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4話 異世界の神と

 俺は共に魔王と戦ったかつての仲間たちの骨と遺品を、一人分ずつ魔王城の外に運んだ。



 すべてを運び終えた俺は地面に穴を4つ堀り、それぞれに骨を埋めてその上に十字架を立てて遺品を飾った。



 墓が綺麗に整った後、俺はその墓の前で祈りを捧げる。



 4人が安らかに眠るように、そして一緒に戦ってくれたことに感謝して――。



 天地之剣はその様子を空中に浮いたまま何も言わずに見ていた。



「国王軍は魔王城付近に来ていなかったのか?」


「我が知る限りでは勇者一行のみが魔王に戦いを挑むためにこの領域に足を踏み入れたはずだ。我の封印が解かれた時も、誰もこの領域にはいなかった」



 リフィアの知る情報との不一致。


 問題は、なぜ国王が真実を隠したかだ。



 死闘の果てに勝利したのは俺と大切な4人の仲間だったはずだ。



 それを隠し、手柄を国王軍のものとしているというのなら、目的が何であれ良心的な理由ではないはず。



 そして、そんな連中がこの世界に足を踏み入れ始めたという事実。



 俺は、確かめなければならないだろう。


 そのためには……。



「天地之剣はこれからどうするつもりなんだ?」


「我はエルドラークの存在。本来は異界に出向くべきではないが、今は我にも理解できぬ事象が起きている」



 天地之剣は空中から地上に降りてきて俺に近づいてくる。



「我も汝のいる世界を調べたい。しかし、魔王城からつながる次元の門の出口は汝の部屋だ。したがって、汝に断りを入れるのが筋というものだろう」


「それなら、俺も協力するよ。それで、俺はアストリア王国の連中が何を考えているか知りたいんだ。もしアストリア王国に行くのなら、戦う手段を持っていた方がいいと思うんだ」


「ほう、ならば我が力を貸そう。我と契約すれば、実体化した我とその能力を使うことができる」


「そんなことができるのか?だったらぜひお願いしたい」


「よかろう。契約の儀はすぐに終わる」



 天地之剣は持っていた刀を鞘から抜き、俺に渡してきた。



「その刀を、左の手の平に刺せ。刀が消えるまでだ」


「刺すってこのままか?」


「案ずるな。汝の体が切れることはない」



 俺は慎重に左手に刀の先を当ててみた。



 すると、刀は俺の皮膚に当たった場所からどんどん俺の体へと消えていく。



 その現象は始まってから段々と勢いづいていき、刀の柄の部分まで俺の体の中に入ってしまった。



「これで左手から刀を抜くように意識すると刀が出現する。鞘はもう必要ないな」



 天地之剣の持っていた鞘は一瞬にして消えた。



 俺は、試しに左の手の平に右手を握って当て、刀を引き抜くイメージをした。



 すると、さっき俺の体に入っていった刀が出現し、俺の右手に握られて引き抜かれていく。



 不思議な現象に慣れてきた俺は驚くことなく、この刀をどう使えばいいのかを考えていた。



「俺は刀の使い方なんて知らないぞ。それに能力が使えるって言ってたよな?」


「汝は忘れているだけで武器の使い方を知っているはずだ。それに、我の能力で動きの補助ならできる。刀を構えてみろ」



 俺は不慣れながらも言われた通りに刀を構えてみた。



 その瞬間、刀の前にある空間に亀裂が入る。



 そして、刀がその空間に吸い寄せられるようにして、俺は刀を振った。



「我の能力は空間の裂け目をつくるというものだ。これで動作の補助ができる。だが、この能力の使い道は多い。単純なもので言うと切った物を異空間に飛ばすことができる」


「どうすればその能力を使えるんだ?」


「空間の裂け目をつくるイメージをしながら切るのだ。しかしこの能力は使いこなせるようになるまでは危険ともいえる。特に自身の体を空間の裂け目に飛ばしてしまう可能性があることがな」



 天地之剣は平然と物騒なことを発言し続ける。



 だがこの能力はかなり強力なのではないかと使う前から予想がつく。



 やはり異世界の神というだけあって、特別な力を持っているということだろう。



「この刀に名前はあるのか?」


「刀は実体化した我自身だ。敢えて区別するなら天地刀(あまちがたな)と呼ぶがいい」


「刀なのか剣なのかはっきりしないな」


「形は我自身が作り出したものに過ぎない。刀の形の方が空間の亀裂の能力を発動しやすいのだ」



 俺は何度か天地刀の能力を使って様々な物を切ってみた。



 空間の裂け目を発生させることは簡単にできたが、その位置のコントロールは少し難しいようだ。



 基本的には、切った箇所より少し前のあたりに空間の裂け目が発生する。



 空間の裂け目へと入った物は、跡形もなく消えてなくなってしまった。



「この能力は天地之剣の意思でも発動できるんだよな?」


「我の意思による発動には限界がある。範囲も刀の周辺に限られている。戦う時は基本的に汝の手で発動しなければならない」


「そうか。それと、さっきから気になってるんだけど、俺のことは優って呼んでくれないか。もう少し俺たちもお互いを信頼し合えた方がいいと思うし」


「よかろう。ならば優よ、我の力を手にした今、何を成し遂げようというのだ?」


「エルドラークのことをもっとよく知るまでは、戦う練習をするくらいだな。世界で何かが起きるかもしれないし」



 俺は手に持っていた天地刀を再び左手に収納する。



「エルドラークの世界に行くことがあればアストリア王国の現状を見てみたいものだな。我が封印されている間に何が起こったのか知る必要がある」


「俺のいる世界とも交流が始まるはずだよ。そういえばもう一つの次元の門から来た集団はどうなったんだろうな」



 俺は久々に家や晴ヶ丘市のことを思い出す。



「というか、今何時だ?母さんが晩御飯の準備をしてくれているんだった!忘れてた」


「忙しないな。我との契約を忘れるでないぞ。我は常に優を見ている。我に用があるときは左手から我を出せ」


「分かった、また刀の使い方を練習しにくるよ」



 俺は急いで魔王城に戻り、次元の門から家へと帰った。

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