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10話 涙の後は…

 


「一刀ぉ〜!!」


飛び込んで来た霞を受け止め切れず座り込んだ


「一刀ぉ〜!!一刀っ!一刀ぉ〜!!」


胸元で泣きじゃくる霞を抱きしめ


「ただいま、霞…」


もう一度帰ってきた事を告げる


きゅっと抱きしめた彼女は三年前より細い気がした…


………


……



「…そか、ウチらはまだ半年しか経っとらへんけど天の国では3年経ったんか…どおりで胸板とか厚なっとるわけや」


俺の胸に背を預けながら座る霞


事情を聞くとこうだ


1、俺は三年経ってるがこっちでは一年しか経ってない


2、三国同盟は良好、現在劉備さん達が来ていて二月後には魏の将達の半分が呉に行く予定


で、 


↓が一番大事


3、みんなが俺が居なくなった後、抜け殻のようになってしまったらしい…


「ウチを含めてみんな、一刀がおらへんのが信じられへんかった、互いの前で一刀の話は禁句やったし部屋で泣いとったのはウチだけやない…」


胸元に回した俺の腕をぎゅっと掴む霞の手は震えていた


「…でももう大丈夫なんやろ?もうずっと傍に居てくれるんやろ?…もうウチらの事…離したりせぇへんやろ?」


振り向いた薄い紫の瞳が揺れている…涙が溜まって今にも零れそうだ


「約束する、もう勝手に居なくなったりしないよ」


そうだ、俺は約束しないといけない、彼女達を残して消えるわけにはいかない


「一刀…」 


霞が目を閉じる


「霞…」


二人の距離が近付き…






突然の爆音が響いた


「北郷ぉぉぉおお!!!!」


ドドドドドドドドド!!


「北郷ぉぉお!!」


「春蘭!!」


馬がかけて来る、そこには薄桃色の服を来た彼女が


「死ねぇぇえ!!」


大太刀を構えて突っ込んで来ました…てっ!?えぇ!?


「嘘ぉ!?」


ブォンという擬音が聞こえる太刀の一撃に対し、俺は霞を横に払いのけ、鐵斎を下から打ち上げる


ガキンッ、と火花が散った


「なっ!?」


俺が跳ね返すなど思わなかったのだろう


のけ反った春蘭が馬の背から落下する…危ない!!


