視線が突き刺さる…
コンコン
「今大丈夫?」
「は〜い♪」
カチャリと戸を開け一刀が入ってくる、風と涼華も一緒だ
「あのさ、外でお祭りやってるみたいだからみんなで行かない?」
愛紗が盛大にずっこけた
「か、一刀殿!」
「やった〜♪」
「お兄ちゃんからのお誘いだから仕方ないのだ♪」
「我々も今行こうかと相談していたところです、一刀殿」
「あらあら、愛紗ちゃん、反対出来なくなってしまったわね」
「愛紗は反対なのか?」
「我々は遊びに来たわけではありません…祭ではしゃぐ姿などを見られては魏の民に蜀を軽んじられてしまうやも…」
「う〜ん…かわいい女の子がはしゃぐ姿見たら軽んじるより一緒にはしゃぎたくなると思うけど…」
「皆が皆一刀殿のようには考えないでしょう」
「ならみんながみんな愛紗のような考えでもないわけだよね?」
「うっ…」
「…俺が前に華琳に言われた事なんだけど、街に何があるかとかあったかとかは報告書と地図を見ればわかるけど、どれくらい活気があってどんな人達がいるかは自分の目と足で知らなければわからないって言われたんだ、俺はそれ聞いてなるほどなって思ったんだ、華琳は玉座から民を眺めるんじゃなく民と同じ場所から民と同じものを見極めようとしてたんだ」
「…この祭を見聞きする事も政の一つだと?」
「政はちょっと言い過ぎかな、俺はただ自覚したいだけなんだ、魏の人達の顔を見て『自分のした事がこの笑顔に繋がってるんだ』とか『これだけの人が俺達の正しい政を待ってる』てのを自分の中に留める確認作業みたいなものだよ」
「…自覚、ですか」
「だから愛紗達も、ね?」
「…一刀殿の考え方には大変感心しました、わかりました、蜀一行、お供致します」
「愛紗〜、行って良いのだ?」
「皆で一緒にだ!鈴々!!」
「やったのだ〜!!」
猪突猛進な勢いで出ていく鈴々
「わ〜い♪みんな、早く、早く♪」
桃香が他の蜀のみんなを引っ張って行く、残ったのは俺と愛紗のみ
「愛紗、ありがとう」
「何がですか?一刀殿」
「わざと折れてくれたんだろ?じゃなきゃあんな拙い説明でなんか納得出来ないさ」
その言葉に首を横に振る愛紗
「いえ、私は一刀殿の言葉に素直に感服したまで、他意はありません」
「ハハッ、かの関雲長からお褒めいただけて光栄だなぁ」
苦笑する一刀に愛紗はずいと顔を寄せ
「私は本当に貴方の言葉に感服したのです!」
一刀は視線を泳がせて…
「あ、愛紗…それは嬉しいけど…」
「けどなんです!?一刀殿はもっと自信を…」
「イヤ!違う!そうじゃなくて…その…胸が…」
「胸?」
一刀と愛紗の視線が違いの胸元に集まる
「………」
「………」
「……き」
「…き?」
「キャ〜〜〜!!!!」
バキッ!!
「うごぉ!?」
愛紗の強烈なストレートが左頬を襲う
そのままバタバタと出ていく愛紗
「…やっぱり女の子だなぁ…力は凄いけど」
…このまま一緒に行っても何事もなければいいなぁと思う一刀だった