第壱加速
さて、これからどうしたものか。全くもってノープランだ、ユーロはおそらく使えない、つまり俺は所持金がない。食料もなければ、寝床もない、金の稼ぎ方も分からない、だが幸い文字や言語は日本語のようだ、勉強しておいて良かった...
「とりあえず街を歩いて回るか...」
金を稼ぐ方法を探すことを第一に考え、その他この世界に関する情報を探そう。
この中世的な街の大通りを歩いていると、市場らしき場所についた。ここはとても賑わっているようだ。
「タッカ一匹14テスカだよ!!主婦の皆さん、買わなきゃ損ですよ!!」
「焼きたてのバケットはいかがですか~、一本7テスカですよ~」
どうやらこの世界の通貨はテスカというらしい、おそらく1テスカ0.08ユーロ(10円)だろう。ということは、ユーロが使えないことは確定してしまった。
これでまた一つ気分が下がったが、とりあえずテスカを稼ぐ方法はあるはずだ、「魔獣が出たぞ!!」俺が落胆していたらそんな風に叫ぶ男が現われた。市場の空気は一変した。魔獣?そんなバカな、ここは現実だ...
ん?待てよ?ここは現実であっても異世界だ、そして異世界転生系の小説じゃあそんなのが出ても仕方がない。ということは嘘ではない、じゃあ今俺と周りの人たちはとても危険な状況下に置かれているはずだ。
「ヤバいぞ...」逃げなければ...「待ってください!!、あそこに私の娘が...!!」ふと魔獣の方を見る、体長3メートルはあるであろう巨体は、ゴリラのような姿をしている。
だがそいつの拳を見ると、なんと10歳にも満たないであろう女の子が握られていた。「クッソ...」前では数人の男性が棍棒を持って立ち向かっている、だが彼らでは救出は出来ない、2年程近代剣士として働いてきた俺の勘がそう言っている。
―――――あの子とこの場の人々を救ってあげなさい―――――
「...!?」透き通るような女性の声が聴こえてきた、どこか聞き覚えのあるような馴染み深い声だ、誰かは分からないが多分ここは俺が出るべきなのだろう。
俺は剣の柄を握り、魔獣のすぐそばまで駆け寄った、
「皆さん、この場から離れて、こちらを見ないことを推奨します」
俺はそう言った、そうするとそこにいた人たちはその場を離れ、多くの人がそっぽを向くか、目をつぶった。
「お嬢ちゃんも目をつぶったほうがいいよ」
俺は捕まっている女の子にもそう言った、そうしたら絶対に見ないぞと言わんばかりに強く瞼を閉じた
俺は腰を低くして、いつもの戦闘態勢に入る。剣を鞘から勢いよく抜き、魔獣に重めの斬撃を一発深く入れる、そうすると魔獣はあっけなく血を吹き出しながら倒れた。
そのまま魔獣の手から落ちてきた女の子を両手でキャッチする。「皆さん、もう大丈夫ですよ」
そう言うとそこにいた人たちは一斉にこっちを見て称賛の声を上げた。
俺は少々照れながらも手を振った。「あの...私の娘を救ってくれてありがとうございます!!」さっきの女性だ、きっとあの子の母親なのだろう。
「いえいえそんな...」あまり横柄な態度は取りたくないので、控えめなコメントをしておく。「この御恩は一生忘れません!!」そういって彼女はさっきの女の子と共に去っていった、俺も高揚した空気からこっそりと抜け出し、別の場所に逃げた。
「フゥー...やっと落ち着いた場所に着いた...」そこはあまり人通りのない所だった、大きめで綺麗な家が並んでいるから、ここは高級住宅地なのだろう。
夕焼けが見える、早くテスカを稼ぐ方法を見つけなければ。「てかさっき魔獣倒したんだしそこでチップ貰えばよかったんじゃ...」報酬も考えずに魔獣に突っ込んだせいで後のことを考えてなかった。
なんてしょんぼりしてのろのろと歩いていると、突然何かに腕を掴まれて、「ちょっとこっち来て」そう何者かに言われ、腕を引っ張られた。
連れて行かれた先は、路地裏の小さな家だった。俺の腕を引っ張ったのは俺より2,3歳下であろう女の子で
「さっきの見たわよ、とっても強いみたいだけどあなた一体何者なの?」
そう質問された、当たり前だ、突然現れて魔獣を一撃で倒したわけだから「いやまぁフラ...じゃなくて東の方の国からやってきたんだよ」一瞬フランスと言いそうになったが、怪しく思われそうだったので適当に返しておく。
「へぇ~東の方からか~」そう言いながら、部屋の中心にある机にオムライスのような料理を置いた。
「あなた...お腹空いてるでしょ?」それは否定できない。「まぁ結構な...」ちなみに言うと机に置かれた出来立て料理を見て更に腹が減ったまである。「これ食べなよ、私の得意料理なんだ。」味はともかく見た目は満点なのでそうさせてもらうことにした。
恐る恐るスプーンで料理を口に運ぶ、すると口の中一杯にとても美味しいものが広がった。
「滅茶苦茶うまいぞこれ!!」お世辞抜きで美味い。「気に入ってくれた?」「勿の論だ」できるならこの味を毎日楽しみたい、そう思えるほどだ。
そもそもフランスではずっと一人暮らしで、飯はずっとレトルトだったり、外食だったりで自炊はほとんどした覚えがない。だから、こう言った手作り料理はどこか懐かしく感じるところがある。
ほんの数年前まではこれが当たり前だったのだが。
「私の名前はヘズヴェラ、ヘズヴェラ・ビレワンド、あなたの名前は?」
「俺はノルニス・エインワーン」
まぁ飯も食わせてくれたわけだし名乗るくらいはしとかないといけないな。「ねぇノルニス?さっき東の方から来たって言ったわよね?てことは泊まるとこは決まったわけ?」それを今探している最中だ。
「いや、決まってないし、しばらく自国に帰るつもりもない。」
「そうなの?じゃあ屋根裏部屋が空いてるからそこで寝泊まりしてもいいわよ。」
「え、ほんと?そんなの悪いよ...」
「いいのいいの、どうせお金もろくに持ってないんでしょ?」
ギクッ...なんで分かったんだ...些か気が引く部分もあるが、寝泊まりできる場所が確保できるみたいだし、ここはその言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃあ遠慮なく借りさせてもらうよ。」
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