咄嗟に春蘭の落下位置に飛び込む、ずざざ〜、っと地面を滑りながら春蘭の真下にダイビング、腹に響いた激痛が春蘭を上手くキャッチできた事を告げる


…ただし、キャッチした手が何と言う偶然か彼女の胸をわしづかみしていた…



「…ほ、ほん…ごう…」


…あぁ、懐かしいな…いつもはこのまま…強烈な一撃で意識が…


「…北郷ぉ…ホントに北郷なんだな?帰って来たんだな?」


…何時ものが無かった


「…あぁ…ただいま、春蘭…」


「うぅぅ…北郷ぉ…」


「惇ちゃん…酷いで…ウチの邪魔してぇ…」


霞が少しむくれっ面だ


「「「隊長ぉ〜」」」




…この声は


「凪!!沙和!!真桜!!」


「私もいるぞ、北郷」


「あぁ、秋蘭も…」 


…三人娘は俺の周りで涙を流して喜んでくれてる


それが嬉しい


「隊長ぉ…ひぐっ…」


「隊長ぉ…ウチら、ずっと待っとったんやで…」


「もうなくならないで欲しいのぉ〜…」


三人の気持ちに俺も精一杯の誠意で応える


「…ゴメン、もう勝手にいなくなったりしない」


「「「隊長…」」」


「良く戻ったな、北郷」


「あぁ、ただいま…秋蘭」


…ただ少し出掛けていただけのような秋蘭の気軽い挨拶にどうしようもなくホッとしてる俺


…あぁ、ここが俺の居場所なんだ…これが俺の1番の幸せなんだ…


しかしそう思った瞬間不意に不安になる…彼女は…俺に居場所をくれた王はもう一度俺に居場所をくれるだろうか…


ドドッ、ドドッという蹄の音


それはいつも隣で感じていた名馬の蹄の音


かつて影すら置いて行くと言われ、影を絶つ馬という名を冠した最高の名馬、乗りこなすはただ一人


俺が忠誠を誓ったただ一人


「ようやく戻って来たようね、北郷一刀」


華琳としてではなく曹孟徳としての言葉、俺もそれに対し相応の臣下としての礼を…



「…華琳、綺麗だ…」



…返せなかった


「なっ!?か、一刀っ!?」 


見た瞬間に考えていた謝りかたのパターンなど、全て吹っ飛んだ


まさか俺のプレゼントした服で来てくれるなど誰が想像出来ようか


「渡した後着てくれないから気に入ってもらえなかったのかと思ってたよ…うん…やっぱり良く似合うよ、華琳」


そういって絶影に乗る華琳を抱きしめた


顔を真っ赤に染め口をパクパクさせる華琳に俺はただ一言


「ただいま、華琳…」


それ以上の言葉など今は不要だ


華琳は俺に曹孟徳としての威厳を見せ、俺がいなくなったのを断罪するつもりだったようだが完全に出鼻をくじいた


んで結局…


「おかえりなさい…一刀」 


覇王曹孟徳としてではなく華琳という一人の少女として俺が1番欲しかった言葉をくれた…


…しかし世の中上手くはいかない


せっかくできた良い雰囲気は


「兄ちゃ〜ん!!」


「兄様ぁ〜!!」


季衣と流琉(妹二人)がぶち壊してくれた


…あぁ、ありがとう、これでこの後機嫌の悪い華琳とも会えるよ…


…しかし泣いてる二人に文句も言えない、心配かけたのは俺なのだ


「ただいま、季衣、流琉」


「兄ちゃ〜ん!!」


「兄様…おかえりなさい」


右腕は季衣の涙と鼻水でベショベショ…左腕は流琉にガッチリと握りこまれみしみしなる位痛い、だが今はこの仕打ちに堪えよう、彼女達の思い、俺は受け取らねばなるまい


「心配かけてごめんな、二人共、もういなくなったりしないからな…」


そして季衣と流琉の様子を眺める二人組が影にいる


「うらやましいですね〜、風は素直ではないから季衣ちゃんや流琉ちゃんの様に甘えられないのですよ〜」


「ははっ、我々は完全に出遅れた様ですね、風」


季衣と流琉と一緒に来た風と稟だが如何せん武将の手綱捌きについてはいけず、結局二人に置いていかれ一刀に抱き着くタイミングを逸したのである


「ただいま二人共、二人もこっち来てくれよ」


「おやおや、気付かれていましたか…お兄さんからのご指名では行かねばなりませんね」


いそいそと移動する風に苦笑しつつ


「貴女も大概素直になれないのですね、風…」


久しぶりに笑顔の親友の後ろを歩く


「はいは〜い、前は季衣ちゃんと流琉ちゃんに譲りますのでお兄さん、背中をお借りしますですよ」


背中におぶさるようにもたれて来る風はいつものマイペースさだ


だがその表情は凄くご機嫌で…


…みんな俺の帰還を喜んでくれてる…


「嬉しいなぁ…」


…ここに帰れたのが、みんなが傍にいるのが、みんなが喜んでくれてるのが


泣かないつもりだったのに、両目からは自然に涙が流れていく


「まったく…人前でそんなみっともない顔で泣かないでくれる?こっちが恥ずかしいわ」 


…この毒舌も懐かしい、帰って来たって気がする


「…ただいま、桂花」


「…こっちは願い下げだけど仕方ないわ、帰って来たのならまた華琳様の為に尽くすが良いわ」


「あぁ、ありがとう桂花」


…あぁ、やっぱり俺はみんなが好きなんだな…今度は桂花とも仲良くなれるようになんて考えてるどうしようもない女ったらしだ



でも良いや、今日はこの喜びを存分に噛み締めよう…


君達との新しい日々は


…まだ始まったばかりなんだから

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