085 元勇者を思う者達
「おいおい、あんなの出鱈目過ぎんだろ……」
ザンダーは王都を覆い尽くしてる黄金の光りを見ながら呆れた口調で呟く。
そんなザンダーの隣りに顔中冷や汗をかきながら、目の前の光景に驚愕している者がいた。
それは、ザンダーと共に転移魔法で謁見の間から逃げた魔族の男だった。
「……あの規格外の力……勇者アレスは生きていたというのか?確か北の魔王の配下の魔族と人族によって殺ろされたんじゃないのか?」
「実際、死んでるだろうよ……」
「じゃあ、あれはなんなのだ⁉︎」
「俺と同じ亡霊だ……」
ザンダーはそう言いながら王都の方から目を逸らすと、近くにあった岩を殴って破壊する。
キリク……いや、勇者アレス。
ここまで力の差があるのかよ!
精霊王ケーエルの神殿の時より遥かに強えじゃないか!
ザンダーはある人物に見せてもらった魔導具に保存された精霊王ケーエルの神殿でのキリクとテドラスの戦いを思いだす。
そうか、二つの宝具のおかげか……。
いや、そんなの関係ねえ。
宝具があろうがそれ以上に強くなれれば良いんだ。
ザンダーは不敵な笑みを浮かべると魔族の男の方を向く。
「ヤシャール、そろそろ行こうぜ」
「承知した」
ザンダーとヤシャールと言われた魔族の男は、少し離れた場所に止めてある馬車に移動すると、馬車の御者台に座っていたタクロムが降りて手を振ってきた。
「いやあ、ザンダーさん、凄かったですね」
「お前もしかしてわざわざ魔導具で見てたのか?直接見りゃ良かったじゃんか……」
「いやあ、私にはあれは少し目の毒でしてえ」
「ああ、そういえばそうだったな。しかし、その魔導具は相変わらず便利だな。後でもう一度、テドラスとの戦いのやつを見せてくれよ」
「良いですよ。なんなら城の中の戦いも見ておきます?」
「お、良いねえ。じゃあ、馬車の中で見るか。ところでマルーは大丈夫か?」
「ええ、ぐっすり寝てますよ。ただ、むさい男連中に囲まれるのは可哀想だし、もうこの姿でいる必要もないので元に戻りますね」
タクロムはそう言うと指を鳴らす。
するとタクロムの姿が変わっていき、腰まで伸びた黒髪に赤い目をした妖艶な女になった。
その姿は手配書にも載っている魔女の加護を持つ女、カーミラだった。
「はあ、元の姿に戻るのは久しぶりだわ……」
カーミラはそう言ってゆっくりと背伸びをした後、深呼吸をする。
「確か……一カ月振りだったか?」
「ええ、本物のタクロムと入れ替わってすぐザンダーに会いに行ったのが確かそのぐらいかしら。そしてヤシャールはこの姿は初めましてかしらね?」
「ああ、黒き魔女カーミラよ」
「カーミラでいいわ。では、お二人共これから一カ月間お願いするわね……」
「ああ、任せろ」
「黒き魔女に従えと魔王様の御命令だからな。しかし、カーミラよ、新たな魔王を作り出すなど面白い事を考えるな」
「少し錬金術を勉強してたら思いついたのよ……。それで、テドラスという醜い豚で実験したら見事に上手くいってね。ああ、でもその前にクズ連中で沢山実験をしたのは内緒ね」
全く罪悪感もない様子でカーミラはしーっと指を口元に持っていきながら妖艶な笑みを浮かべる。
そんなカーミラにザンダーは苦笑しながら手をすくめるが、ヤシャールは興味なさそうに馬車の中で眠らされているマルーを見ながらカーミラに聞いた。
「カーミラよ、この小娘が魔王になった場合、我らにも操れるのだろうな?」
「ええ、大丈夫よ。そういうのをものもの含めての一カ月間だから焦って儀式を行わないでね」
「承知している。まあ、我にできることがあれば言ってくれ」
「ふふ、ヤシャールは他の魔族みたいに高圧的じゃなくて良かったわ……。じゃないと私苛々して絶対殺しちゃうから……」
「魔王様はそれを理解して高圧的な態度を取らない上位の魔族である我を選んだようだぞ」
「魔王様には感謝ね。さあ、話はそろそろ終わりにして出発しましょうか」
「承知した」
「わかったぜ」
そう言うとカーミラ達は王都を離れ西側へとゆっくり旅立つのであった。
そんなカーミラ達とは逆に王都に急いで向かう集団がいた。
その集団は中央に色々な事を学びに行っていた、ブレドの息子達が乗る大きな馬車とそれを護衛する騎士団だった。
そんな彼らが乗る馬車が急いで向かっているのは、少し前に火の手が上がっているスノール王国を遠くから見たからだった。
「くそ!まだつかないのか⁉︎」
スノール王国の国王であるブレドの息子、第二王子のブレイスが苛々した表情で怒鳴る。
するとその隣りにいた第一王子のアラミスがブレイスの肩に手を置き諭す様に話しかけた。
「ブレイス、落ち着くんだ。最悪、私達が落ち着いて対応しないといけなくなる」
「で、でも⁉︎」
「ほら、彼女も心配そうに見ているぞ」
「なっ⁉︎」
アラミスはブレイスの対面に座っている、人物を見て顔を赤らめ黙ってしまう。
そんなブレイスを見て対面に座っていた人物は苦笑いを浮かべるが、その意味を理解しているのかアラミスは苦笑しながら軽く手を合わせてくる。
「サリエラ殿、弟がお見苦しいところを見せてすまないな」
「いえいえ……」
サリエラは心の中で溜め息を吐く。
馬車が魔物に襲われてたので助けたら感謝され、更に行き先が同じだったので半ば強制的に乗せられてしまっていたのだ。
行き先が一緒でも断りたかったけど、王族じゃおいそれと断れないわよね……。
はあ、キリクさんはもう着いてるはずだから心配だなあ……。
サリエラはちらちらと見てくるブレイスと目を合わせない様、馬車の外から見える風景を見る振りをしながら頭の中でキリクの事ばかりを考えるのだった。
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