080 道化師の勧誘
俺に深く首を斬られたワーロイとケイは、首から血を吹き出しながら口をパクパクさせた後、倒れて動かなくなった。
念には念をだな。
俺は二人に近づきダメ押しで順に心臓にナイフを刺し確実に止めをさしておく。
気配もないしこれでもう大丈夫だろう。
ワーロイもケイも正直好きにはなれない奴らだったが、元仲間を殺すのは良い感じはしないな……。
俺は一息吐くと、ワーロイが持っていた剣を掴みブレド達の方を見る。
二人はどうやら道化師の変則的な動きに苦戦をしている様で、悪態を吐きながら戦っていた。
「くそっ、ホワイトラビットのように跳ねやがって!」
「ベアード、落ち着け!奴の思うつぼになるぞ!」
「ずいぶん苦戦してるな」
俺はブレド達の戦いの合間を狙って合流すると、ブレドが申し訳ない顔をする。
「キリク、すまん。あの道化師が思った以上に強いというかおかしい」
「見た目通りという事だな」
そう言いながら俺は跳ね回っている道化師を見ていると、急に俺達から離れ、手から風船を出して浮かび上がった。
「おやおや、あのお二人さんはあ……やられちゃいましたかあぁぁ⁉︎残念んーーんでえーーす‼︎しくしく」
道化師はそう言ってふわふわと宙に浮かびながら泣き真似をしだしたが、すぐに真顔になる。
そして風船を離して地面に降り立つとゆっくり俺達に向かって歩いてきた。
「なんかあぁ、あなた達と遊ぶのは飽きましたねえ……。そろそろ、裏切り者をねえ、やっつけに行きたいんですけどおぉ。そこで、あなたですよおぉ」
道化師は俺を指差してニコニコしながら滑るようにこちらに向かってきた。
だが、それを邪魔する様にベアードが横から斬りこんでいく。
「お前の相手は俺だろ‼︎」
「あ、邪魔ですうぅ」
道化師は、ベアードの攻撃をオーバーに避けると、虫をたたくようにベアードを叩いて数メートル吹き飛ばしてしまうが、ベアードはその巨体に似つかない動きで空中で一回転して地面に着地する。
「くそっ、なんて力だ!鎧がへこんじまったしゃねえか!この、糞道化師が‼︎」
「大丈夫かベアード⁉︎」
「ああ、肋骨を何本かやられちまったがな」
「私の邪魔したからじゃないーーですかあ!」
ベアードのおかげで俺の近くで止まった道化師は、手足をバタバタさせ怒ったポーズをするが、すぐにやめると俺に挨拶をしてきた。
「私、スペードのクラウン、ピエールと言いますーーう」
「……知ってるが道化師でいいだろう」
「まあ、いいんでーーすがあ、あなた、私の仲間になりませーーん?」
「はっ?」
道化師の突然の勧誘に俺は一瞬思考がとまりかけたが、また、すぐに道化師が話しかけてきた。
「だからあ、私の仲間でーーすよお」
その時、近くにいたブレドが動こうとした為、俺は手をかざし動くなと合図する。
なぜなら闇人とは本来会話が成立はしないが、今の道化師なら情報が得られる可能性があると思ったからだ。
俺はそう思いながら道化師に声をかける。
「ワーロイ達の様に闇人にってことか?お前達みたいに狂いたくないからお断りなんだがな」
「いえいえいえ、私のようにチャーミングにならなくても良いんですよおぉ。あの裏切り者がなりたいって望むものになるのもありでーーす」
「裏切り者……ザンダーの事か?」
「おっぞましい名前を言わなーーいで下さいよぉ。はい、ザンダーさんです」
「東の魔王から力をもらえるということか?正直、魔王バーランドから力はもらいたくないんだが……」
「なーーら、時間はかかりますがあ、西側でどーーですかあああ??なあぜなーら……一カ月後に新たな魔王様の降臨儀式をしまーーす!パチパチパチパチッ‼︎」
「……一カ月後か」
こいつの言葉をまともに信じるわけじゃないが、おそらく降臨儀式に時間がかかるのだろう。
そうなると、最低でもマルーは一カ月は命の保証はあるってことだから、後から追っていっても十分に助けにいける余裕があるって事だな。
俺は聞きたい情報を知れたので終わりに疑問を道化師に投げる。
「ちなみに、なぜ俺を誘うんだ?」
「あなた、ザンダーさんと同じですからねーーえ」
そう言いニヤニヤする道化師の言葉に一瞬、俺の心臓が高鳴る感覚がした。
俺がザンダーと一緒……。
確かに俺もザンダーもお互いに前線で戦える力をなくした冒険者だ。
そしておそらくザンダーも冒険者以外に生きる道を知らない男だろう。
だが、それよりも、この道化師は俺の正体を知ってるのか?
「お前が、俺の何を知っている?」
「知りませんよお。でもお、あなた欠けてますからねーーえ。それはそれは今まで見たことないぐらい綺麗に真っ黒い穴がでーーすよおぉ。だから、堕ちたらあなたとてつもなく強くなれますよーーお!」
欠けてる……。
確かに俺は色々と失くして魔に魅入られやすい状態なのかもしれないが……。
だからといってザンダーみたいに魔王の力を借りてまで俺は強くなりたいとは思わない。
そもそも、俺は今の状態をそこまで悲観してるわけでもない。
そうなるとこいつが見てるのは俺の心ではなく、魔王にかけられてる呪いの部分がそう見えてるのかもしれないな。
なんせ勇者の加護を抑え込むぐらい強い呪いなのだから、こいつには黒い穴に見えるのだろう。
「……悪いが、俺は魔王の力を借りてまで強くなりたいとも思わない」
「えーー!強く強く強くなれるんですけどねーー‼︎まあ、残念です。勧誘失敗ですねーー」
「お前はザンダー側の魔族達と戦う駒を増やしたいだけだろ」
「そうですよーーお!魔に魅入られるのはとっても良いことなんですが、私を裏切るのは酷くないですかあああ⁉︎まああ、私が勝手に動いちゃったからなああんですけどおぉ」
「なら、お前が悪いんだろ。それに俺と同じようにお前との会話が面倒になったんだろう」
「えええーー酷いでーーす。私悲しくえぇ、死んじゃいますよおぉ、だからあ、かわりに死んで下さいねえ」
道化師はそう言うと急に雰囲気が変わり不気味に俺に笑いかけるのだった。
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